行き違い
え……。
一緒に帰ろうって言ったの、そっちじゃん。
待っててくれたんじゃないの?
ふたりの後ろ姿を見送って、何ともいえない焦燥感に襲われた。
なにか話があったんじゃなかったの?
絵里先輩とのこともまだもやもやしている中で、また別のもやもやが心に押し寄せてくる。
碧くんがそんなにモテるタイプだったのかと、新発見! なんて悠長なことを言っている場合ではなくて。
なんか、いろんな感情がわき起こってくる。
それに、なにも素無視しなくても。
私、なにか気に障ることした?
立ち尽くしている私に後から声がかかる。
「自分、今から帰んの?」
『自分』っていう言い方で誰かは解る。
振り返りながら「うん」と頷くと、「じゃ、一緒に帰ろう」ってことになって。
駅までの30分を歩いて帰ることになったのだけど、なんだろう、妙にドキドキするのは。
今までにも何度も一緒に帰ってはいるし、ふたりで出かけたこともある。
なのに今日はなぜかいつもとは違う『ときめき』に似た感情に気づいた。
きっとさっきの『私のために歌ってくれた』ことに、また気持ちが高まっているに違いない。
途中、高本くんが公園を歩こうと言いだしたので、素直について行った。
近くで遊んでいる悪ガキ風の小学生に、『あっついねぇ~』なんてからかわれたりもして、私はちょっぴり恥ずかしくなってしまったけど、高本くんは動じない様子で、「あ、あのベンチに座ろう」と促す。
「うん」と返事をして座ったけれど、いつになく言葉少なめな彼に、私も何を話せばいいのか言葉がすんなりと出てこない。
少し話しては途切れる会話。
たわいない話の後の沈黙。
その『無』の空気感もだんだんと大きくなっていって、気がつけば私はハンカチを曲げたり伸ばしたりしながら、手持ち無沙汰をやり過ごしている。
なんともいえないこの緊張感、どうしていいのか解らないこの『間』に少々困惑している。
そんな時、高本くんが唐突に言葉を発した。
「髪の毛、ほんっとに直毛だなぁ」
え、なにそれ。
そんな半笑いで、小馬鹿にしたような言い方をされても。
「直毛って。ストレートって言ってよ」
ちょっとほっぺをふくらませてそう言ったのは、ほんの少しだけ傷ついたから。
女子は髪のことを言われるのって、褒め言葉以外は嫌な感じを受けてしまうもの。
特に理由はないけれど、そんな気がする。
褒め言葉なら『さらさらのストレートヘアだね』とか言いようもあるだろうけど、敢えて『直毛』って言われると、とても褒め言葉には思えない。
言葉は言い方で、相手の受け止め方が変わるのだ……。
公園のベンチで隣に座る彼は、その右手で私の頭をポンポンとなでる。
え……。
「ホントに直毛だな」
今度は目を細め、穏やかな声音でそう言いながら優しく頭をなでたかと思うと、その手は後頭部、肩にかかる髪へと。
それから私の左肩をそっと包み込むように……。
どうしたの? 急にそんなことをされても、私はどうしていいか解らない。
お読み下さりありがとうございました。
次話「ないしょ」もよろしくお願いします!




