どうしよう……
部活の途中、休憩という名の雑談で話しに花を咲かせていたときのこと。
今年卒業する先輩方がドーナツの差し入れを持ってきてくれた。
そこでまたまた話しは盛り上がっていたのだが、暫くしてひとりの先輩が私の所にそっと近づいてくる。
そして小声で言うのだ。「ちょっと話しがあるんだ」と。
もう、嫌な予感しかしない。
みんなの前で言えない話しってなんだろう。
絵里先輩は意地悪なひとではないし、話しも合うから普段は仲良しなんだけど、改まってそんなことを言われると、何事かと気になってしまう。
なにか気に障ることでもしてしまったのだろうか、ヘンなことでも言ってしまったのだろうか。
そんなに注意されるようなことはしていないつもりだし。っていうか、注意ならその場でできるはず。
改まってする話しってなんだろう。
そんなことを考えていると、結局、部活が終わるまで、もやもやと戦いながら過ごすこととなった。
午後4時45分。ギターをクロスで丁寧に拭き、少し弦を緩めてピックとカポとともにハードケースに収納する。
フタをしめて立てかけて、移動させた机や椅子を元の場所に戻し、電気を消して教室を出る。
また重いケースを持って、今度は階段を降りてゆく。
階段を上るときは、少し持ち上げる程度でいいが、下るときはどうしてもひょうたん方の大きい部分が重い分、階段と接触してしまうので、気をつけて降りなければならない。
力のある男子はいいけど、女子にはこれは結構堪える。
先に教室を後にした先輩とは、校門のところで待ち合わせをしている。
あまり待たせてはいけないと、足早に歩く。
そしていつものように、倉庫にギターを置きに行ってくつ箱に向かう。
だんだんと気が重くなってきた。
その時、碧くんが「一緒に帰る?」と聞いてくる。
ホントは「うん」って答えたかったけど、「絵里先輩と帰る約束したから」って断った。
「そっか。じゃ、また明日な」
「うん、また明日」
左手でカバンを肩にかけ去って行く碧くんの後ろ姿を見送っていると、碧くんは振り返らず歩いて行きながら右手を大きくあげる。
「手作りチョコ美味かったよ。サンキュ」
あ、食べてくれたんだ。
しかも手作りって気づいてくれた。
「……」
振り返らずに発せられた彼の言葉に、体中の血液が波打ってゆく。
初めは小さかった波も、その言葉を噛みしめるように段々と大きな波に。
どういたしまして。
言葉にはならなかったけど、心の中でそう呟いた。
さあ、校門の先輩の所へ向かおうか。
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