【6話】 保健室に現れし雷鳴
俺たちが暫くの間保健室で談笑していると、俺が目を覚ましたのを聞き付けた、担任の月島先生ともう一人の先生が駆け込んで来た。
もう一人の先生の髪は薄緑色のセミロングで、あまり手入れがされていないような感じだった。服装は高校生を相手するには、些か露出が激しすぎるよような服装だ。
やけに丈の短いスカートを穿き、胸元のあいたブラウスをだらしなく着込んでいて、申し訳程度に白衣で肌を隠している。
目も、髪色と同じで薄緑色だ。ここ最近ピンクやら白やら緑やらまともな髪色を見ていないが、今回も違和感はない。
元々、歳も若そうな先生なので、白衣を羽織ってなければ、学生の私服姿に見えなくもない。むしろ、白衣を羽織ることによって、コスプレをしているかのようにさえ見える。
これは……男子生徒が群がりそうだ。
「榎本くん目、覚めたって?」
「はい……体も問題はないと思います」
「そう?ならいいんだけど。わたしも全力で治癒魔法をかけた甲斐があるもんね」
「ありがとうございます」
「あれ?………………んーー?…………んんーーっ!もしかして、けいちゃん?ほら、覚えてない?わたし……」
「え、えーと…………もしかしてれうねーちゃんか!?」
「うん!そうだよ!霊優だよ!覚えててくれたんだけいちゃん!」
髪色は変わっていたが、やはり昔の面影がある。霊優先生は昔、俺の家の近くに住んでいたお姉ちゃんだった。
面倒見が良くて、良く遊んでくれたものだ。あのときから年齢はほとんどかわっていないように見えるが。
「けいちゃん!久しぶりー!大きくなっちゃってー」
そう言いながら俺に飛び付いてきた。本日二人目。
「さっきからどんどん話が進んでいるけど、あなたたち、どういう関係なの?」
今まで黙っていた月島先生が話に割り込んでくる。
「わたしとけいちゃんはずっと仲良しだったよ?けいちゃん、大きくなっら、わたしのお嫁さんになるっていってくれたもんね?」
「ええっ!?言ったけど……それは、その、若気の至りといいますか……っていうかあのときの俺はガキだったし……」
「もうっ、やっぱりけいちゃんは可愛いわねぇ」
霊優先生……もとい、れうねーちゃんが俺に頬擦りをしてくる。この美貌と服装でこの行為は破壊力が抜群である。思わず頬が赤くなってしまう。
まぁ、それはいいとして、まずは抱きついているこの体勢をどうにかして欲しい。
「け、慧くんから離れてください!」
「ん?……おやおやぁ?けーちゃんの彼女かな?」
「ち、違います!!」
俺から離れろと言った璃緒がれうねーちゃんに反撃され、顔をプシューと赤くしている。さっき璃緒も抱きついてきたよな?
「まぁいいや、とりあえずけいちゃん、目覚めてくれて良かったよ。じゃあ、早速だけどけいちゃんの能力について話してくれない?」
「わかった」
しかし、話してくれと言われても自分ではほとんどわかっていないのが現状だ。
「俺の能力は……詳しくは自分でも良くわからないけど、シロアを助けた時は少し先の未来が見えたんだ」
「なるほど、未来視ねぇ……他には?」
他にって言われても特に何もしていないしな。強いて言うなら……
「あとは……鉄柱が落ちるのがゆっくりに見えたかな」
「フムフム、やっぱりけいちゃんはすごいね」
……何がすごいのかさっぱりわからない。
「けーちゃんのその能力はたぶん体感覚強化だと思う。しかもそのなかでもかなり強い方の。普通、体感覚強化は五感が強くなったりするだけなんだけど、けいちゃんのは強くなりすぎて、時間が遅く感じたり、思考速度が速すぎて、未来まで見えるようになってるみたい。ほら、タイムマシンって高速で動くことで論理的にはできるでしょ?それを頭の中でこなしてるってこと」
なるほど、そういうことなら納得がいく。あのとき聞こえた軋むような音も、感覚が強くなっていたなら耳も良くなって聞こえるのは頷けるし、時間が長く感じたのも合点がいく。
「へぇーすごいね!」
「榎本くん、すごい!」
「やっぱり先生の見込んだ通りだったわ。流石学年一位ね」
「うふふ、けいちゃんは昔から何かやってくれるすごい子だと思っていたわ。ねーちゃん嬉しい」
「はぁ、っていうか、そんなに珍しいのか?この能力は」
「体感覚強化の能力者はいるけど、けーちゃんくらいすごいのは人類が能力に目覚めてから、これで二人目よ。もっとも、大規模な能力覚醒が起こってから、まだ2日しかたっていないんだけどね」
結局俺の能力は感覚の強化という地味な効果だった。しかし、使い方次第では色々なことができそうだ。これからの楽しみが増えたな。
「あ、そういえば霊優、さっき榎本くんに全力で治癒魔法かけたって言ってたよね?」
「そうだよ?それがどうかした?」
「いやね、榎本くんに顔を向けた瞬間に驚いていたから……もしかしてまた適当にパソコンでもしながら治癒魔法かけてたのかと思ってね」
「…………ソンナコトナイヨー」
そう言ってれうねーちゃんはものすごい早い動作で机の上のノートパソコンをたたみ、書き込みがたくさんある競馬新聞と馬券をくしゃくしゃにして捨てた。
「……………………」
「……………………」
「減きゅ……」
「すみませんでしたあぁぁ!!!!」
綺麗に土下座を決めたれうねーちゃん。暫く会えないうちに、少し残念な人になってたみたいだ。
保健室に現れし雷鳴こと、れうねーちゃんの本名は是崎霊優です。
この世界に起こっている異変にはまだ不可解なところがたくさんありますが、それをこれから解明させていきたいと思っているので、ぜひ、完結までおつきあいください!!