5−19話:雪 side
「大丈夫……大丈夫……大丈夫……落ち着け……」
体育祭翌日。今日は平日だけど、振替休日ということで私たちはお休み。いつもだったら家でのんびりするか、曲作りをしているかだけど……今日は人生で一番の緊張をしている。
「あ、雪凪先輩」
ドクドクと激しく動く心臓が、その声を聞いた途端に一瞬止まった。ような気がした。
振り返った先には、私服姿で笑顔を浮かべる空色の姿があった。
彼女の姿を見た瞬間、ぎゅっと胸が別の意味で苦しくなって、そのまま抱きしめてしまった。
「ふにゃっ!せ、先輩!」
「やばい……緊張する……吐きそう……」
「え!だ、大丈夫ですか!?」
今、私がここ、学校の最寄駅にいるのには理由があった。
昨夜、空色から「明日、うちに来てほしいんです」と連絡があった。
特に断る理由もないし、会えるなら会いたかった。だけど、その後の内容が私を緊張させる。
《両親が、先輩と話がしたいらしくて》
思い出すのは体育祭でのこと。
去り際、私は空色のご両親に付き合っていることを伝えた。しかも、後々氷華に聞いたけど、その時のことは空色の耳にも入ったようだった。
つまり私は今から、ご両親に「娘さんをください」という彼氏の立場ということだった。緊張しないわけがない。
なかなか寝付けなかった。緊張と不安で、気持ちが全く落ち着かない。
大事な娘さんが付き合っている相手が家にくる。しかも相手は女性だ。反対しない理由がない。うちが特殊なだけだ。
「ふふっ、冗談だよ。全く空色は可愛いなぁ」
「え!冗談だったんですか……?」
「え、本当に吐いてほしかった?」
「違います」
いつも通りのやりとりのおかげか、少しだけ気持ちが落ち着いた気がする。
ムッとする空色の優しく撫でてあげれ、そのままの表情で私のことを見てくる。にっこりと笑みを浮かべれな、今度は空色から抱きついて来てくれた。そんな彼女の頭を優しく撫でてあげて「行こうか」と声をかけた。




