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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

COCOON

作者: 椎名恭平


「・・・お前は、自慢の息子だ。」


(カラス)が、憧れる父は、この国の国王。

強く幾度の戦いを乗り越え、国を守ってきた英雄で在る。


烏は、そんな父親に憧れを抱き

自分が育った国を守る為、次期王として、学べる知識を学び

父を超える為、剣術を学び、国に住む民の声に答え

国民からも、父親からも信頼される存在となった。


18年目の春を迎えた時 稽古を行う傭兵が、変わった。

彼の名は、“オオヒキ”

この国では、珍しいカエルの種族の傭兵だ。


1時間の稽古が終わり、烏は、一礼し、

稽古を終えようとすると、オオヒキが、烏に言った。


「お前の人生は、楽しいか?」

その言葉に、疑問を覚えた。

≪お前の人生≫っとは、何だ?

僕の人生は・・・。

続けて、オオヒキが放った。

「国の為、王になる為・・・。まるで、この国の人形では、ないか」

その言葉に、烏は、自分とは、何者なのか少し考えた。

いや、自分は、この国の為。父を超える為。

しかし何処か、自分の気持ちに迷いが見えた。


「“自由”に、生きたいと思わぬか?」

オオヒキの言葉に、魅力を感じた。

しかし、自分は、この国の次期王。何を迷う事が在るのだ。


烏は、その場を立ち去り、自分の部屋に戻る。

しかし、どうしてもオオヒキの言葉が、頭から離れなかった。

次の日も。また次の日も。

いつしか父の言葉を、真剣に聞けなくなっていた。


自分の人生?自由?自分は、何なのか・・・。


その後の稽古は、1時間を終え、オオヒキは、声をかけずに

立ち去ってしまう。

確かめたい。”自由”とは、なんなのか。

自分の人生とは、何なのか・・・。


それからオオヒキとの6回目の稽古が、終わり

いつもの様に去ろうとするオオヒキに、烏は、問いかけた。


「“自由”を手にするには、どうすればいい?」

オオヒキは、嬉しそうに答えた。

「世界を知ればいい。王子・・・。貴方様は、この国で、生涯を終えるには、勿体ないと感じます。」

「ならば、方法は、在るのか?」

オオヒキは、不気味に笑い、烏に答えた。

「私の言う通りに、動きなさい。」


その夜、国に、大勢の傭兵が、国に攻め込んできた。


国に仕える傭兵は、慌てて国王へ連絡する。


「そんな馬鹿な話が在るか!この国に、攻め込める訳がないだろ!この国は・・・!!」


その瞬間、伝えに来た傭兵が、突然倒れ、血を流す。

傭兵が立っていた所に、マスクを被った男が剣を持って、立っている。


「貴様・・・何者だ!?」

次の瞬間、一気に、国王の心臓を持っていた剣で、力強く突き刺し

国王は、倒れ込む。

やられまいと、国王は、男のマスクを奪い取ると、

その男は、自慢の息子 “烏”だった。


「烏・・・。貴様・・・何故?」

烏は、剣を抜き国王を斬り付ける。

何度斬っただろうか。いつしか自分の父親は、冷たくなっていた。


しかし、烏の中で、不思議と後悔は、なかった。

寧ろとてつもない解放感を得た。

これが“自由”か・・・。


そこへ、オオヒキが現れ、烏の肩に手を置き

烏に呟いた。

「ようこそ、自由へ」




それから、月日は、流れ。

烏は、オオヒキに誘われ、闇組織の傭兵となり

国で学んだ剣術を活かし、幾度の戦争で名を馳せた。

今まで縛られてきたモノが、無くなり、大暴れした。


しかし、烏の“自由”は、そう長く続かなかった。

とある戦争に勝利し、仲間達と酒を飲んでいた時。

烏の育った国の残党が、敵討ちと、不意打ちを受け

烏は、右腕に大きな傷を負ってしまった。

意識が遠のく中、やっとの想いで、残党を壊滅した時

オオヒキが駆け付け、烏を呼ぶ。


「大丈夫か!?烏!!おい!しっかりしろ!!」




「・・きて」

「起きて!傭兵さん!!」


烏が、目を覚ますと、目の前に、大きなベットに、

座っている小さな子供がいた。


「また寝てたでしょ!」

「・・・ゴホッ。ゴッホン」

「仕事中に寝る訳がないでしょう・・・。」

「よっぽど疲れてるの?」

「・・・大丈夫。」

「パパには、黙っててあげるからさ!」

「また傭兵さんが、闘っていた時の話聞きたいな!」


小さな子供は、目を輝かせ自分を見ている。

「・・・わかりました。あれは、私が・・・」

烏は、刺激の無い様、話を少し変え、自分の傭兵時代の話を

子供に聞かせてあげた。


数分後、話も終盤を迎え、ふと子供の方を見ると

子供は、すやすやと眠りについていた。

烏は、ほっと溜息を着き、大きな布団を子供にかけ直し

部屋から立ち去ろうとすると、

「・・・おやすみなさい・・・傭兵さん」と子供の声が聞こえた。


振り向くも、子供は、すやすや眠っている。

烏も、“おやすみ”と呟き、扉を開け外に出て行く。





COCOON




≪カレハ王国≫

この国は、クワコ一族が暮らし

沢山の木々に囲まれた小さな王国で在る。


その小さな王国に、小さな繭の形をした建物が在り、

此処に、この国の王子 “シロ”が、隔離されている。

国では、シロが大きな病気を抱えてるとして。

建物付近では、マスクを着用する事を義務付けられている。

その為、烏は、常日頃マスクを着用し、この国で過ごしている


今日も、いつもの様に、シロのお守を終えた烏は、国王の元を訪ねた。


「シロの様子は、どうだ?」

国王は、ギョロリと烏を睨み訊ねた。

烏に執っては、これも日課である。生まれつき身体の弱いシロの

面倒を見れる存在を探していた国王が、他国の噂を耳にし。

各国で、活躍した元傭兵の烏を、子守りとして、雇い

毎日、半日シロの面倒を見て、その日の体調・状況報告をさせているのだ。


「本日も、変わりなく。今も眠りについております。」

「そうか・・・。」

国王は、深い溜め息を吐き、再び烏を睨んだ。

その溜め息に続く様に、烏は、ゴホンっと、話を続けた。

「王様。シロ様は、今は、落ち着いては、いますが、いつ何時体調を崩されるか・・・。」


「在っては、ならぬ。」

国王は、自分よりも大きな烏を深く睨み、威嚇する様に、言葉を続けた。


「シロは、いずれこの国を任す 王になる者。病気などに負けていては、国一つ守れぬ。」

「それに・・・」

「万が一の事が在ってみろ。高い金を払って雇っているんだ。」

「どうなるかわかるか?」


烏は、表情を変えず頷き。その場を去った。


王がいる城から、立ち去り、人気のない場所まで来た烏は、

とある人物に電話を入れた。


電話越しから、ガラガラ声が鳴り響いた。


『調子は、どうだ?』

電話の相手は、烏が最も信頼を置く オオヒキだ。

「順調ですよ。ご心配なく・・・。」

『そうか。あまり無茶は、するなよ』

「・・・はい。」

『しかし、まさか“戦場の鬼”と言われたお前が、今や王子の子守りとはな・・・。』

「・・・」

『右腕は、まだ痛むか?』

「えぇ・・・時々。」

『そうかい』


2人の会話に少しの沈黙が生まれ、オオヒキが、本題に入った。


『で?どうだ?"例の薬”の効果は?』

烏は、ポケットから いくつかの薬を取り出す。


「ゴホンッ。えぇ徐々に王子の身体を蝕んでいますよ」



COCOON(コクーン)

最近開発されたカプセル型の毒薬。

徐々に、その毒が、身体に回り。

成人男性なら半年、子供ならば3ヶ月で、命を落とす。

徐々に効いてくる為、中々COCOONの影響と発覚する事もなく

今、闇社会では、徐々に出回る優れものである。


『そうか。今服用して何カ月目だ?』

「現在2カ月目と、4日。」「恐らくそろそろ効き目が、出てくる頃かと」

『わかった。では、我々もそろそろ動くとするか。』

「・・・了解しました」

『相変わらずお前は、ポーカーフェイスだな』


「はぃ?」

『いや、なんでもない。』

『決行は、お前の合図に任す。頼んだぞ 烏。』


そう言いオオヒキは、電話を切る。

これも烏の日課で在った。


子守りとしてクワコ王国に、潜入し。

COCOONを王子に、飲ませ。その効き目の報告をする。

そして、国の侵入口の確保から、どう攻め落とすかまでも

オオヒキに報告し、その日の為に、動く事。



次の日も、また次の日も。

烏は、シロの所へ行って、王様に報告し、オオヒキに報告。

変わらない日々でも在るが、少しづつ

烏の日常に変化が起きてきた。


それは、王子 シロの容体が急変し、いつもならば

ベットに座って烏の話を、目を輝かせ聞くシロが、

ベットで寝たっきりになってしまった。


その日も、いつもの様に 王様に報告を入れた。


「だからどうしたと言うのだ?」

しかし、我が子ながら、王は、動じる事もなく

いつもの様に烏を威嚇している。


「俺が、何かして “アイツ”の容態でも変わるというのか?」

「いえ・・・ですが」

「四の五の言う暇が在るなら、直せ」

「何年“アイツの子守り”をさせてると想うんだ!?」


烏は、何も言わず頷き、王の間から出て行く。


そして、オオヒキに報告する前に、もう一度

シロの様子を伺いに向かうと。シロは、苦しそうにしている


「傭兵さん・・・」

「大丈夫だよ・・・いっぱいお薬飲んで。すぐ元気になるからね」

シロは、苦しそうでも、烏に笑顔を見せた。


烏は、シロにいつもの様に、薬を飲ませ。

横に座り見守った。

しばらくすると、シロは、眠りにつき

烏は、シロに「おやすみ」と一言伝え、出て行き。


いつもの様に、オオヒキに電話した。


『待っていたぞ。烏。今日は、やけに遅かったんだな』

「えぇ。王子の容態に変化がありました」

その言葉に、オオヒキは、喜びゲコゲコと大笑いした。

『そうか!いよいよだな!』

烏は、少し黙り 再び王国の裏口。

見張りが、入れ替わる時間。などをオオヒキに伝え

オオヒキは、胸を躍らすように

『いよいよカレハの国が我らの領土となるのか!よくやった!』

『薬は、あとどれくらい残っている?』

「あと、7つです。」


『了解だ!明日の朝 我々も出発する!決行は?』

「1週間後の午後21時。最後の薬を王子に飲ませて。」

「電話の合図と共に」

『わかった・・・ゲコゲコゲコ』

『久々の国盗りだ!覆いに楽しもう!!』


そう言って、オオヒキの嬉しそうな声が、止み

電話をしまい。空を見上げる。


それから1週間後に向け、

烏は、王に、王子の容態をしっかり見れるようにと

子守りの時間を 少しずらして貰い。

報告の時間もずらし、オオヒキへの報告は、3日に1回に変更した。


徐々に弱っていくシロに、興味も薄れて行く王。

それでも報告する烏。

無理に笑おうとするシロも、あと5日を過ぎた頃から

喋る事も、少なくなり、ほとんどの時間 眠るようになった。


6日目。


子守りを終え、王への報告を終え

オオヒキに電話で、明日の計画を確認する。

全てが終われば、いつも通り “王の間”で落ち合おう。

あの日の様に。

と、約束するオオヒキ。


そして、電話を終え。

烏は、また空を見上げる。

6日目、カレハ王国最後の夜が、終わる。



【決行の日】


この日は、一番に、オオヒキに連絡を入れ。

何名かの傭兵を国に忍ばせて。

この国最後の景色を眺める烏。


そして、子守りの時間。

いつもの様に、烏は、小さな繭の形をした建物に向かい。

扉を開け シロの様子を窺う。


今日は、心なしか少し元気そうにも想える。


シロは、久しぶりに、烏に傭兵時代の話を求めた。

烏は、最後だからと、自分が何故傭兵になったかの話を

一部伏せながら、シロに話始めた。


その日は、やはりシロの体調も良かったのか

2人は、何時間も、話をして、いつ振りだろうか

シロのこんなキラキラした目を見るのも。

休憩を挟みながら、ご飯を与えながら。


その一方、オオヒキ率いる傭兵集団も、国に続々と

潜入し、オオヒキは、烏から教わった裏ルートをつたって

国王がいる城まで辿り着いていた。


20時半。辺りが暗くなっていくのと同時に。

オオヒキは、城へ潜入する。


烏も、最後の薬を確認し。シロへと飲ます。

それと同時に、ポケットの電話をワンコール。

オオヒキ宛に鳴らした。



コンコン。


「入れ。」

王は、いつもの様に、烏からの報告を受けようとするが

烏の姿が見当たらない。

「ふざけているのか?さっさと 参れ!烏!」


すると天井から、ゲコゲコと笑い声が聞こえ、

天井を眺めた瞬間に、オオヒキが、一気に剣を王に向けて降りてくる


その頃 国でも、オオヒキの仲間達が、

国を制圧し始めていた。民家は、燃え

国の民の悲鳴が、鳴り響く。



「傭兵さん。」

シロは、此処から出ていく烏を呼び止めた。


「今日もありがとうございました。」

「僕ね・・・やっぱり大きくなったら 傭兵さんみたいになりたいや」

シロは、笑顔で、烏にそう答えた。


烏は、今まで被っていたマスクを外し

シロの目を見て 「そうか。早く大きくなれよ」と返し。

シロは、嬉しそうに

「おやすみなさい。傭兵さん」と


深い眠りについた。


数分経った後、烏は、冷たくなっていくシロを確認し

建物から出て行こうとする。


ゴホンッといつもの様に 烏が咳き込むと

床に、透明な水と。血が落ちる。


烏は、ゆっくりポケットから カプセル状の薬を

咳き込みながらも、2錠 口に含んだ。


そしてゆっくり 呑み込んだ。


ゴホッ ゴホッと。


烏は、再び 動かなくなったシロを見て

まだ出逢った頃に話した シロとの会話を思い出していた。




【傭兵さんの右腕の大きな傷って】

【これか?これは、昔戦場でね】

【じゃぁ飛べないの??】

【あぁ、その日から飛べなくなった・・・だから傭兵を辞めた】


【そっか。だったら僕が大きくなって飛べるようになったら

 傭兵さんを空に連れてってあげる!】

【大きくなったらって・・・】

【だから安心して! 僕が傭兵さんの翼になるから!!】

【・・・楽しみにしてるよ】

【うん!!早く大きくならなきゃ!!】





烏は、ゆっくりと扉を開け、泪が零れないように

空を見上げた。





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