表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/14

ベニスに死す (前編)

 

 仕事が落ちつきはじめたので、


 クラシック音楽を使った名作映画でベスト1を決めるとしたら何だろう?


 と、ふと思ったんですね。


 何かあったっけ、うーん、と考えてみました。


 (一応、ここではクラシック音楽は100年くらい前までの西洋器楽声楽音楽としておきます)




 SF映画好きにとって、1番に思いつくのは、やはり「2001年宇宙の旅」ですかね。


 監督スタンリー・キューブリック。1968年公開。


 リヒャルト・シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」と言えば、もう「2001年宇宙の旅」。「2001年宇宙の旅」と言えば交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」。


 広大な宇宙空間、久遠の時間、神秘と力強さを表現するのにピッタリ。


 すでに不即不離の関係にまで昇華された作品です。あまりに密接にくっつきすぎて、なぜかアレを思い出します。


「仁義なき戦い」


 チャララ~♪ チャララ~♪


 1973年。深作欣二監督。この作品も映画と音楽がアレです。


(アレってなに??)




 クラシック音楽を使った映画って、かなりたくさん有るんですよね。なぜならクラシックは名曲ぞろいだし、新しく作曲する手間とコストがはぶけるし。権利の問題とかもない。(今は特に)


 でもデメリットもあります。


 映画作品に完全にピッタリあうものって、なかなか探すのが難しい。歴史のある曲は、すでに性格を持っていて、それが映画に影響を与えてしまう。



 作曲家とか指揮者、演奏家、オーケストラなどについての音楽映画なら問題はありません。



 例えば、「アマデウス」。1984年。ミロス・フォアマン監督。モーツアルトのお話。観たのは子供の時だったけど、これは面白かった。音楽もモーツアルトですから非の打ち所がなくすばらしい。


 またシューマン夫妻の映画「哀愁のトロイメライ」とか、「のだめカンタービレ」「リトル・マエストラ」なんかもそうですね。


「オーケストラ!」はオモシロい。2009年。監督ラデュ・ミヘイレアニュ。ラストのチャイコフスキー「ヴァイオリン協奏曲 ニ長調」は感動的。


 1940年、ウォルト・ディズニーディズニーのアニメ「ファンタジア」は全てがクラシック音楽。画期的なアニメーション映画です。というか、これは映画というよりも、アニメ付きのコンサートといった感じ。すばらしい驚愕的なアニメのクオリティー。これが70年前ですから。今のアニメーターさまには、ぜひガンパッテ欲しいです。



 そうそう、ピアニストって映画にしやすいんですよね。なかでもクラシック曲を使ったものだと、


「戦場のピアニスト」2002年。ロマン・ポランスキー監督。ショパンの「ノクターン第20番 嬰ハ短調・遺作」やベートーベン「ピアノソナタ第14番 嬰ハ短調・月光」は胸にしみ入ります。最高にいい映画。


 1956年『愛情物語』はジャズピアニスト、エディ・デューチンが主人公でしたけど、作中でひかれた「トゥ・ラヴ・アゲイン」は、実はショパンの「ノクターン第2番 変ホ長調」。カーメン・キャバレロの演奏。曲のアレンジがすばらしい。


「シャイン」は、ピアニスト、デイヴィッド・ヘルフゴットが主人公。1996年。監督はスコット・ヒックス。これもまたいい。ショパンやラフマニノフが演奏されます。主人公と父親との対立。すごく良く出来た映画。



 ラフマニノフと言えば、「逢びき」。1945年。デヴィッド・リーン監督。映画は「ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番」で始まります。ラフマニノフは一貫して作品を彩り、深みを与えます。


「逢びき」はイギリスの恋愛映画でしたが、「みじかくも美しく燃え」はスウェーデン。1967年。ボー・ヴィーデルベリ監督。モーツアルトの「ピアノ協奏曲第21番ハ長調」やヴィヴァルディの「ヴァイオリン協奏曲 四季」が使われています。


 どちらも不倫をあつかっていますが、どちらも非常に美しい。日本の「失楽園」と比べちゃいます。



 ついでに、ヴィヴァルディと言えば、ダスティン・ホフマンの「クレイマー、クレイマー」。映画はヴィヴァルディの「マンドリンと弦楽のための協奏曲 ハ長調」で始まりました。そのテーマは作中、ギターアレンジなどされて登場します。




 問題はオペラ曲ですかね。


 オペラ曲にはそのオペラの物語があるので、映画に使う場合はイメージとぶつかると、違和感が生じてしまう。



 それでも上手くやっているのは「地獄の黙示録」。1979年公開。フランシス・フォード・コッポラ監督。


「ワルキューレの騎行」がヘリから流れると胸が熱くなる。


「ワルキューレの騎行」はワグナーでしたが、オペラと言えばマスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」。その間奏曲は最高に美しい名曲。「ゴッドファーザーPARTⅢ」のラストシーンに使われました。


「ゴッドファーザー」シリーズは、これもまたコッポラ監督。Ⅰ、Ⅱ、Ⅲのどれも名作です。


 ちなみに音楽はニーノ・ロータ。「道」や「太陽がいっぱい」「ロメオとジュリエット」なども傑作。とくに「ロメオとジュリエット」は美しすぎる。何度でも聴けます。


 ちなみにニーノ・ロータは13歳でオペラを作曲したって聞きますから、すごいですね。「ゴッドファーザー」のドン・ヴィトーのテーマ、マイケルのテーマ、どれもいい。




 とまあ、いろいろあるけれど、1番はと言うと、やはり、



「ベニスに死す」



 でしょう。1971年。巨匠ルキノ・ヴィスコンティ監督。文豪トーマス・マン原作の映画。細部にまでこだわりぬいた完成度、音楽との融合性、すべてが比類ない作品。


 グスタフ・マーラーの「交響曲第五番 四楽章アダージェット」は心の奥底にまで響きわたります。


 あらすじは、老作曲家グスタフ・アッシェンバッハがドイツからイタリアのベニスに旅行し、そこで神の如く美しい少年、タージウに出会い、恋をする。伝染病の危機が迫るベニスで、老作曲家はそこに留まり、少年を追い求め、コレラにかかり死ぬ、というお話。



 今回は、これからちょっとストーリーのネタバレをしますけど、映画をすでに観ていても、観ていなくても楽しめるようにしますから(たぶんね)、どうぞお許しください。ペコリ。





 原作では主人公は小説家でしたが、映画では作曲家に変更されています。これはもともと「ベニスに死す」が、トーマス・マンがグスタフ・マーラーの死に触発されて執筆したものだから。マンは自分が旅行中、ベニスで美少年に出会った経験ををもとに作品を創り上げました。きっと作曲家の設定だと、あからさまにマーラーがモデルだと思われてしまい、世間的な差し障りがあったのかもしれませんね。


 映画は、その小説から60年経った時だったので、主人公を小説家にする必要がないので、ヴィスコンティ監督は、主人公を作曲家にすることで、よりトーマス・マンの意を汲み取った形にしたのと同時に、美しい音楽をともなった、よりドラマチックな映画にしようとしたんだと思います。


 娘が幼い時に亡くしているとか、演奏会で観客にブーイングを浴びせかけられていたとか、アルフレッドという友人がいたとか(マーラーの友人、シェーンベルクがモデル)、マーラーの実話が採り入れられました。



 ところで、男が、それもいい老人が少年に恋をするなんて、えー! と私たちは感じちゃうかもしれません。同性愛は、ほんの数十年前まではWHO(世界保健機構)では病気でした。(今では病気であることは完全に否定されています)。中東や北アフリカなどイスラム教の国では、同性愛は犯罪なので死刑や終身刑になります。


 でも歴史的には、同性愛はあたりまえ。戦国武将だってみんな男の子が好きでした。(みんなじゃないけど)。古代ギリシャの哲学者たち、たとえばソクラテスだって男の子が好きでした。



 と言いつつ、この作品のテーマは同性愛ではありません。


「美と醜悪・自然と作為・清浄と不浄・生と死」


 それらの対立。それがテーマ。



「ベニスに死す」は、それを映像、そして何より音楽によって完全に表現しました。


 なので、実はこの映画、ちゃんと音楽を聞いていないとストーリーを完全に理解できません。映像ばっか見ていると「何となく美しい映画だなぁ」とか、「よく分からん映画だ」という印象を持つだけで終わってしまう。注意が必要です。





 長くなるので、つづきは後編。


 どうぞお楽しみに!





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ