そして俺たちは友達になる
「まさか、こいつがあの女の子…」
と思った矢先に
「って本気で私が思っていると思った?ばっかじゃないの?夢の女の子を見つけるとか、まじうけるわ」
と二宮夏希は先ほどの俺に対しての共感の言葉とは裏腹に腹を抱えて笑っていた。
「なんだよ、悪いかよ。あの女の子だけが俺の生きる希望なんだ」と俺は言った。
「あんたさぁ、夢は寝てみなよ。そんなのあんたの妄想でしょ。中二病かって」と二宮は俺を馬鹿にするかのように言った。
「誰が何と言おうと俺はあの子がこの世のどこかにいると信じている。絶対に俺は見つけてみせる」と俺は強い眼差しで二宮に言った。
「はいはい、頑張ってね、中二病君。」とまたも俺をなめきった態度で教室を出て行った。
この時俺は思った「こいつは絶対あの女の子じゃない」と。
家に帰ると愛佳がリビングで勉強をしていた。相変わらず努力家だ。
「クラスどうだった?」と彼女は俺に聞いてきた。「まあまあかな」と俺は適当な生返事で返した。「まあまあねぇ…今日あんたのクラスの子から聞いたんだけど、あの夢の女の子にプロポーズするとか自己紹介で言ったそうじゃん。新学期早々に何やらかしてんだか。兄妹の私まで恥ずかしかったわ。しっかりしてよね中二病兄貴」と愛佳も二宮のように俺をからかってきた。
「へいへい、それは悪うございました。で、お前のクラスはどうよ」
「すごい、楽しそうだよ。クラスの女の子もみんな優しそうだし、うまくやっていけそう。どっかの中二病野郎とは違って楽しい高校生活が送れそう。」とまたも俺をからかってきた。
「大きなお世話だ。せいぜい頑張れよ」と俺は言って自分の部屋に戻った。
俺はまた、あの女の子のことを考えていた。
やはり、顔までははっきり思い出せないし、その女の子の名前もプロポーズされた場所もどこかは知らない。
ふと、二宮夏希の顔が浮かんできた。
よりにもよって俺をからかって中二病呼ばわりしたあの二宮「あいつがあの女の子なわけがない」
と俺は自分を戒めるかのようにつぶやいた。
それから数日経って愛佳は陸上部に入部し、涼太はバスケ部に入部し2週間後にはレギュラーをつかみとっていた。
そういう、俺はいまだに何をやりたいかわからず帰宅部状態が続いていた。
クラスでは初日の自己紹介のせいか、中二病ネタでからかわれていた。
一方で、二宮はその完璧な容姿のせいかクラスの男子には声をかけられるが、彼女の性格もあって素っ気ない態度により日に日に男子も近寄り難くなっていった。
女子も声をかけようとするがなかなか溶け込めない。
俺は帰宅途中教科書を学校に忘れたことに気づき学校へ戻った。
すると、教室には二宮がいた。俺はスルーして教室を出ようとしたが、彼女はどうやら落ち込んだ様子だった。
なので俺は「どうした、なんかあったのか二宮」と声をかけた。
「なんだ中二病の黒川か。別にあんたには関係ないわよ。」
と彼女は相変わらずの素っ気ない態度で言った。「そうですか、悪かったな俺で。じゃあこれで」と言って俺は教室を出ようとしたその時
「ねぇ、あんた友達っているの」と彼女は俺に聞いてきた「まあな」と俺は答えた。
「わたしさ、春からこっちに来たんだけど、いまだに友達出来なくてさ、最初の頃はクラスの子が話かけてくれたんだけど最近は全然挨拶すらしてくれない。あんたはどうやったら友達ってできると思う?」
と彼女は今にも泣きそうな表情で俺に聞いてきた。「そんなの部活とかで出来るものじゃねのかな」
と俺は答えた。
「黒川は部活なんかやってるの?」と彼女は尋ねる。
「いや、何も。」と俺は言った。
「あんた本当に友達いるの?クラスの中じゃ友達いるように見えないけど」と疑うかのように彼女は俺に言った。
「クラスの中じゃお前も同じだろ。お前なら友達なんてすぐにできるだろ。俺みたいな何の才能もない凡人の俺なんかと違って見た目はかわいいし、性格はあれだけど」と俺は彼女を励ますつもりで言った。「なによ、あれって。ほんとあんたって最低な中二病野郎。」と彼女は言った。
「ああそうかよ、所詮俺は中二病ですよ。」
と俺は先ほどの彼女を励ます気持ちが薄れてしまったかのように強い口調で返した。
「けど、ありがとう励ましてくれて。なんか、あんたと話していると楽しい。ねぇ、よかったらわたしと友達になってくれない?」
と彼女先ほどの泣きそうな顔とはうって変わって笑って俺にこう言った。
突然のことで俺は戸惑ったが、「俺なんかでよければ。」といった。
「よろしくね、黒川」と彼女は笑顔で俺に向かって言った。
なぜかその日の夜はいつもの女の子のことではなく、二宮の笑顔が脳裏に焼き付いていて二宮のことを考えていた。
こうして俺と二宮は友達となった。