ないしょ
部活の帰り、なにか話がある様子で、一緒に帰ろうと碧くんに誘われていたのに、なんの行き違いか彼は誘われるまま他の女子と先に帰ってしまう。
途方に暮れている私のところに高本くんがやってきて、一緒に帰ることに。
まあ、そこまではいいのだけれど、ってあまりよくはないが、問題はその後。
帰り道にある公園のベンチにふたりで腰かけ、初めは普通に喋っていたのだけど、そのうち会話が途切れ途切れになり……。
一瞬からかっているのかと思うような口ぶりで私の髪のことを言いだして。
女子は髪のことを言われるのって、褒め言葉以外は嫌な感じを受けてしまうもの。
特に理由はないけれど、そんな気がする。
なのに私の髪をなでてくるなんて。どういうつもりかわからない。
頭から肩に伝う右手は優しくて、そんなことをされるのは初めてで、心臓はバクバク、頭はクラクラ。
遂にその手はそっと私の肩を包むように……。
もう、どうしたらいいの?
こんな時、どういう態度をとるのが正解なの?
そんな気持ちを悟られたくなくて、なにも気にしていない素振りで、「ん?」と彼の顔を見た。
「あ、なんか今日の俺ヘンだな」
彼は私の肩から右手を離すと、バツが悪そうにそう言う。
私は気にしていない様子で、小首をかしげてみる。
「今日は俺、どうかしてる。気にしないで」
そっか。どうかしてるのか。って、そんなことですまされてしまえるようなことではないと思うけど。
でも取りあえず、口角を少し上げてみる。
少し気まずい雰囲気の中、「もう帰ろうか」ということになり、ベンチから立ち上がった時のこと。
「新入生は可愛いよな。後輩ができるの楽しみだな」
前にも高本くんはそんなこと言ってたな、なんて思いつつも「うん」と頷き、前を歩き出した。
「自分は背中から抱きしめたい」
背中越しに発せられた言葉に、足を止めて振り向く。
彼の言う『自分』とは、私のことだ。彼はいつも私のことを名前やあだ名ではなく、ましてや『先輩』などではなく、決まって『自分』と言う。
今の言葉、一体どういうつもりなのだろう。
先日も言われた言葉。
「やっぱ、俺、今日はどうかしてる」
微苦笑を浮かべながらそう言う彼に返す言葉もなく、ただ微笑んでみせた。
それから駅に向かい歩き出した。が、少し気まずい雰囲気は拭えず。
でも、このままだとなんだかもやもやする。
とは言うものの、「さっきはどういうつもりだったの?」なんて聞けるわけもなく。
というか、聞いてみても仕方がないと思い、普通に振る舞うことにした。
そう、何事もなかったかのように。
だって、高本くん自身が「今日はどうかしてる」って言っているのだもの。
それ以上のことを聞くのは野暮っていうことかな。
でも、ほんとのホントは聞いてしまいたいのだけれどもね。
それを聞いてもどうしようもないことは、解っているのに。
それに、私には心の中で気になる人がいる。
その人への想いの方が勝っているのだから。
だけど、ほんの少しだけドキドキしたのは、ないしょ。
お読み下さりありがとうございました。
次話「気にしてほしい……。」もよろしくお願いします!




