少女とぬいぐるみ
――今日は秋ちゃんとショッピング。
そう思うと少し心が浮いてしまう。
わたしは秋ちゃんとこの町のシンボルともいえる時計台の下で待ち合わせの約束をしていた。
ポケットから携帯を取り出して時間を確認する。
まだ午後二時二十八分だった。
待ち合わせの時間は午後三時ぴったし。まだ三十分以上もある。普通の人ならこんなに早く友達を待たないだろうが、友達のいないわたしにはこういう行事というと大袈裟かもしれないけど、一緒に遊びに行くというのはわたしにとってはとても大切な事だった。
――そういえばわたしの誕生日と同じ数字だなぁ。
なんてどうでもいい事を思いながら待っていた。すると、熊のぬいぐるみをもった五、六歳位の小さな少女が一人ぼっちでベンチに座りながら泣いていた。
――おそらく迷子になったんだろうな。どうしようかな……。
普通ならば声をかけて一緒に探さなきゃいけないんだろうけれど、わたしにはその勇気すらなかった。
――もし面倒な事になったら嫌だし。
とはいえ心配ではあったのでとりあえず見守る事にした。
――あれ?
ぬいぐるみが勝手に動いたように見えた。目を擦ってからもう一度少女を見る。いつの間にか少女は泣き止み、ぬいぐるみに何か話しかけていた。
――とりあえず泣き止んだけど、やっぱり探してあげなきゃ。
わたしはそう思い直した。
そう思い、右足を一歩前へ突き出した時、後ろから肩を誰かに引っ張られた。
「おっ待たせー!」
後ろから朗らかな声が聞こえる。わたしは時間を確認すると午後三時ぴったしだった。
「秋ちゃんかぁ、びっくりさせないでよう」
秋ちゃんの顔を見てわたしは少しほっとした。
「そういえば――」
わたしはさっきのベンチを見ると少女は消えていた――まるで影も形も無かったかのように。
「どうしたの?」
不思議そうに秋ちゃんが聞いてくる。
「何でもないよ」
わたしは思わず右手を振る。
――さっきまでいたのになぁ。誰かが親を探してあげてるのかな。
「ほら、行くよ、行くよ」
わたしは秋ちゃんに腕を引っ張られながら、時計台から離れる。