気を揉む時間
部活の帰り、碧くんとふたりでの帰り道。
彼がポツリと話し出した。
先週の金曜日、私をおいてきぼりにして、他の女子と帰って行ったときのこと。
なんでも、その娘にはずっとつきまとわれている男子がいて、その日も帰ろうとしたら校門のところにその男子の姿をみつけ、碧くんに助け船を求めたらしい。
誰かと一緒ならその男子は声をかけてこないらしいが、ひとりだと一緒に帰ろうとついてくるというのだ。
正義感が強い碧くんのこと、その女子のためにひと肌脱いだに違いない。
以前から相談にのっていたとかで、放っておけなかったとか。
それならそうと言ってくれればいいのに。
余計な気を回していた自分がバカみたいに思えた。
でも、絵里先輩とのことはどうなったのだろう。
案外、今回と同じで気に病むほどのことはないかも。
思いきって聞いてみようか。
……やっぱり聞きづらいな。
でも聞きたいな。どうしよう。
この後の話の流れで冗談っぽく、さりげなく話題にだしてみようか。
そうこうしているうちに駅に着いてしまった。
私たちは乗る電車が違うので、ここでお別れなんだけど。
私の乗る電車が来るまで、碧くんは駅のベンチで一緒に待っていてくれた。
ほんの少し距離をあけて座るベンチ。
いつものようにたわいない話をしていると、急に笑いながら彼は言った。
「この間あっこ公園で見かけたよ」
「え? いつ?」
公園なんて行ったっけ?
「高本と」
あ、金曜日。高本くんと公園に行ったとき、碧くんに見られてたんだ。
「だって、碧くん先に帰っちゃうんだもん」
ここは話をすり替えよう。
バツが悪く、少しズルい返答をしてみた。
「だからそれは……」
「人助け、でしょ?」
一体、高本くんとのあのベンチで話していたどのあたりを目撃されたのだろう。
ただ話しているだけの時ならいいけど、彼に頭をなでられたところなんかを見られていたのなら、いくら私にその気がなかったとはいえ、凄く気まずい。
私の問いかけには答えずに、碧くんは呟いた。
「仲いいんだな」
「え?」
「教室でふたりっきりで練習したり、帰りに公園のベンチで……」
「普通に友達感覚。碧くんと一緒」
あ、また余計なひと言をつけ加えてしまった。
友達ってことを強調したいがために、『碧くんと一緒』だなんて。
一緒のはずなんてないのに、なに言ってんだろ、私。
「そっか」
「だから……」
と、そこへ私が乗る電車がホームに入ってきた。
まだまだ話したいことはたくさんあったけど。
「電車、来たよ」
そう言われてそのまま電車に乗り込んだ。
碧くんは微笑みながら手を振っていたけれども、どう感じたのかな。
また明日まで気を揉む時間に占領されてしまいそう。
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