第六話 捨て猫の未来は
(どうしよう…大変な事件なのかな…すぐ行ったほうがいいのかな…)
ミケは、大きな事件があると思い、心の中で戸惑っていた。
「やれ、片付けよ〜かね」
春子おばちゃんは、そう声をかけた。
ミケは、いきなり言われてビクッとした。
(なんだ…お皿の片付けか…)
ミケは少し「ほっ」とした。
「ミケ姉、どうしたの?」
ミケが、あたふたとしている事が分かったのか、マロは首を傾げながら聞いた。
「あ、なんでもないよ!」
ミケは、無理やり笑って見せた。
マロは、安心したのか「なら良かった!」と言い、ごま爺とドックフードの話をし始めた。
ふと見ると、モモは一匹で寂しそうに座っていた。
(よし、まずモモちゃんに言ってみよう!)
ミケは、早速モモのところに行って、「窓際に行こうよ!」と、モモに呼びかけた。
「う…うんっ!」
モモは、嬉しそうに頷いて、ミケについて行った。
「ねぇねぇ、モモちゃ…」
「モモたんね!」
モモは、そうミケの声を遮って、笑顔で言った。
「うん!モモたん!」
(モモたんなのね…)と思いながら、苦笑いをした。
モモは、にっこり笑った。
「なぁに?」
二匹は、少しの間笑い合って、本題に入った。
「ねぇ、モモたん。あそこ、猫森見て!
なんか…森がざわざわしてない?」
ミケが、猫森の方を指を指しながら言うと、モモも指している方へ目をやった。
「本当だ!どうしたんだろうね?」
モモは、森をまじまじと見ながら言うと、ミケの方を見て首を傾げた。
「ミケの予測では、何か大きな事件がある気がするんだけど………」
ミケが、気まずそうにそう言った。
「え!?そうなの!?」と 、モモが、外まで聞こえるくらいの、バカでかい声で驚いた。
ミケは、あまりの声の大きさに「わぁっ!」と声を出して驚いて、「ハッ」としてキョロキョロと周りを見た。
すると、ごま爺とマロが、大きな声に驚いたようで、どんぐり目玉でこちらを見ていた。
…数秒間、その場の空気が固まった。
その様子を見ていたモモが、「ぷっ」と吹き出し、「マロ。目、飛び出るよ?」そう言ってクスクスと笑い始めた。
ミケも、つられて笑ってしまった。
その空気が、一瞬にして変わった時、ミケは、ふと壁の真ん中に付いている時計に目をやった。
(今は2時23分か〜…
もうそろそろ、ここから出ないといけないなぁ。)
ミケは、ここから出ることも考え始めた。
…
ミケは、幼い頃からミケ兄とお父さんに、人間の言葉や数字を、教えてもらっていたから、大体は分かるのだ。
…
「モモたん。もうそろそろ、ここから出たほうがいいのかなぁ。」
ミケは、小声でモモに聞いた。
「う〜ん…」
モモは、なんとなく時計を見ながら考えていた。
「マロとごま爺にも、聞いてみようよ!」
モモはそう言い、微笑んだ。
「そうだね!」
ミケはそう言い、二匹の方に行った。
「ねぇねぇ、マロ〜ごま爺〜。もうそろそろ、帰ったほうがいいのかなぁ…」
モモは、そう二匹に言うと、ミケをチラッと見た。
ミケは、(ミケも何か言って、ってことかな)と思い、三匹に向かって言った。
「どうする?だいぶ体の調子も良くなったし…」
ミケがそう言うと、マロは「まだドックフード食べたいよ〜!」と駄々をこね始めた。
「はぁ〜、困ったもんだ。」とミケとモモは顔を合わせた。
それを見たごま爺は、「マロくんや、もうそろそろ帰った方が、いいんじゃないかの」と言った。
マロは、「え?」とした顔になりながらも、「ヤダ、ヤダ、ヤダーッ!」と駄々をこねた。
「マロくん。またここに来てくれたら、いつでもドックフードをご馳走するから。
飼い主さんも待っているんじゃないかい?」
ごま爺は、優しく言った。
マロにそれが伝わったのか、「うん…」と下を向きながら寂しげに言った。
「よし。じゃあ玄関まで送って行くかな。」
ごま爺は、マロを和ませながら玄関まで、案内してくれた。
「本当にもう回復したかの?」
ごま爺は、振り返りながら、心配そうにそう言った。
「大丈夫!丁寧に看病してくださったから!」
ミケは、そう言うと、モモに目をやった。
「モモも!二人にありがとうって伝えておいて!」
「……」
マロは、すっかり落ち込んでいた。
「まぁ元気出して!」
ごま爺とミケとモモは、そうマロに言葉をかけて、微笑んだ。
「…うんっ!」
マロは、励ましてもらって元気になった。
「じゃあね!ごま爺!」
マロは、一番にごま爺にとびっきり笑顔でそう言った。
「じゃあの。」
ごま爺は、笑いながら言った。
「ばいばーい!」
三匹が笑顔で言った。
「元気での。」
ごま爺はそう言って、ミケたちが見えなくなるまで、にっこり笑顔で見送っていた。
その時だった。
バタンッ
その直後に、春子と秀夫の声がうっすら聞こえた。
「ごまちゃん!ごまちゃん!」
「おい!ごま!しっかりしろ!おい!」
…
猫山駄菓子屋店を後にした、ミケ達三匹は猫街に向け歩き出した。
猫町までは、大きな道をまっすぐ進めば、着く事をミケは知っていたが、どうにも猫森の方が気になって仕方がなかった。
「ねぇ、寄りたいところがあるんだけど…」
ミケは、気まずそうに言うと、猫森の方に目をやった。
「うん、良いよ!」
マロとモモは、顔を見合わせ、元気にそう言った。
「じゃあ、行こう!」
三匹は、体の向きを変えて、猫森の空き地を目指した。
…
静かな空気が苦手なミケは、歩いている途中でも九郎兵衛や、ごま爺、知っている猫友達のことを話し始めた。
「九郎兵衛はねぇ、」
ミケが話し出すと、二匹は「何何〜?」とすぐに聞いてきた。
「九郎兵衛は、せんべい屋さんに、少しお世話になっててね、奥さんが仮の名前で黒って名前にしたんだけどね、旦那さんが『せっかくせんべえ屋だからって言って、せんべえのべえをとって、九郎兵衛にしたんだって!」
ミケが、九郎兵衛の名前の由来を「シッシッシー」と笑いながら言った。
…
ミケは昔、九郎兵衛に「恥ずかしいから、あんまり他の猫に言うなよ!」と言われたからだ。
しかし、九郎兵衛は「九郎兵衛」と呼ばれても、決して怒る事はなかった。
「九郎兵衛言うな!」と言って、恥ずかしそうにそっぽを向くだけだった。
ミケは、九郎兵衛が実は「九郎兵衛」と言う名前が好きな事を知っている。ただ九郎兵衛は、照れ臭いだけなのだった。
…
「へぇ〜、九郎兵衛って、変わった名前だなぁ〜って思ってたんだけど、そう言う意味があったんだね!ちょっと感動した〜!」
モモは、うるうるとした目で言った。
「??」
マロは、話について行けずに首を傾げるばかりだった。
「次は〜…」
ミケは、楽しそうに「誰にしよう」と選んでいた。
もちろんモモも「誰誰〜?」と興味津々だった。
「じゃあ、ごま爺ね!」
ミケは、モモの顔を見てそう言った。
「おー!また名前の由来がいいな〜」
モモはキラキラした目で言った。
「うん!じゃあ、ごま爺がごましおになった理由ね!ごま爺は、駄菓子屋さんのペットで、本当はゴマって名前だったんだけど、海の潮愛護センターにお世話になっているから、海の潮愛護センターのしおを取って、ごましおになったんだって〜!」
ミケが言い終わると、モモは「ヘェ〜。」と言いながら、ミケを見ていた。
「そうなんだねー!モモ、愛護センターの名前すら知らなかったよ〜!」
と、モモは言った。
「あ、あはは…」
ミケは、そう苦笑いをしながらマロに目をやった。
マロは、また話に乗れてなかった。
ミケの目線にきづいたモモは、マロに目をやった。
「マロ、ちゃんと話の意味わかってる?」
モモは、マロに首を傾げながら聞いていた。
「え?き…聞けてたよ??」
マロはそう焦りながら答えた。
「ふ〜ん…」
モモは、鋭い目つきでマロを見ていた。
「絶対嘘だ〜!」
モモは、どうやらマロの嘘を見ぬいたようだ。
「ぐぬぬ…」
マロは見抜かれて少し悔しそうにしていた。
…
「この近くだよ!」
ミケは、ずっと気になっていた事件の予感よりも、マロとモモに、お気に入りの空き地を紹介したい、と言う気持ちが強かった。
「分かった!」
三匹は、森の中をトコトコと歩いている。
すると、静かなスッキリとした空気が流れ出してきた。
「わぁ、ここ、すごい!」
モモは、目を輝かせながら、キョロキョロしている。
「そうだよ、ここは私のお気に入りの場所なんだ。
そうだ、ここでちょっと休憩して行こうよ!」
ミケは、二匹を見ながら、満面の笑みでそう言った。
「そうだね!そうしよう!」
みんな、大喜びで空き地に散らばった。
その時だった。
「ミー……ミー……。」
どこからか、弱々しい子猫の声が聞こえてきた。
「あれ?子猫の声がする…!」
一番初めに、ミケが気づいた。
「本当だ!どこから?」
二匹も気づいて、声のする方に行ってみた。
「あ!?1、2、3…子猫が六匹もいる!?」
ミケが木の後ろをのぞいたら、『拾ってください。』と書いてある段ボールと、その中に入れられている六匹の子猫が見つかった。
「どこどこ??」
マロとモモは、ミケの方へと近づいてきた。
「うわぁ!可哀想に…」
モモは、涙目でそう言った。
「本当だね!捨てた人ってひどい人だね!」
マロは、そう言って子猫のことをまじまじと見つめた。
子猫は、ブルブルと震えていて、痩せこけていた。
「どうしよう…このままじゃ、この子たちが凍え死ぬかも…
そして早くミルクをあげなきゃ!」
モモは、そう言って、ダンボールをこっちに引いてきた。
そして、ダンボールの、底に敷いてあったタオルを引っ張り出して、一匹一匹にくるんでやった。
「あとは、ご飯だけど…」
モモは、心配そうに言った。
「じゃあ、急いでマロくんモモたんの、お家に帰ろう!」
ミケは、二匹の顔を見ながらそう言った。
「じゃあ、この子たちは、みんなで協力して連れて帰ろう!」
マロは、そう子猫を見ながら言った。
「うんっ!」
二匹の返事が、息ぴったりだったので、少しクスクス笑いながら、ダンボールの近くに集まった。
「じゃあ、この段ボールをみんなで押そう!」
ミケは、そう言って、二匹の顔を見た。
「うんっ!」
三匹は、早速子猫たちの安全を考えながら、ミケの思いついた方法を試す事にした。
「よし!じゃあ行こう!」
ミケは、二匹の顔を見て、広場から、猫森の出口に向けて進んでいった。
「ふぅ、結構体力使うね〜。」
子猫が入ったダンボールはやはり重くて、三匹はとても体力を使っていた。
「子猫ちゃん達、もうすぐだから頑張ってね」
ミケは、子猫に気遣いながら声をかけた。
「ミー、ミー」と子猫が返事をした。
(まだ大丈夫みたい。)
三匹は、子猫の声に顔を見合わせてホッと胸を撫で下ろした。
その時、「あ、猫森の出口まで来た!やった〜!」っと、マロは、声を上げて、森を見上げた。
「本当だね〜!じゃあ、猫神社に向かって、もう一踏ん張り行きますか。」
ミケも森を見上げながら言った。
「おー!」
二匹は、思いっきり気合を入れて、猫神社に向かい歩き始めた。
…
猫森を抜け、子猫達の体調を考えながら、休憩を取りつつ慎重に進んでいた三匹だったが、猫街に近づき、見知った景色が目に入ると、みんな気分が楽になった。
「今度はいつごま爺と会えるかな〜。今日かな〜」
マロは、スキップをしながら、ルンルン気分でそう言った。
「マロ、重たいからちゃんと押して!」
モモがマロに注意した。
「え〜…。分かった…」
子猫の顔を見て、マロは素直に従った。
「もう少しで猫神社だよ!お家を探そう!」
ミケは、そんなマロを見て、「ふふっ」と微笑みながら言った。
「うん!」
二匹はそう言って、「あとちょっと!頑張ろう!」と気合いを入れ直した。
…
話をしながら歩いていると、いつのまにか猫神社が見えてきた!
「あ!猫神社だ〜!」
マロは、はしゃぎながらそう言った。
「あ!お家も見えてきた!」
モモも「これ以上の幸せはない」みたいな顔をしながら言った。
「え!本当?よかったね〜!」
ミケは、そう言って二匹に笑って見せた。
(いいな…帰れるところがあって…)
ミケは、不本意にもそう思ってしまった。
そう、ミケは野良猫だ。
「ん?どうしたの?ミーちゃん。」
モモは、ミケの顔を覗きながら言った。
「ううん!なんでもない!」
ミケは、「ハッ」っとしてそう答えた。
「さあ、早く行こう!」
ミケは、気を紛らわすように微笑んだ。
「うんっ!」
二匹は、とびっきりの笑顔で頷いた。
…
「やったぁ!」
「ついたぁ!」
「無事に帰れた!」
三匹は、嬉しくて嬉しくて、飛び跳ねながらそう口々に言った。
そんな時、「あぁっ!マロくん!モモちゃん!」そう女の人の声が聞こえた。
振り返ると、そこには二匹の飼い主さんがしゃがみ込んでいた。
「飼い主さん!」
モモはうるうるした目でそう言った。
「モモ、モモ〜!よかった〜!」飼い主さんはそう泣きながら言った。
モモは、飼い主さんの膝に乗ろうとしていたけど、「今は体が汚れているから」と我慢していた。
ふと飼い主さんは、やっとミケと六匹の子猫の存在に気づいたようだ。
「あ!野良猫!マロくん、モモちゃん、連れてきちゃダメでしょ!」
飼い主さんは、強い口調でそう言ったが、ミケや子猫達が、所々怪我をしている事に気づいた。
「まぁ、怪我をしているじゃないの!
心配ねぇ。」
飼い主さんは、小さくそう呟いて、ポケットから携帯を出し、誰かに電話をかけ始めた。
プルルルルルッ、プルルルルルルッ
そして、相手が出たようだ。
「もしもし、」
相手の声も、微かに聞こえる。
「今暇?じゃあちょっとこっち来てくれない?怪我をしている猫を見つけて…成田先生の病院まで送ってくれる?あ、うん。ごめんね〜!は〜い。」
プー、プー。
そう言って、電話が切れた。
「ちょっと待ってね!」
飼い主さんは、ミケや子猫達にそう優しく声をかけた。
「凄いね…。」
ミケがそう言うと、二匹そろってこう言った。
「「でしょ?うちの飼い主さんは、世界一優しいから。」」
そう自信満々に言った二匹に、ミケは少し見惚れていた。
「あ!来た!」
飼い主さんは、そう大きな声で言った。
「マロ、モモ、そして野良ちゃん。車に乗るよ!」
飼い主さんは、そう小声で言って、車の方に向かって手を振った。
「ありがとう。」
飼い主さんは、そう言いながら、ミケ達も車に乗せてくれた。
「さ、行くよ!」
そう言ったのは、飼い主さんの妹、杏湖だった。
「うん!行こう!」
飼い主さんは、早口で行った。
「じゃあ進むよ〜!」
飼い主さんの名前は陽湖だった。
こうして病院に行くことになった。
…
「子猫ちゃん達、これからどうなるんだろう…」
ミケは、行き先が病院だと言うことを知っているのだが、そこで子猫をどのように検査するのかは分からなかった。
「きっと、注射とかするんだよ…」
マロは、プルプルと震えながら言った。
「マロがするわけじゃないんだから、別に震えなくてもいいでしょ?」
モモは、マロが震えていることを不思議に思った。
「そういえば、子猫ちゃんたち、大丈夫かな?寒くないかな?」
ミケは、子猫達を見ながらそう言った。
「うん、きっと大丈夫だよ。」
「これから病院で診てもらえるし。」
モモとマロはそう言って、笑って見せた。
そうしている間に病院についた。
「杏湖、ありがとう!」
「いいよいいよ、じゃ、帰りも言ってね!」
「うん!本当にありがとう!」
杏湖と陽湖がそう言い合っている間、にミケ達はピョコッと車から飛び降りた。
「子猫はもういないよね!じゃあ、また後で。」
陽湖は、車に向かって手を振りながら、病院に入って行った。
「ここが病院かー…」
ミケは、初めて来た病院に興味津々になっていた。
「ミケ姉は、病院来たことないの?」
マロにそう聞かれて、「ギクッ」となった。
「な…無いんだよ!何故か病気にならなくって!」
「そうなんだー!凄いね!」
なんとかごまかせたようで、ミケは「ほっ」とした。
ミケは、ふとモモの方に目をやると、陽湖と子猫と一緒に受付の方に行っていた。
「待ってー!」
ミケとマロは、そう言いながらみんなの方に行った。
「じゃあ、これ書いてください。」
そう言いながら、看護師さんが、笑顔で紙を渡した。
「はい。」
陽湖は、急ぎの口調で言った。
シャッシャッと汚い字になりながらも、陽湖は気にせずに書き続けた。
「出来ました。」
そう言い看護師さんに紙をさっと渡して、こう伝えた。
「大きな怪我をしてるんです、早めに診てくださいませんか。」
陽湖は真剣な顔でそう言った。
その時、病院にはちょうど誰もいなかった。
「いいですよ。」
看護師さんはそう言って、先生のいる所まで連れて行ってくれた。
そして、部屋の中に急いで入った。
ミケ達も、遅れないように入った。
「この子達を診てください。」
陽湖は入ってすぐに成田先生にそう頼んだ。
「はい。」
成田先生は、かけているメガネをクイッと上げて、返事をした。
「今日はどうされましたか?」
成田先生は、パソコンをカチカチと打ちながら、そう聞いた。
「今日は、この子猫を診てやって欲しいのですが…」
陽湖は子猫をちらちら見ながら言った。
「怪我ですね、どこで怪我をしましたか?」
成田先生は、パソコンから目を離し、子猫をさすりながら聞いた。
「えっと………」
陽湖は、この子猫のことを一切知らない。
だから少し戸惑った。
その様子を見て、成田先生は少し考えていた。
「もしかして………野良猫ですか?」
成田先生は、申し訳なさそうな顔で言っていた。
それは、間違っていたら申し訳ないと言う意味なのか…
それとも、そんなことを聞く自体が申し訳ないと言う意味なのか…
成田先生は、陽湖が答えるまで、ずっと待っていた。
そして、やっと陽湖の口が開いた。
「……はい。」
陽湖は、苦笑いでそう言った。
「そうですか。」
成田先生もつられて苦笑いになった。
成田先生は、こう言うしーんとした空気はあまり好きでは無い。
「じゃあ、この子達の状態を調べていきますね。」
成田先生は、「早く検査しないと!」と思い、そう告げた。
「あ、はい。」
陽湖は俯いていた顔を「パッ」と上げ、そう言った。
「では、隣の部屋で調べてきます。」
成田先生は、そう言って、六匹の子猫を抱き上げた。
そして、隣の部屋へと足を運んだ。
そして、三匹と陽湖は取り残されたまま、しーんと黙っていた。
「……」
「……」
隣の部屋にいる成田先生の声が、微かに聞こえるが、はっきりとは聞こえなかった。
ミケ達は、静かに子猫達の結果を待つだけだ。
子猫達は、痩せ細っていて、お空へ飛んでいきそうだった。
…
その頃、隣の部屋では、いろんな検査をしていた。
「大きな怪我はしてないんだな、」
「小さなかすり傷は少しある。体は汚れているが…もしかして、捨て猫か?」
成田先生は、一つ一つ丁寧に診ていった。
だが、ひとつだけ、引っかかることがあった。
「これは…ダニ…?」
…
(成田先生まだかな〜…)
ミケは、なかなか出て来ない成田先生を、じっと待っていた。
すると、コツ、コツ、と足音がした。
「あ!成田先生かな?」
ミケがそう言うと、マロとモモも、嬉しそうに尻尾をふりふりしていた。
「やった!」
三匹は喜んでいたが、
“現実は違った…”
ドアをガラガラと開けて、悲しそうな顔をして、成田先生入ってきた。
(あれ?これは…残念な…結果だった…?)
ミケはそう思い、少し心配になった。
どうやらそれは、二匹も同じようだった。
すると、成田先生が口を開いた。
「実は…」
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