気にしてほしい……。
今日は金曜日。
別にケンカしたわけでもないのに、碧くんとはなんだか気まずい雰囲気になり、朝、部活前の『倉庫』でも「おはよう」と軽く挨拶をかわすだけ。いつもなら、たわいない話をしたり、冗談を言ったりからかってみたりと、私にちょっかいをかけてくるのに、今日はそんなこともなく、私にはもやもや感だけが残った。
何も気にするようなことはないのだから、普通に話しかけてみようか。
お互いそっぽ向いてる方が、なんだかおかしい。
でも、いざとなったら何を話せばいいのか。会話が思いつかない。
そんなことを考えていると、練習に行こうと女子4人で組んでいるバンドのメンバーに声をかけられ、そのまま倉庫を後にした。
午前中は女子バンドの練習をし、昼食後少しの休憩をはさみ、高本くんと1時間ほど『合わせる』。
どちらの練習も、もうカタチにはなっているので、細かいところを調整しながら、お互いの息を合わせていくのだ。
高本くんとは、昨日のことがあったから、正直、練習しづらいなと思っていたが、その心配は無用だったようだ。
「あ、おはよう。伴奏弾くから、この2番のサビのところちょっと歌ってみてくれる?」
まるで何事もなかったかのような、そんな『普通』な態度に少し拍子抜けした感はあるが、こちらも気にせず振る舞えるので助かった。
その後、何度か繰り返し練習し、ハモりの調整をして、今日の部活は終了となるわけだが。
「今日の部活は早く終わったので、帰りにバーガー行く人っ」
ギターを置きに行った『倉庫』では、そんな話で盛り上がっている。
「あっこも行くでしょ?」
同期に聞かれて、「うん」と答えて帰る準備をする。
結局、男子4人女子6人の計10人の大所帯で行くことに。
駅前のファストフード店に行くまでの学校からの帰り道も、それはそれは賑やかで楽しいものだった。
「で、どこに行く?」
「なんだ、言い出しっぺが決めてないの?」
「えへへ」
なんて言いながら、結局はスタッフの笑顔が自慢という以外はなんの変哲もない、『にっこりニコニコバーガー』に行くことに。
ここは店内の飲食スペースも広く、大人数でも気にせず同席できるという点が、このお店にするという決め手となった。
10人が座れるようにテーブルをひっつけたり、椅子を移動させたり、男子はこんな時はマメになるみたい。
座席を確保してからカウンターに注文に行く。
私がメニューを見上げて「どれにしよっかなぁ」と考えていると、そこへ碧くんが隣にやってきて、「食べ過ぎると太るよ~」なんて言ってくるから「じゃあ、飲み物だけにするぅ」なんて答えて。
いつものような普通の会話。
碧くんはどういうつもりなのかな?
気まずい雰囲気を醸し出していたくせに、ここではいつも通りだなんて。
もしかして、気まずいと感じていたのは私だけだったのかしら。
いえいえ、そんなことはないはず。
だって、私と帰る約束を破ってまで他の女子と帰ったのだから。
しかも彼女に誘われるところから私が近くにいるのを解っていて、一緒に帰って行ったのだから。その上なんの言葉かけもなく。今日は一緒に帰れなくなったとのひと言くらいあってもいいんじゃない?
思い出すとなんか腹が立ってきた。
それに、絵里先輩とのこともあるし。
ふたりでランチに行って、どうだったの?
とか、気軽に聞ければいいんだけどさ。
まあ、別にどうでもいいんだけどね。
別に付き合ってるわけじゃないんだから。
碧くんのことなんて、気にしてないんだから。
勝手に好きなだけなんだから。
でも、少しは気にしてほしい……。
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