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歌詞(こころ)から掬いあげる言葉(きもち)  作者: 暁紅桜
2章:手にした水桜の彼女
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2−4話:雪side

「あれ、雪凪せつなこんなところで何してるの?」

「帰らないの?」

「うん。ちょっと人を待ってて?」


 GW前の午前授業が終わり、私は昇降口近くの階段にいた。すれ違う同級生たちに帰らないのかと聞かれるたびに、私は笑って“人を待っている”と答えた。

 すぐに帰ろうとも思った。だけど、不意にあることを思った。


 待ってたら“水色の桜”さんに会えるんじゃないか。


 一度中身を確認したが、何も入ってなかった。だけど妙に私の中で、待っていれば会えるような気がした。確信はない。気のせいなのかもしれない。それでも、私は会えるかもしれないという期待から、しばらく階段で待っていた。

 スマホをいじりながら待ち続ける。時間が立つに連れて、人の数は少なくなっていき、今は誰もいない。


「やっぱり、勘違いだったのかな?」


 授業が終わってから一時間が経っている。もしかしたら帰ってるかもしれない。深々とため息をついて肩を落とす。

 と、不意に足音が聞こえて私は顔をあげた。

 辺りをキョロキョロする女子生徒。桜和おうかさんの姿があった。


「こんな時間まで何してるんだろう」


 同じクラスの製菓部の子が、今日は部活がないことを話していた。特に残るような問題を起こすような子じゃないし……日直?それとも先生に手伝いを頼まれたとか?


「あっ……」


 そんなことを考えている時、彼女は一学年の下駄箱ではなく、私の学年の、私のクラスの下駄箱へと歩いて行った。私は足音を立てないように近寄り、彼女の様子を伺った。


 彼女が見つめる先は、私の下駄箱。そして、手に握られているのは一枚の手紙。その様子を見た瞬間に、何かがはまったような音が聞こえ、私は納得した。


 気づけば、私は彼女の腕を掴んでいた。

 驚く彼女に、私はあまりの嬉しさで思わず……


「みつけた」


 そう口にしていた。

 まだ驚いていて、というか少しだけパニックを起こしている桜和さん。私は不意に、彼女が手にしている手紙に目を向ける。いつもの場所に描かれているマーク。あぁそうか、そういう意味だったんだ……ちゃんと、送り主の名前は描かれていた。


「桜のマークは、苗字の“桜”和から。色の水色は、名前の“空色”から」


 徐々に、彼女の中での戸惑いが直ってきたのか、上がっていた肩は下がり、少しだけうつむいた形になる。


「なんで、分かったんですか……」

「ギリギリまで分からなかったよ。会えるかもっていう不確定な感覚で待ってただけ。でもね、色々と思い当たることはあった。で、最終的なものは、私のわがまま」


 その内容には、さすがに恥ずかしさを感じる。だって、桜和さんが私の下駄箱の前にいた時に思っちゃった……。


「桜和さんがいいなって思ったから」


 今思えば、手紙から彼女が使用したローズウォーターの匂いがしたから、ちょっと疑いはした。でも、確信がなかったから気にもしなかった。だけど、今思えばもう少し考えるべきだったと思う。だって、ずっと会いたかった人ともう会っていたんだから。


「ぁ……あ、うっ、嬉しいです」


 小さな悲鳴とともに、その場に蹲る桜和さん。しかも泣き始めちゃったから、私はどうしていいか分からず、ただただあたふたするだけだった。


「……ます」

「え?」

「歌ってくれて、ありがとうございます」


 そう、彼女は泣きながら笑顔でそう言ってくれた。

 お礼は、こっちが言いたい。あんな素敵な歌詞を私にくれてありがとうって。


「こちらこそ」


 その気持ちを、その一言に込めて私は彼女に伝えた。


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