4.後悔ばかりの俺
「貴方らしくないですね」
もっと上手く出来るはずなのに、わざと恨まれるような終わり方をした彼女につい、そう口を滑らしてしまった。
そもそも、こうなる前に自分が間にはいればよかったのだ。後悔しても遅い。
傷つけてしまったであろうミオリの様子をみれば、俺の言葉に何の反応もない。最近のミオリはおかしかった。以前はもっと感情をだしていたはずだ。
『最近もう一冊文献見つけて読んでみたけど、異世界人の中には壊れるヤツ、結構いるみたいなんだよねぇ』
あまり嬉しくはない、腐れ縁の今では宮廷魔術師長までのしあがったベイの言葉は、あながち間違ってはいないのかもしれない。
『まあ、そうだよね。別にうちらが喚んだわけじゃないけど向こうからしたら、いきなり違う場所にいました。言葉は通じません。帰れませんじゃあね』
一昨日城で会った奴との会話を思いだしていたら、ミオリに茶を頼まれた。勿論それくらいなんともない。今では護衛というよりメイドみたいな事もこなす。人の世話をするのが自分は嫌ではないんだと、この三年で気づいた。
茶の用意をしようと長い廊下を歩いていると背後から微かに音がした。
慌てて戻れば会議室は空だ。普段なら自室に戻ったのかと思うだけだったが、妙に胸騒ぎがし外へ出る扉まで行けば扉の鍵は開いたままだ。
追わなければ。
「ミオリ様を探してくる。後を頼む」
近くにいたメイドに声をかけ、返事も聞かず急いで外へ出た。屋敷の前は一本道だ。どっちに向かった?
左を見れば、毒々しいまでの夕日に照らされた海。俺の勘は、海だと告げた。
すぐに前方に見慣れた彼女を見つけた。彼女は珍しく走っていた。思っていた以上に速く、そして裸足で。ああ、確か道の端に靴が転がっていたような。拾えばよかった。
「ミオリ!」
小さな細い体に向かって叫んだ。周りは何事かと振り向いたが、そんなのに構っていられない。
ミオリは、俺の声が聞こえたのかすぐに振り向き走るのをやめた。出会った頃の彼女なら絶対にこんなにもすぐに諦める性格ではなかった。
やはり時間がないのか。彼女も過去の者達のように壊れてしまうのだろうか。
息を切らしている彼女に行き先を聞いた。
「海」
荒い息をしている口からもれたのは、かつて倒れていた彼女が見つかった場所。
女性に失礼な事をしているのは理解しているが、この際しょうがない。彼女に了承を得ず脇に手をいれ抱き上げ、俺は走り出した。
まさか希望が通ると思ってもいなかったのだろう。今日初めて感情の出た、戸惑っているミオリを感じた。
──以前の彼女に戻してみせる。俺の命でよければくれてやる。
だから…もうそんな笑い方をしないでくれ。