男子の気持ちが解らない。
昨日のバレンタインは……特になんの進展もなく。
まあ、前日に「友チョコあげるね」なんて言っちゃってるし。
「友チョコサンキュ」なんて笑いながら言われちゃってるし。
前日に一生懸命手作りしたけど、その辺も解っているのだかどうだか。
今まで通りの関係で、それこそ普通に映画を観て食事して。
今日も楽しかったね。
また明日部活でね。
なんて。
そもそも、チョコで告白なんてそんなこと。
私からできるはずないじゃない。
今まで通りの心地良い関係がいいのかな、なんて思ってみたり。
でも、少しは距離を縮めてみたいな、なんて思ってみたりして。
そのあたりの加減がもうひとつ掴めない。
ああ、男子の気持ちが解らない。
私は男子の友達は多いのだけれど、お付き合いというものをまだしたことがないのだ。
はっきり言って、告白されたこともないし、自分から告白したこともない。
というか、まず自分からは告白はしない。それは今後も変わらない……つもり。
告白はされてみたい気はするけれど、誰でもいいというものではない。
やはり好きなひとからロマンティックなシチュエーションで……。
なんてムシのいい話はそのへんに転がっているはずもなく。
今日も今日とて部活通い。
……碧くんはどう思っているのだろう。
『倉庫』にギターを取りに行くと、もう数名がそこにはいた。
「おはよう」
「おはよー」
朝10時から夕方5時までの部活は結構キツい。
ギターを持ち出し、3階の2年生の教室に練習のためにギターを持って階段を上って行く。
ハードケースに入れたそれは、結構な重さがあるのでか弱い女子にはハードである。
ソフトケースに入れるといいのだろうが、ギターを傷から守るためにも、やはり持ち運びの時はハードケースに入れるようにしている。
腕の力が弱い私は、右手に持ったり左手で持ったりと頑張って3階までの階段を上る。
「今日はどの教室でやろっか」
バンドのメンバーのひとりと話しながら、空いている教室を探す。
「今日は6組にしよう」
ギターは横幅があるので、少し行儀は悪いが机の上に腰かけ、椅子の上に足を乗せて練習する。
各学年12クラスもあるので、2年生の教室も12室ある。その中でどの部屋を使ってもいいのだが、段々と指定席は決まってくる。
一部屋で数グループ練習しているところもあれば、貸し切りというところもある。
途中に休憩や昼食をはさむけど、それでも歌いっぱなし、ギターの弾きっぱなしはできない。
で、当然雑談タイムがあるわけで。
今日はみんなが私たちが練習をしている6組に集まってきた。
そこに今年卒業する先輩方が、ドーナツの差し入れを持って見学に。
「こんにちは」
「あ、こんにちは。先輩、もうすぐ卒業式ですね」
「そうだよ~。早いね~」
「寂しくなります」
なんて事を話していると、その中のひとりの先輩が私のところに来て小声で言う。
「あっこ、今日一緒に帰ろう」
「あ、はい。でも絵里先輩、他の先輩と一緒に帰らなくていいんですか?」
だって、一緒に来たのだから一緒に帰るでしょう?
「ちょっと話しがあるんだ」
え、なにか嫌な予感がするんですが。
ってか、嫌な予感しかしないのですが!
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