デュエット
3年生の卒業式前にフォークソング部主催で開催される『祝・卒業! 送り出しコンサート』で、私が書いた『詩』に高本くんが『曲』をつけて私が歌い、彼がギターで伴奏し、ハモるということになっている。
私が書いた2つの詩のうち、高本くんは失恋をテーマに描いた方を選んだ。
その詩に曲ができたからと、今から私の前でお披露目してくれる。
彼は、机の上に詩とギターのコードが書かれたルーズリーフを置き、机に腰かけ、ギターを構える。
C/G/Am/Em/F/G/C/G……
アルペジオでゆっくりと前奏が始まる。
♪ さよならなんて言わないで
きっと辛くなるから
笑顔でお別れしたいのよ
素敵な想い出にしたいの
ありがとうって言わないで
涙がでちゃうから
もう逢えなくなっちゃうね
元気でいてね なんて言って
ホントは本当は
ずっとこのままふたりで
これからも一緒に
過ごしていたいに
決まってるのに
強がり言ってる私って
ほんとバカみたいだね ♪
サビに入る前で伴奏がストロークになって盛り上がり、最後はまた静かにアルペジオで締める。
最後の弦の響きが小さくなると、右手でそっと弦を抑えて消音する。
曲が終わると高本くんは「どう?」という感じで、でも照れ笑いでこちらを見て言う。
「うん。こんな感じ」
「へえ。いい感じ」
「そう?」
「すごくいいよ! 詩の雰囲気と、めちゃ合ってる」
本当にいい曲をつけてくれたと、感心するばかり。
「当然」
今度は自慢げに言い放つ高本くん。
「流石っ」
私の言葉に満更でもない様子で微笑む彼。
そう、彼の作る歌は聴く人の心にすーっと入ってくる。
詩もそうだけど、メロディーも。
人気者の彼に曲をつけてもらうということで、みんなに羨ましがられたけど、この曲を聴いたらまた羨望の眼差しで見られるな。
高本くんは楽譜が書けないので、ギターでの作曲。
コード進行に合わせてメロディーを頭で覚えているのだ。
まあ、ギターで作曲をする人はほとんどそのようにしているとは思うけど。
私も、ピアノで音を当てる(音を表わす)時は楽譜に書くが、ギターでの作曲の時はメロディーは頭の中にあるだけ。
高本くんに何度か歌ってもらって、歌を覚える。
次はサビの部分のハモり練習。
三音でハモるか、「あ~」とか「う~」とかコーラスを入れるかとか、曲の雰囲気に合わせて作っていく。
途中、休憩をはさみながらも、3時間で全て終えることができた。
次の練習までに、私はこの曲を自分のものにしなければならない。
どの部分で感情を込めて歌うか、強弱はどうするかとか、歌い込まなくては。
とはいっても、あと1週間ほどで仕上げなければいけないので、悠長なことは言っていられない。
頑張ろう。
お読み下さりありがとうございました。
次話もよろしくお願いします!