1. 空っぽな私
「「いってまいります」」
「いってらっしゃい」
私の話し相手として来てくれている二人は習い事の為、外出していった。その表情はぎこちない。玄関先で見送る私もきっと彼女達と同じ表情をしている。
最近、彼女達と見えない壁ができてしまった。
何が原因なんだろう。
何かしてしまったんだっけ?
考える限りでは思いつかない。
異世界人の私は、やっぱりいくら平穏をもたらした存在だったとしても、ほぼ役割を果たした今、用なしなんだろう。
でも、寂しい。
言葉にする事はないけれど。
「何か、喧嘩などでもしたのですか?」
玄関にぼんやり立っている私に声をかけてきた人。振り向かなくても分かる。もう三年も私の側にいる、護衛でもあり相談役でもある彼だ。
「別に何も」
目を合わせず彼の脇をすり抜け会議室に向かった。
「ここを焼いて農業に利用しようとしているんだが。どうせ魔物がいなくなった今、使わない手はないだろう」
「都市付近の整備、開拓はしょうがないと思いますが、その森は奥に湖もあり手を入れるべきではないです」
「だが」
「それに、あんな森の奥で何を栽培される予定なんですか? ある情報ではこの国で禁止されているヴァングの実と聞きましたけど。アレは依存性が強く骨まで最後溶かしてしまう品ですよね? 今ならこのお話は聞かなかった事にしてあげますよ」
私は、デップリ太った、いかにも成金みたいな男を見ながら、これで話は終わりだと態度で示す為に机の上の出された紙を彼の前に投げ、立ち上がった。
「この小娘がっ!」
見た目よりも素早く動いた成金男は、私の前に立ちふさがり手を振り上げた。この私に向かって。
「死にますよ?」
私の大きくもない声で成金の振り上げた手は空中で止まった。
「…失礼する!」
彼にとっては大事な書類を机に置いたまま、靴音を派手に響かせ乱暴に扉を開閉し去っていった。
ドアが閉まる直前、吐き捨てるような声が聞こえた。「お飾りのガキが」と。何故か自分の口元は上がった。
「貴方らしくないですね」
護衛の彼が咎めるように私に言った。その言葉を無視して頼んだ。
「すみませんが、お茶をお願いできますか?」
ドアが静かに閉まり部屋に一人。
外は夕方の色。
いつもの色なのに。
いつもと同じような日なのに。
私は部屋を飛び出した。