3.無気力な私
「着きました」
「降ろして下さい」
私の裸足が気になるのか悩んでいる気配が伝わる。
「いいの。これで」
ゆっくり慎重に降ろされた。私は、そんな気遣われるような人ではないのに。
もう役目は終わったのだから。
昼間の暑さが残っているのか真っ白な砂は微かに温かい。海はとても穏やかで規則的にひいてはまた寄せている。
「これ以上は」
二の腕を掴まれ見上げれば、彼の瞳もいつもの澄んだ緑色ではなく、不思議な色をしていた。自分を見てみると、どうやら腰まで海水に浸かっていたようだ。
「護衛さんも濡れたね。きっとズボンのが気持ち悪いかも」
背の高い彼は私より浸かってはいないけれど、ワンピースよりはかなり不快だろうな。
「…」
「え? 聞こえなかった」
彼が何か呟いたけれどよく聞こえなかったので聞き返した。
「身体が冷える」
きっと、聞き取れなかった言葉とは違う。でも、また聞くのも面倒だ。彼は私を横抱きにし、砂浜へと戻り始めた。
「帰りたいですか?」
残酷だね。その言葉。
「さあ?」
適当に答えれば、砂浜に座らされ、バサリと頭に服、彼の上着が降ってきた。優しさのつもりなんだろうけど、制服の上着は大きくて重い。
「泣けばすっきりするかもしれません」
服のせいで隙間しか見えないけれど、すぐ隣に彼が座ったのは分かった。
「泣けば帰れるの? なら、いくらでも泣くけど」
一年目、必死で帰る方法を探した。
二年目、自分が役に立つ事を知り、無我夢中で魔物を消した。
三年目、役目は終わった。
「知ってるじゃないですか」
「何を?」
無視すればいいのに聞き返す自分に嫌気がさす。
「俺を殺せば貴方は帰れる」
──ほら、やっぱり聞いた私は馬鹿だ。