5−8話:空 side
「ただいまー」
あの後、しばらくして何とか家に帰れた。
道中、頭の中であの事を思い出して恥ずかしくなってしまって、周りにバレないようにと必死に隠してた。
何とか家に帰れたけど、顔赤くなってないかな。
「あ、空色おかえり」
「ん、ただい……」
いつものようにお姉ちゃんにそう返そうとしたけど、そこにはお姉ちゃんだけじゃなくて他に二人の姿があった。
「おかえり」
「おかえりなさい」
少しだけ無表情にそういうお父さん、にっこりと優しい笑みを浮かべるお母さんの姿があった。
「二人とも帰ってたんだ……」
「あら、意外と落ち着いた返答ね。賭けはお父さんの勝ちね」
「空色はそんなに子供じゃない」
「いや、結構驚いてるよ。連絡くれればよかったのに」
「ホラー、だから行ったじゃん二人とも。きっと、連絡くれてたほうが、無邪気に喜んだよ」
ケタケタと笑うようにそういういお姉ちゃん。
結構落ち着いた反応をしたけど、内心結構驚いてる。
こんな風に家族全員が揃うのはいつぶりだろう。
二人とも仕事が忙しくて滅多に家に帰れないから、本当に嬉しい。
「さて、空色も帰ってきたし晩御飯にしましょう」
「あ、手伝うよ」
「だーめ。空色は着替えてきな。それと、いつも空色がご飯とか作ってるんだから、こういうときぐらいお母さんに甘えなよ」
「そうだぞ空色。それに、母さんの楽しみを取るもんじゃないぞ」
「あら、よくわかってくれて嬉しいわ。そういう事だから、お母さんの楽しみ取らないで、空色」
「……うん。じゃあ着替えてくるね」
みんななりの気遣いかな……まぁでも、こういうときぐらいはおとなしくいうこと聞こうかな。せっかくの家族水入らずだし。
着替えを済ませて、久々に家族でテーブルを囲んでの食事。
普段はそんなにそんなに喋る方じゃないけど、やっぱり家族との会話は楽しくていつもよりたくさん話をする。
学校のこと、友達のこと。
先輩のことはなぜか話せなかった。
「そういえば、明日は体育祭でしょ。空色」
「え……あぁうん」
「実はね、お父さんもお母さんも、あした見に行けるの」
その言葉に、ただただ驚いた。
今まで両親が行事に参加したことはなかった。
できたとしても、どちらかだけ。二人一緒なんてことはなかった。
嬉しい……すごく嬉しい……
「お父さんったら、気合い入れて新しいカメラ買ったのよ」
「母さんだって、気合い入れて材料買い込んでいただろ。そんなに食べれんぞ」
「ふふっ、大丈夫よ」
何だか二人とも楽しそう。あんなに楽しみにしてくれてるなんて……
うん、明日は頑張ろう。そう気合が入った。
そのとき、不意に隣にいたお姉ちゃんが私の方を叩いた。
何だろうと私が振り返る前にお姉ちゃんが私の耳元で囁いた。
「雪凪と付き合ってること言わなくていいの?」
気のせいかもしれないけど、一瞬視界が暗くなったような気がした。




