5.何も考えたくない私
『メルガーの、あいつの核を使えば帰れるかも』
『かく?』
『メルガーに言って君に言わないのはフェアじゃないから。前に言ったろ? 俺達は産まれた時から身体に石、核を持っているって。それで死んだら身体から出てくる。で、それは物によって治癒の力や魔力増幅効果があったりするんだ。まあ、そう強い核は稀だけど』
『なに、その目』
『いや~羨ましいと思ってね。ミオリは、魔物を塵にできるくらいだから僕達の核もとれるよ。凄い特技だよねぇ~』
宮廷魔術師長という立派な肩書きの彼とは、魔物退治を共にしたせいで今ではタメ口の仲になっている。
この男、見た目は童顔で茶色い巻き毛のアイドルグループに入ったら、一位獲得間違いなしの顔をしているけれど、中身は真っ黒だ。
彼は、読んでいた分厚い本を置くと眼鏡を外し、年代物の机から小さなペンライトに似た物を取り出し私に見えるように軽く振った。
『まだ試作品なんだけど。あっ、もちろん秘密ね。もし漏らしたら一生閉じ込めないといけなくなっちゃうから。僕、そういう趣味ないし、君も嫌でしょ?』
『話の続きをしてもらえる?』
『相変わらずせっかちだなぁ。まーいいや。で、今まで死なないと核がどんな物か判別できなかったんだけど、コレで中の核わかるんだよ。試作だから試したいじゃない? そこで!大切な親友にはお宝が眠っていたわけよ』
『お宝?』
『まあ、君に限定だけど。文献でしか見たことないんだけど、多分それ使えば帰れるよ。よかったね?』
『…彼は』
『教えたよ。君と入れ違いだったから、ついさっき』
今日用事ができたと言っていたのは、この人と話す為だったのか。
『奴なら単純だし、君に最初から同情的だったから泣いてすがれば、すぐにくれるかもよ?』
やっぱり寄り道なんてしなければよかった。
『帰るわ』
背を向けた私に楽しそうな声が追いかけてきた。
『君はどうするかな?』
『あなたのだったら、今すぐ貰うわ』
『おーこわっ』
今の私にできる精一杯の捨て台詞だった。
「ミオリ」
名前を呼ばれ、現実に引き戻された。
ああ。今、海にいるんだった。
「…何ですか?」
「笑ってくれたら核をあげますよ。勿論、作り笑いではなく」
…この人は馬鹿だ。
「馬鹿じゃないの」
「ミオリの言っていたギブアンドテイクですよ」
そんなの全然つりあわないよ。