【7話】 突然の寮生活
「さて、もう大丈夫そうだし、榎本くんも寮に行こうか」
「は?……寮?」
「あ、言ってなかったっけ?なんか外がワチャワチャしてるみたいで全員寮泊まりよ」
「えっ……」
「ちなみに親には了承済みよ。というよりは大人たちも自分のことで精一杯てところかしら」
「どういうことですか?」
「そうね、榎本くんが寝ている間に他の人に説明しちゃったから、色々説明が必要なようだけど。とりあえず簡潔にまとめると、わたしたちだけではなく、日本国民の皆が能力に目覚めたわ」
「は?……」
寮泊まりが告げられたと思ったら今度は日本国民全員が能力に目覚めただって?なんでやねん!
生まれは関西ではないのになんでやねんと突っ込んでしまうほど驚いている自分に驚いている。もう頭ついていけないし、日本絶対混乱してるだろ。ついでに自分の頭も完全に混乱しているだろう。
「というわけで外はワチャワチャしてるの、理解した?」
「は、はい」
何がワチャワチャしているかわからないが、今回はもう納得することにする。なにせ不可解な出来事は今に始まったことじゃないし、そろそろこの状況にも慣れてきた。
「慧くん、早速だけど案内するね」
足早に保健室を出ていく璃緒を追いかけるべく、ベッドから降り、ほぼ新品同様の上靴を履き、保健室をあとにした。慌ててシロアもついてきた。
「璃緒、なんでそんなに急いでるんだよ」
「え、急いでないよ?」
そういえば璃緒は昔から歩くのが速くて良くおいてけぼりにされたものだ。
廊下は朝のように激しい喧騒に包まれているわけではなく、逆に妙な静けさに包まれている。
三人で特に話すこともなく、否、色々あって何を話していいかわからず沈黙が続いたまま、時が経っていった。
暫く廊下を歩き、玄関を出るといつもと変わらない、いつもと同じ空が見えてきた。
先生から聞いていたような混乱はなく安堵する。もっとこう、空が赤くなっていたりするものだと思っていたが検討違いだったようだ。
しかし、この町はこんなに静かだっただろうか。建物には特に何も変化がないが、少し静かすぎる。カラスの鳴き声さえ聞こえてこない。
この浮ヶ谷学園の敷地は、とても広くとられており、学校敷地内に寮まであるので、校舎からさほど離れずに寮についた。
寮というくらいだから少しボロいのを想像していたが、案外そんなことはなく、寧ろ真新しい建物が寮のようだ。木像の二階建てで、名前は蛎崎寮。
「蛎崎寮……ここか?」
「うん、そうだよ、ここにわたしも入ることになったの」
「えっ、男女共同!?」
「そうみたいね、ちなみにシロアも入るわよ」
「よろしくね……榎本くん」
「マジかよ!?やべぇマジかよ!?あーあー……えーそれよりどうして蛎崎寮って名前なんだよ」
とりあえず話題をそらすことで自分の中の驚きと焦りを落ち着かせようとした結果がこれである。
「えーっと、昔に蛎崎っていうところに住んでいた人が作ったらしいよ。確か……東北辺りだったっけ?」
「いやいや、そういう豆知識はいいから、って俺が聞いたんだっけ?あーもうだめだ。頭がついていかねーよ」
「はは……そうだよね、わたしも結構いっぱいいっぱいだよ。だからとりあえず今日はもう休もうよ」
「……そうだよな、俺も色々焦ってたよ、入ろうか」
寮の扉を開けるとひらけた玄関とその正面の右側に階段。左側の奥には交流場のようなスペース。その少し手前に左右に廊下が延びており。玄関の横には受付の雰囲気をかもし出しているカウンターがあった。
「慧くんの部屋は一回のこっちだよ」
そう璃緒に言われるがまま左側の部屋へと向かう。
部屋に入ると、確かに用意してもいないのにスーツケースの中には着替え下着、タオル等、生活に必要な私物が揃っていた。
ちなみに家具は備え付けで、ベッド、クローゼット、机と完備されている。
ものを漁ってると母さんからの手紙を見つけた。
「じゃあ慧くんご飯は7時からだからね」
そう言って璃緒は部屋から出ていった。しかし立派な部屋だ。下手したら俺の部屋よりでかいかも知れないぞ。
さて、何をしようか、と言っても何もする気にはなれない。寮に来て気が緩んだのか能力のことを少しの間忘れてしまっていたようだ。
……手紙でも開きますか。
コンコン
「榎本慧といったか、俺だ、南雲大輝だ。入っていいか?」
「大丈夫だよ、暇してたし」
持っていた手紙をそっと机の中にしまい込みベッドに腰かける。
ガチャリ
扉が開いて入ってきたのはもちろん南雲だった。
「榎本、月島先生から今日の授業の概要を教えてくれと頼まれたからきたぞ。あと俺の個人的な話もね……」
そう言った南雲は床に腰かけると、
「さて、お前はどこまで知ってる?」
何もわからないですと思わず速答してしまいそうになった。