深呼吸
『マイド・オオキニバーガー』で無事に碧くんと、いや、碧くんたちと絵里先輩と私の計7人でワイワイおしゃべりしたのだけれど、やっぱりちょっとだけ悔やんじゃうな。
だって、その結果今度の日曜日に、部活のひとつ後輩の碧くんと、碧くんのことが好きなひとつ年上の絵里先輩がランチに出かけるってことになって。
みんなに冷やかされて「あっこも一緒に行く?」なんて言うもんだから、先輩からの強烈な『断って!』目線で攻撃され、「お昼は用事あるから」って、ありもしないこと言って断って。
嬉しそうな先輩と困惑気味の碧くんとちょっと落ち込んだ私。
こんなことなら、『マイド・オオキニバーガー』になんか来なければよかった。
って、まだふたりが付き合うわけでもないのに、そんなことを思っても仕方がない。
付き合っていなくてもふたりでお出かけ、なんてよくあることだし。
現に私たちだって、私と碧くんだって、ほら。
……そう。付き合ってはいない。
だから相手のことを束縛することはできない。
部活の先輩と後輩であり、友人である。
ただそれだけ。
* * *
日曜日はずっと家にいた。
どこにも出かける気になれなかったから。
ああ、今頃絵里先輩と碧くんは待ち合わせているのだろうか、とか、ランチは何を食べたのだろうか、とか。
考えても仕方のないことをあれこれ考えて。
結局何も手に着かず。
ただひたすらギターを弾いて歌って時間を費やしていた。
早く今日という日が過ぎますように。
そう思いながら。
夜になり、明日のことを考えるとまた憂鬱になってくる。
明日はまた部活があるから、嫌でも碧くんと顔を合わせる。
まさか、今日のランチのことを聞くわけにもいかないし。
いや、気になるよ。もちろん気になるけど。
そんなことを考えていると段々落ち込んできて。
ベッドに仰向けに寝転んで、穴が空くほど天井を見つめては、大きなため息ばかりなり。
「はあああ~」
「それは深呼吸?」
不意に聞えた声の方を見ると、いつのまにか母親がドアの前に立っている。
「わ、びっくりした。もう、ノックぐらいしてよ!」
そうよ。いくら家族でも、乙女の部屋に勝手に入ってはいけないのです。
「夜ご飯できたからって何度もノックしたけど、返事がなかったのよ」
「へ? そうなの?」
「それで、今のはため息? それとも深呼吸?」
「なんでそこにこだわる?」
「ため息をついたら、そこから幸せが出ていくらしいわよ」
私は慌てて口を押さえた。
「た、ため息じゃないわよ。もちろん」
「そ。じゃあ深呼吸ね。酸素をたくさん吸い込んでリラックスしなさい」
「うん」
母は何も聞かないが、きっと私を気づかってくれているのだと思う。
部屋を出て行く後ろ姿に心の中で『ありがとう』と呟いた。
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