コンサートの練習
次の日。
いつものように部活に行くが、今日はお昼の1時から夕方4時までの3時間のみの活動だ。
今の時期は3年生の卒業式前にフォークソング部主催で開催される『祝・卒業! 送り出しコンサート』の練習のため、土日以外は毎日部活がある。
今年の卒業式は、例年より1週間遅く、3月の初めの日曜日にある。
なので、『送り出しコンサート』は2月の最終週の水曜日、つまり卒業式の予行演習で3年生が午前中登校している日の、午後からが私たちにとっての本番のコンサートになる。
私もいつもと同じように女子4人でボーカル兼ギター・ギター・ベース・ピアノのメンバーで出場する。
でも、そのメンバーとは別に、ひとつ後輩の高本くんとも出演することになっている。いつも部活の中でグループに分かれて練習しているメンバーとの練習と、それとは別に高本くんとふたりでの練習と、両方を熟さなければならない。
まあ、いつものメンバーとの練習は今までやってきている曲を中心にするので、そんなに難しくは考えていない。オリジナル曲ばかりなのだが、今回ピアノの編曲を少々変更しようかという程度なので、そこを中心にピアノ担当のメンバーと話しながら、その場で楽譜に書き込んでいき、合わせてみる。
彼女のピアノはかなりの腕前で、私がイメージする曲調を伝えると、「こんな感じ?」と、すぐその場で弾いて見せてくれる。それを聞きながら「ここはアルペジオで」とか「ピアニッシモで」などと、私からの要望を伝えると、すぐにまた弾いてくれる。
ある程度の枠組みができると、その場で楽譜を書き直し、次に練習に入る。
国立の音楽大学を目指しているだけあり、相当な実力者だ。
本当はジャズを弾きたいらしいけど、ピアノの先生から「国立の音大を目指しているなら、今はジャズは弾かないように」と釘を刺されているらしい。なんでも、タッチが狂うからクラシックの曲を弾くのにはそぐわないとか。そんな彼女にとって、私たちとの練習は息抜きになっているのかな。
今回はそのいつものメンバーとは別に、もうひとり仲良しの後輩とも出演することが決まったわけだが。
私のことを『先輩』とは呼ばずに、『自分』という高本浩太くんと。
作詞・作曲なんかもして、その甘いルックスと歌声にファンも多い。
サラサラヘアーで見た目は王子様風だけど、喋ると案外毒舌な高本くんと。
でも彼の毒舌を知っているのは……多分私だけ。
今回は、私が書いた『詩』に高本くんが『曲』をつけて私が歌い、彼がギターで伴奏し、ハモるということになっているので、今日はその練習。
前回の練習の時に高本くんに、曲をつけるから詩を見せて欲しいと言われ、私は2つの詩を提示した。
どちらか選んでもらおうと思ったからだ。
高本くんは、両方を読んで、少し考えて「こっち」と失恋をテーマに描いた方を指した。
そして今日、その曲ができたということで、そのお披露目に、まず彼が弾き語りを聴かせてくれるのだ。
いつもは自分で作詞・作曲をしているので、自分の詩に他の誰かが曲をつけてくれるなんて、少しヘンな感じ。
もちろん嬉しいのは言うまでもない。
高本くんがギターを弾き語りし、私の詩を歌にして歌う。
そう、教室で二人っきりでの練習が始まる。
お読み下さりありがとうございました。
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