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高い壁、鈍色の鎖

掲載日:2018/03/28

私の前に立ちはだかる壁を、

私はいつも乗り越えることばかり考えていた。


私に巻きつく鈍色の鎖を、

私はいつも壊すことばかり考えていた。


だけどその壁は、

私が乗り越えるには、

とてもとても高すぎた。


私に巻きつく鈍色の鎖は、

私が壊すには、

余りにも頑丈すぎた。


どうしたら、あの壁を、鎖を、

越えることが、

壊すことが、


出来るんだ。



誰でも超えることのできる壁を越えられない焦りと

誰にもついていない鈍色の鎖をつけている自分への不安だけが、


日に日に増していった。



あの高い壁を乗り越えることが出来ないのは、

私の努力が足りないからか。


そう思い、

私にとっての高い壁を、

やすやすと乗り越えていく、


その人たちの行動を真似て同じようなことをしてみたりもした。


私が鈍色の鎖を壊すことができないのは、

私が弱いからなのか。


そう思い、

私にとっての鈍色の鎖を、

つけていない、


その人たちの強さを手に入れようと、

自分の弱さを認めず、切り捨ててみたりもした。


でも、


私では、乗り越えることなどできなかった。


私では、壊すことは出来なかった。


焦りと不安が増す中で、

もしかしたら、


私は、一生この壁を越えることなど出来ないのではないか。

私は、一生この鎖を壊すことなど出来ないのではないか。


そんな思いがふと脳裏をよぎった。


気がついたその瞬間、

途方もない絶望を、覗いてしまった気がした。


絶望が見えた。


あの絶望はとても、あの時の私には魅力的だった。


だから、

壁も、鎖も、そんなものに囚われている自分も忘れて、


そちらへと歩いて行こうとしていたのだ。


でも、通りすがりのあの人が、

それは独りで受け止めてはいけないものだと、


私の絶望へと向かう足を、

手を引いて止めようとしてくれた。


手を引かれた瞬間、

あれだけ魅力的に見えた絶望が、

凄く恐ろしいものにかわるその瞬間を、


私は全身で感じた。



ああ、私に魅力的に見えたあそこは、地獄だったのだ。


無理をして、

社会や集団のために、

変わらざる負えなかった人々が、


お前もこうなるべきなのだと、


そこで一生、高い壁を乗り越えることだけを考えろと、

そこで、鈍色の鎖を壊す方法を一生考えていろと、


小さい、目に見えない変化など、

ないがしろにしても、

無視してもかまわない。


私達の目に見える理想通りの変化をもたらせ。


その表情を怒りに、憎しみに染めて、

叫ぶその姿が見えた。



私は今、あの人のおかげで生きている。



私は、

そのとき絶望から何かを学ぶことができると思った。

絶望が理解できるものであるということを知っていると思い込んでいた。


でも、私は生きている。


私は、絶望を、受け止めない覚悟を決めた。


その瞬間、

壁も鎖も、それに囚われる自分も戻ってきた。


でも、生きている。


自分の前に高い壁がある。

自分に壊せない鎖がついている。


でも、生きている。

だから、何かが出来る誰かだけを見るな。

大きな変化だけを見ようとするな。

大きな濁流に流されるな。

自分なりに考えろ。


高い壁を乗り越えるには、

他人の真似をするだけでは駄目なのだ。


鈍色の鎖を壊すためには、

強さだけでは駄目なのだ。


そう思い、

私は、まず自分の掌をまじまじと見た。


私の左の掌は、高い壁に簡単にしがみつけるような

そんな大きな手ではなかった。


私の右の掌は、鈍色の鎖を引きちぎることができるような、

そんな力強い手ではなかった。


そう思い、

私は、まず自分の足をじっくりと見た。


私の左の足は、高い壁をやすやすの乗り越えていけるような

そんな長い足ではなかった。


私の右の足は、鈍色の鎖を置き去りにできるような、

そんな速さを持った足ではなかった。


私が今持っているのは、


手が力強く、大きくなるような、

足が突然長く、速くなるような、


そういう変化を目に見えてもたらす力などではないはずだ。


私は、わたしを見て、聴いて、感じて、考えて、


私と周りの人々が、

違うことを知った。

違うことを認めた。

違うことを受け入れた。


受け入れた自分には、


私が周りと同じようなことをしても、

きっとそこには何もない。


その確信だけが、確かにあった。


だから、時には、


高い壁に寄りかかってみた。

鈍色の鎖に自分から巻かれに行ったりもした。


高い壁に落書きしてみた。

鈍色の鎖であやとりをしてみたりもした。


高い壁とキャッチボールをしてみたりした。

鈍色の鎖で縄跳びをしてみたりもした。


高い壁の模様の意味を考えてみたりもした。

鈍色の鎖が本当に鈍色の鎖であるのかを考えてみたりもした。


そうして、

私なりに、色々やってみて。


私は誰よりも、

気づくのに遅れてしまったが、

高い壁が、鈍色の鎖が、何なのか。


やっと、わたしが納得できる理由を、答えを、

見つけることが出来た。


私の変化はすでにあった。


高い壁を、

鈍色の鎖を、

私の心の奥でくすぶっているまだ見ぬ可能性を、


呼びおこし変化させる。


目に見える変化をもたらす力ではなく、


目に見えない変化に気がつき、

それを今の自分で現実に呼びおこす、


見え方を変化させる力だったのだ。


変わるのではない。

変わらないのではない。


気がついたときにはもう、


すでに変化から、進化へと至っている。


その進化の過程にある、


大きく見える変化より、

見えない小さな変化を感じ取る、


見え方を変化させる力が、私がそのとき持っていた、

唯一の力であったのだ。


だから、私の見え方を変化させる力で、

今の私が持てる唯一の力で、


目に見えない小さな変化を、


今、大きな変化にしてみせよう。



私が乗り越えることのできない高い壁は、

実は高い壁ではなく、

誰かを守ろうと高く積み重なった盾だった。


それは乗り越えるべきものではなかった。

大切な人々の思いが積み重なった、誰かを守りたいという力だった。


私に巻きつく鈍色の鎖は、

実は鈍色の鎖ではなく、

私が例え独りになったとしても、

生きることができるように、


地に足がついた生き方ができるように、

一生懸命私を抑えてくれている赤い糸だった。


私が浮足立って、道を踏み外さないように、今までしっかり支えてくれていた。


囚われていたわけではなかった。

ただ、長い糸が互いに絡まって、短くなってしまっただけだった。


ありがとう。大好きだ


私は盾を乗り越えない。

私は赤い糸を壊しはしない。


高い壁はいつしか積み重なった盾となり、

鈍色の鎖はいつしか赤い糸に姿を変えた。


ありがとう。愛してる。


私は高い壁の一部であった、近くにある盾を一つ抜き取る。

私は絡まった赤い糸をゆっくり時間をかけて解く。


さあ、これからだ。

私は盾を抜きとってできたすき間を潜り、

赤い糸とともに、



まだ見ぬその先へ、進み出す。


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