聞いてしまおう。
部活も終了し、いつものようにたわいない話をしながら、碧くんと駅前まで歩いて帰る。
いつ以来だろう。もう想い出せないくらい前に感じる。
こんな当り前のことがこんなに嬉しいなんて。
碧くんとの時間がこんなに楽しかったなんて。
今まで普通すぎて気づかなかった。
いいえ、ウソ。
気づいてた。
ふたりの時間がこんなにも大切だってことに。
だからもう、思い悩むのはよそう。
確信のないことで、考えすぎるのはやめにする。
聞いてしまいたいことは、聞いてしまおう。
その返事があってから、次のことを考えてもいいはず。
たとえ、それが自分の期待していた返答ではなかったとしても、このままずっともやもやな時間を続けるよりはよっぽどマシだ。
『スイートハートカフェ』略して『スイハ』に着いて、空いている席を探す。
私たちは奥の隅っこの席に座ることにした。
ひとはなぜ隅に行きたがるのだろう。
真ん中の席も空いているのに、何故か隅の席につこうとする。
落ち着くのかな。
席について私はミルク・アッサム・ティーを、碧くんはダージリン・ライム・ソーダを注文する。
甘~いココアが自慢の『スイハ』だが、敢えてふたりともお薦めを注文しないという。
「おかしいね」なんて言いながら飲み物が運ばれてくるまでの時間を楽しむ。
いつ聞こう。いつ聞こう。
そう思いながら話していると、「あっこさぁ、絵里先輩と俺をくっつけようとした?」なんて不意に碧くんが言うからびっくりした。
「まさか」
「だよなぁ。あっこがそんなことするわけないと思ったんだよ」
寝耳に水な彼の言葉に、よくよく話を聞いてみると、碧くんと絵里先輩がランチに行ったとき、先輩は告白したみたいで、その時に「あっこも応援してくれてる」なんて言っちゃったようで。
まあ、ふたりで話したいと先輩に頼まれたから、お膳立てはしたけれども、告白するとも聞いていなかったし、ましてや応援するわけがない。
「そんなことしないよ」
当り前じゃん。
だって私……。
「だよなー」
「それで、返事はどう言ったの?」
「断ったよ」
そっかぁ。よかった。
先輩には申し訳ないけど、こころからそう思った。
「そっか」って、そっけなく返したけど。
「でもさ。そのあと、あっこと高本がいい雰囲気だったから、てっきりふたりはそんな感じなのかなんて」
「まさか」
まさかそんなことを思っていたなんて。
「だよねー」
って言う碧くんの表情が、なんだか嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。
結局、私が気にしていたことは大したことではなく、しかも私が聞いてしまう前に碧くんの方から話してくれるなんて。
私の気持ちに気づいてくれていたのだろうか。
ホッとした気持ちもあるが、あの部活帰りに言うと言っていたことは、まだ聞いていない。
今度こそと、思いきって聞いてみた。
「んー、今はまだ言わない」
「えー、なにそれ!」
お読み下さりありがとうございました。
次話「『明日はホワイトデー』」もよろしくお願いします!
明日完結します。
ラストまでよろしくお願いします!




