行き先は?
『手作りチョコ美味かったよ。サンキュ』
碧くんに言われた言葉を想い出しながら、ひとりにやにやしつつ足早に先輩との待ち合わせ場所である校門に向かう。
それこそ何度も彼の言葉を脳内再生しながら。
「お待たせしました」
「いいよいいよ。私が誘ったんだから」
そう言ってふたりは歩き出す。
学校前のバス停から最寄りの駅までバスで10分ほど。
でも、そのバスも今の時間帯は30分に1本しかない。
なので、みんなは駅前まで30分かけて歩くのだ。
高校生にとっての30分のおしゃべりはあっという間で、話し足りない場合は、帰りにファストフード店に寄ってみたり、駅についてからもまだ立ち話をしたり。
でも、今日の私は少し気が重い。
先輩に「ちょっと話しがある」なんて。
嫌な話しなら、早くすませてほしい。
そんな私の気持ちを知ってか知らずにか、絵里先輩は普段通りのたわいのない話ししかしない。
気になるけれど、私の方から「話しってなんですか?」と聞くわけにもいかず、相づちを打ったり適当に話しを合わせているのだけれど。
15分ほど歩いたときだろうか。
「あ」
少し大きめの交差点のところで赤信号になり、横断歩道の前で信号を待つ。
しばらく居心地の悪い沈黙が続いたが、絵里先輩が言いにくそうに口を開いた。
「あっこってさ」
うっ。いよいよか。
「はい」
こんなに真剣な顔つきで、なにを言われるのだろう。
「田中くんと仲いいよね」
え?
「田中くんって?」
「田中 碧斗くん」
「碧くんのことですか?」
「ほら、そんな呼び方ができるくらいだから、仲いいんでしょ?」
話しってこのこと?
「はぁ、まあ」
「付き合ってるの?」
は? なんでそんなこと聞くの?
「はぁ?」
あまりに突然の問いかけに、驚いて声が裏返ってしまったではないか。
「だから、ふたりは付き合ってるのか聞いてるの」
「めっそうもない」
そうなればいいな、とは思うケド。
碧くんがどう思ってるかなんて解らないし。
「じゃあ、付き合ってないのね!」
ぱあっと明るくなった先輩の顔を見て、察しの悪い私にもなにかがピンときた。
「はい。仲がいいのは確かですけど、友達みたいな感じで。それにいつもおちょくられてばかりなんです」
「そっかぁ。よかった」
「そうですよ」
「私さぁ、田中くんのこと好きなんだけど」
「はい」
うん。察しがつきました。
「話しができるようにお膳立てとかしてくれない?」
「ええー」
いやいやいや、それはいかがなものかと。
いくら先輩の頼みでも、そればっかりは。
「お願い」
ああ、先輩のくせにそんなに可愛く頼まれると『ノー』と言えないじゃないですかぁ。
「まあ、別にいいですけど」
「わあ、ありがとう!」
「いえいえ」
あれ? 先輩どうしたんですか?
急にもじもじしちゃって。
「今日とか、ムリかな?」
「ええー、今日ですか? もう碧くん帰っちゃいましたよ。あ、でももしかしたら男子同士で駅前のファストフード店とかに寄ってるかも」
って、なに余計なことを言ってるんだろうと思いつつも、引っ込みがつかなくなっている。
「一緒に行ってくれる?」
「いいですよ」
多分、碧くんはファストフード店に寄っているはず。
いつも彼が行くところは……何軒か思いあたるけど、さて、今日はどのお店なんだろう。
仕方ない、乗りかかった船だ。
1軒ずつ見て回るとするか。
でも、内心は『ふぇ~ん』ってな感じなんだけど。
お読み下さりありがとうございました。
次話「好きになってほしくって」もよろしくお願いします!