序章
「わたしね、司のことが好きなの。大人になったらわたしをお嫁さんにして」
と俺にこう告げる女の子がいた。
俺がこのあと彼女になんと返したかは覚えていないというか、このような夢を何度か見る。
これは実際に俺が体験したことなのか、はたまた夢の中だけの出来事なのか。
夢で何度か見るが、正直その女の子の顔を覚えていないし思いだせない。
ただ覚えているのは白く透き通った髪であること。俺は幼い時に事故にあい記憶を失った。
そのせいで幼いときの記憶がないし、その事故で両親を失った。
今は父の親友であった黒川彰と妻の楓と俺と同い年の娘の愛佳の4人で暮らしている。
俺の名前は黒川司、この春に峰崎高校に進学する予定だ。一方、愛佳も同じ峰崎高校に進学予定だ。「なあ、愛佳。愛佳は高校でも陸上続けるのか」と俺が聞くと
「正直迷ってる、大学行きたいし勉強しなきゃなって」と彼女はこたえる。
「司はどうすんの?陸上やめんの?」と彼女は聞き返した。
「俺はもういいかな。充分やりきったし」と俺はこたえる。中学時代俺と愛佳は同じ中学の陸上部に所属していた。
俺は地区予選どまりの選手だったが、愛佳は全国でもベスト4に入った実力者だ。しかし、彼女には夢があった。それは俺の失った記憶を取り戻すために医者を目指すという夢だった。彼女は運動神経抜群で成績優秀な優等生だ。それに比べ俺はこれといった特技はなく、運動神経抜群でもなければ成績優秀な優等生でもない。小学の時は泣き虫で、人見知りで、甘えん坊な愛佳だった。そんな彼女を俺は可愛がり、大切にした。なぜなら、かけがえのない家族だから。
しかし、彼女はいつしか遠い存在になってしまった。
最初は愛佳に追いつこうと努力をしたが、いつの間にかいくら努力をしても追いつけない自分に絶望し、努力することをあきらめてしまった。
だから、高校で陸上を続けようとは思わなかった。
そして入学式の朝、俺はまた同じ夢を見た。
結局今日も女の子の正体はわからなかった。
もどかしい気持ちを抱きながら俺は中学からの友人で同じ峰崎高校に通う岡崎涼太と学校に向かった。「司は部活何やるか決めた?」
「いや、何も。涼太はもちろんバスケだろ」と聞き返す。
涼太は「当たり前だろ。俺が峰崎を全国に連れていく」といった。
涼太は中学では県の選抜に選ばれるほどの実力だった。有名な高校からの誘いがあったのにも関わらず、無名な峰崎高校を選んだ。
彼は自分の手で峰崎高校を全国に連れていくという目標を持っていた。
そんな涼太をうらやみ、また憎んだ。
「どいつもこいつも才能があって夢に向かって目ギラギラ輝かせやがって」と俺は心の中でつぶやき、今日もまた、才能や夢がない自分に幻滅した。
そして、入学式を終え、それぞれのクラスでのホームルームが始まり、愛佳や涼太とは別のクラスになった。
担任の川上の自己紹介の後それぞれの自己紹介がはじまり、その間俺はまた夢の女の子のことを考えていた。
そうこうしているうちに俺に順番が回ってきた。
他のクラスメートが趣味や特技、夢を言っていたが、俺にはそんなものはない。
また、俺は夢の女の子を考えている最中でもあったので
「南ヶ原中学から来ました黒川司です。特技とか夢は特にありません。ただ、俺は夢は夢に俺にプロポーズした女の子を見つけてプロポーズの返事をすることです。」とつい口走ってしまった。
当然、周囲は大笑い、一躍俺は猛烈に痛い中二病野郎だと思われたに違いない。
しかし、「へぇ、ロマンチックじゃない。わたしはそういうの好きよ。」と隣の席の女子が言った。
彼女の名前は二宮夏希。中学まで海外に住んでいたらしい。いわゆる帰国子女だ。
夢の中で俺にプロポーズしてきた女の子の髪は白く透き通っていた。
そして彼女の髪もまた白く透き通っている。
「まさか、こいつがあの女の子...」