5−33話:雪 side
「ぁ……えぅ、あ……」
言葉になってない言葉を口にする圭人さん。
体はガクガクブルブル震えていて、まるでおばけでも見ているかのような反応だった。
「すみませーん……あれ、空色じゃん。何してるの?」
不意に、控え室の扉が開いて、ライブハウスのTシャツを着た春歌さんが入って着た。そして、すぐに視線が私の背中にいる空色に向いた。
「お、おつかれ」
「あ、そうか。デートの帰りか。楽しかった?」
「う、うん。すごく」
「それは良かった」
いつも通りの姉妹の会話。まぁデートの話をしたから、空色も春歌さん相手だけですごく恥ずかしがってる。そんな様子をみて、春歌さんも春歌さんでからかってるようだけど。
「春歌ちゃんの、知り合いなの?」
驚いてる一人である胡桃さんが春歌さんに尋ねた。
状況を知らない春歌さんは、胡桃さんや南さん、圭人さんがどうしてそんな反応をしているのか少し疑問だった。
実は。と、春樹さんが春歌さんに事情を説明した。
「あぁそういうね。この子は私の妹なのよ。可愛いでしょ」
「妹?」
「そう言えば、桜和って」
「そうそう。で、もちろんこの二人が付き合ってるも知ってる」
にっこりと笑みを浮かべながら、私と空色の肩を抱く春歌さん。
これはこれでちょっと恥ずかしい気がする……
「そっかぁ、春歌の妹ちゃんか。確かに何と無く似てるね。雪凪いいなぁこんな可愛い恋人がいて。羨ましい!」
最初こそ驚いていた南さんだけど、すぐに受け入れて私たちの元に駆け寄ってきた。
胡桃さんと圭人さんはまだ驚いてるというよりは、戸惑っているようだった。うん、あれが多分……普通の反応なんだと思う。
「さて、空色。雪凪に連れてこられたんだと思うけど、準備の邪魔になるから時間までエントランスで行こう」
「あ、うん」
「またね、空色」
空色は、春歌さんと控え室を出て行く。
軽く手を振れば、彼女も照れ臭そうに軽く手を振ってくれた。
何気ないそのやりとりがひどく胸を締め上げる。
——— あぁ今日はいい演奏ができそうだ……




