5−21話:雪 side
空色のお母さんが台所の方に行ってしまって、今リビングにいるのは私と空色のお父さん。
どうしよう、何話そう……さっきからずっと黙ってるし……お母さんは思ってたよりも、嫌悪感?っていうのかな……娘が女の子と付き合ってるってことに対して、気にしてる感じじゃなかった。
でも、さっきからお父さんは黙ってるし、やっぱり怒ってるのかな……どうしようどうしようどうしよ……
「君の曲を聴いたよ」
「え……」
この家に来て、初めて聴いた空色のお父さんの声。その第一声を聞いた瞬間、確かに驚きはしたが私としては別のスイッチが入った。
「う……う……ふ……」
「え……あ、な、なんで泣いているんだい!?」
「すみません……あの……枝垂桜さんに曲を聴いてもらえて、嬉しくて……」
そう、目の前にいるのは空色のお父さんだ。だけど、別の見方をすれば、私も父もずっと憧れていたあの枝垂桜さんが目の前にいる。
「わ、私……父がきっかけで枝垂桜さんの曲をたくさん聴いて、自分でも曲作り始めて、だからその……ありがとうございます」
「……ライブも見たよ。いい曲だ……演出も悪くない」
「ありがとうございます!」
「そうだな。この前の曲、サビに入る前に少しゆっくりにしてみると、そのあとのサビが盛り上がる」
「……あ、はい!」
さっきの一言をきっかけに、さっきまで沈黙状態だったリビングが明るくなる。
曲の話をするのはやっぱり楽しい。しかも、相手はあの枝垂桜さん。どうしよう、また嬉しくて涙が出てきた……。
そういえば、体育祭の時もそうだった……空色のお母さんは随分と話し上手だけど、お父さんは逆に口数が少ない。雑誌も、あまり多くは話さない人だって書いてあった気がした。
「……急に呼び出したから緊張しただろう」
「え……」
不意に言われた言葉に、私は顔をあげた。すると、どこか申し訳なさそうな表情をしていた。
その表情を見て私は思った。そっか、もしかしたら空色のお父さんも何を話そうか考えていたのかもしれない。
口数はあまり多い方でもないし、もしかしたら自分から話をするのが苦手なのかもしれない。そう思うと、少しだけ気持ちが楽になった。
やっぱり、空色の両親はとても優しい人だ。
「いえ……」
本当は緊張していたことは言わなかった。
だって、娘さんと付き合っている。しかも相手が女の子だ。断られるんじゃ無いかと思っていたからだ。
「お待たせしました」
「ごめんなさいね、時間かかっちゃって。ついでに、お菓子ばかりじゃいけないと思って軽食も作ってきたわ」
台所から戻ってきた空色とお母さん。
テーブルにオレンジの香り漂う紅茶が置かれ、空色のお母さん特製のサンドイッチも置かれた。
「お話は食べながらしましょう。それに、内容は別に悪い話じゃ無いですし。むしろハッピーな話」
少女のような無邪気な笑みを浮かべる空色のお母さん。その表情を見たら、少しだけまた緊張が和らいだ。
軽く手を合わせて私はつぶやくように「いただきます」と口にして、サンドイッチに手を伸ばした。




