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歌詞(こころ)から掬いあげる言葉(きもち)  作者: 暁紅桜
5章:秋離れ、彼女と感じる冬の熱
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5−22話:空 side

「まぁ、空色くしなったらそんなことがあったの?」

「あっ、あれは……」

「私は嬉しかったよ」


4人でテーブルを囲んでのお話は、最初に比べたら随分盛り上がった。

基本的に、お母さんのテンションが高いからある意味女子会みたいになっているけど、お父さんも最初よりは口を開いて話に混ざっている。

紅茶は無くなって、テーブルの上のお菓子もなくなった。

とりあえずカップ以外の食器を片付けて、空になったカップに新しく注ぎ直す。


「それじゃあ、今日君を呼んだ理由を話そうか」


入れ直した紅茶を一口飲んで、お父さんがそう話を切り出した。

その言葉に、私も、隣に座っている先輩にも緊張が走る。和気藹々と話していたけど、やっぱり変だって思われてるかな……


「事前に空色から話は聞いている」

「はい」

「結論から言おう。私も妻も、君たちが付き合うことに反対はしていない」


その言葉は正直嬉しい言葉だった。そのはずなのに、思っていたよりもあっさりと言われて変な感じがした。


「もちろん驚きはした。同性で付き合うというのはいまのご時世珍しいことではないが、まさか身近に……娘の相手がそうだとは思わなかった」


お父さんの視線が私の方に向く。

申し訳ない気持ちで、私は俯いてしまった。

偏見や認識はなくても、いざ目の前に現れれば考えに少しのひびはあると思う。

娘しかいない父としては、娘には普通の幸せを望んでいたのかもしれない。


「ただ、もしかしたらと……可能性は感じていた」

「可能性、ですか……」

「あぁ。空色が女性と付き合うことだ。頭の片隅の方にあったことだがな」

「え……」


お父さんから、あまりにも予想外な言葉が出て、ただ唖然としていた。

隣でお母さんも頷いていて、二人ともそう思っていたことにただただ驚きを隠すことができない。


「昔から引っ込み思案で男が苦手。恋愛に関しては少し不安を感じていた。しかし……」


お父さんの視線が先輩に向き、ふわりと笑みを浮かべる。

ぁ……私は何を感じているんだろう。二人が思っていた可能性が現実になった。だからと言って、否定されたわけじゃない。むしろ両親は、そんな私が女性相手とはいえ、好きな人ができたことを喜んでいるんだ。なのに私は、両親に対して信用されていなかったんだと、勝手にネガティブなことを考えてしまった。


「えっと……認めてもらえたのは私も嬉しいです。ありがとうございます。ただ、一つ確認したいのですが、いいですか?」

「なんだい?」

「……同性同士で付き合うということは、子供を生むことはできないです」


真剣な表情で先輩は父にそう言った。というのに私は、頭の中で先輩との子供のことを想像してしまって顔を真っ赤にした。いや、子供できないんだから想像したところで意味はないのだが……


「もちろんそれはわかっている。だが、自分の子供の幸せ以上に大事なものはないと、私は思っている。空色が幸せなら、孫の顔を見れなくてもいいと思っている」


父が、優しく笑みを向けてくれる。あまり感情を表情に出す人じゃないから、たまに見せるそういう表情には胸が苦しくなる。

あぁ、私ちゃんと愛されてるんだ……ちゃんと、お父さんもお母さんも私のことを想ってくれてるんだ……


「お父さん、お母さん……」


そういえば、認めてくれたのに私はまだ何もいえていない。

ちゃんと言わないと……ちゃんと、口にしないと……

込み上がる感情を必死に抑えながら、私は二人に視線を向ける。


「ありがとう……私ね、すごくいま幸せだよ」


好きな人なんてできないと思っていた。男の人も、人付き合いも苦手で。

でも、やっとできた好きな人。その相手を、両親が心から認めてくれたことが嬉しい……あぁ、本当に私は幸せ者だ……

隣にいた先輩もホッとしたのか、少しだけ深く息を吐き出してソファーに寄りかかった。

来た時からずっと緊張してたから、肩の荷が少し降りたかな?


「現実になるかはわからないけど、日本でも法律的に認められるといいわよね」

「そうだな。そうすれば、盛大に式も挙げられるしな」

「そうよね。空色は素敵なウエディングドレス。雪凪ちゃんも似合いそうだけど、どちらかというとタキシードの方が似合いそうね」


目の前で、両親が何やら楽しそうに想像を膨らませている。

なんだかそれが恥ずかしくて、私はアワアワしながらそれを止める。


「そうなるといいですね」


必死に止めていたせいで、隣にいた先輩が少し照れながらそんな言葉を呟いていたことに、私は気づかなかった。


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