ふたりぼっちのホワイトデー
今日、14日の部活は午前中までだった。
だから一度家に帰り、2時に碧くんと待ち合わせ。
ドキドキワクワク……ドキドキの繰り返し。
彼は、今日がなんの日かわかってるのかな?
朝、部活が始まる前の倉庫でも、いつものように冗談を言いながらふざけた態度でちょっかいをかけてくる彼。
私も今まで以上にその時間が楽しく感じられる。
でも、部活が終わったあとの倉庫では、なんだかそっけない態度。
どうしちゃったのかな。
私、なんか気に障ること言ったっけ。
考えても思いあたらない。
またいつもの乙女特有の『思い過ごし』だと、気にしないようにしよう。
だって……。
バレンタインはひとりぼっちだった。
それからの1ヶ月はいろんなことがあって。
それらを乗り越えて、今は前よりも仲良くなれたように思える。
今日はホワイトデー。そう。
少し早めに着いて碧くんを待っている。
ドキドキするけど、ワクワクもするこの時間。
少し遅れて彼が待ち合わせ場所にやって来た。
「わりぃ、寝坊した」
なんて、きっとウソだろう。
「しゃあないなぁ」
そう言って笑っていると、照れくさそうに「はい」と包みを差しだしてくる。
「ん、なに?」
解っているけど、わざと聞いてみる。
だって、彼の口から直接聞きたいのだもの。
「だから、その……あれだ」
ふふふ。照れちゃって。
きりりとした顔を真っ赤にしながら言いにくそうにしている。
「友チョコのお返しサンキュ」
笑いながらそう言った。
覚えてくれていたと思うと、ホントは凄く嬉しかったのだけれど。
すると彼は急に真面目な面持ちでこう言い放った。
「義理でも友でもないぞ」
「え……」
「ちゃんとキャンディだからな」
ホワイトデーのお返しには意味がある。
『マシュマロ』は断る時に渡すもの。
『クッキー』は義理チョコのお返し。または友達でいて下さい、という意味。
『キャンディ』は本命のひと、好きなひとに渡すもの。
「……」
キャンディは本命のひとに渡すもの。
「これからは、あっこのこと『藍』って呼ぶからな」
「え……それって」
「嫌か?」
「ううん。特別に許可する」
こんな日がくるなんて。
「お前なぁ、そこはもうちょっと可愛く言えないの?」
「言えなぁ~い」
ホントは凄く嬉しいけど、素直に言葉にできない。
「お、俺のことも『碧斗』って呼んでもいいぞ」
照れながら言うその姿はとっても可愛くて。
「じゃあ、特別にそう呼んであげる」
でも、年下だけど以外と頼りになる一面もあって。
「考えたらさ、『藍』も『碧斗の碧』も同じ『青』なんだよな」
このことがずっと言いたかったことだったなんて。
さりげなく告げてくれたけれど、とても嬉しかった。
「今頃気づいたの?」
そう、今頃気づいたのかしら。私はずっと知ってたよ。
ふたりの共通点。
「じゃ、藍、行こうか」と右手を差しだしてくる。
私は「うん」と応えて碧斗の右手に自分の左手を重ね、歩き出した。
ひとりだったバレンタイン。
ふたりになったホワイトデー。
これからどんな風にお互いの時間を共有し、育んでゆくのだろうか。
まだ舞台は始まったばかり。
余計な観客はいらない。
そう。
『ふたりぼっちのホワイトデー』で充分。
完
『ひとりぼっちのバレンタイン♡ふたりぼっちのホワイトデー』は今話を以て完結いたしました。
ラストまでお付き合い下さいまして、ありがとうございます。
この作品は、バレンタインデーからホワイトデーに日にちを合わせての、1ヶ月集中連載でしたので、かけ足で走り抜けたように思います。
部活の先輩女子と後輩男子の淡く初々しい恋物語、いかがでしたでしょうか?
少しでも楽しんで下さったのなら、嬉しく思います。
最後まで読んで下さってありがとうございました!
また次作品にてみなさまにお会いできますことを祈念して、あとがきとさせていただきます。
本当にありがとうございました!
藤乃 澄乃




