【4話】 魔法試技①
「じゃあまずは基本中の基本についてを教えるわ。私たちが使っているのは全部ひっくるめて異能力と呼ばれているわ。能力は実は元々誰にでも備わっているものなの。そしてさっき南雲くんが使っていたのがその中のスキルってやつね。そして派手な炎や氷は魔法と呼ばれているわ。名称が違うだけで原理にはさほど違いはないらしいわ」
……不安だ。らしいってなんだよ不確定かよ。
「でもスキルは完全に遺伝子や個人由来のものだから、自分の欲しいのを習得するのはちょっと厳しいかもね」
当たり前のように授業が進行していく。だが、何度も言うが気にしては負けだ。もしもこれが夢ならいつか覚めるであろう。それまではこれが現実で日常なのだから。
「みんなの中にはなんで人類が急に異能力が使えるようになったんだろう?って思う人がいると思うけど、実はそれはわかっていないの。でも、陰陽師や占い師、超能力者も魔法すなわち異能力を使っていたのではないかと言われてるわ」
つまり、ほとんどわかっていない謎の能力を使うわけか。
うん、気にするなって言ったけどやっぱ無理だわ。人体への影響とか考えてないのかな?能力を使うことの代償とかもあるのではないかと疑ってしまう。
「だから私たちが魔法やスキル等の異能力を使えたりするのは一種の先祖返りとも言われているの。その他に遺伝子の突然変異や、地球環境に変化によって使えるようになったとも言われているわ」
「そして、一般的に能力には制限がないの。能力は人それぞれ、みんな違ったものを持っているわ。だからまずは、みんながどんな能力を使えるか調べるために検査します」
なるほど、能力には制限がないのか、じゃあ俺はどんな能力を使えるんだろう?できれば派手なやつがいいな。
「じゃあ、早速検査のために教室を移動するわね。みんな、付いてきなさい」
◇ ◇ ◇ ◇
教室を出ると廊下はいたって普通の廊下だった。
……しかし階段はなく本来階段があるようなところに魔方陣が一つ。
嫌な予感しかしない。これ、絶体あかん奴や。
「んのわあああぁぁぁぁあああ!!!!」
魔方陣の上に立った瞬間、眩い光に包まれ、何かに吸い寄せられるかのような感覚になる。
言い換えるなら不規則に動くジェットコースターに乗っているような気分。もちろん、最悪である。
パンパンという手を叩く音で目が覚める。
「授業時間中に許可無く魔方陣を使用するとこんな風になるわよ。気をつけてね」
「うー、頭がじんじんするー」
「先生、早速始めましょうか」
先生と南雲そして、なぜか俺、の3人を除いた他のみんなが踞る中、先生と南雲がせっせと準備を始めた。適度に調節されているのか、気絶する者や、嘔吐をする者もいない。
この第一魔法試技塔も教室と同じように白を基調として、気持ち程度の装飾、あとは授業か何かで使うのか、器具が置いてあるだけだ。広さは、この高校の無駄にデカイ体育館にも匹敵する。
外からの風は全く無く、みんなの呻き声と器具を準備する音以外の微々たる音も聞こえない。
すこしだけ聴こえる軋むような音に違和感を覚えるも、気にせず次の指示を待つ。
「さて、準備が終わったわ【リコペレーション】」
白亜を治したときと同じ魔法をクラス全員に掛けた先生。
次々とみんなが立ち上がり、やがて正常な状態に戻る。
「じゃあ始めましょうか、阿久津くーんこっち来てー」
呼ばれた生徒が先生の元へと進む。先生たちが準備していた器具とは一枚の、無駄に多い修飾が施されている鏡だった。
「その鏡の前に立って、鏡に触れるの。わかった?ほらやって」
そう言われると、阿久津と呼ばれた生徒が、鏡の前に立ち、鏡に触れる。
その瞬間……
俺は鏡に写る阿久津が水の魔法を使っている姿が鮮明に見えた。一瞬の筈だったその時間がとても長く感じられ、世界が一瞬スローモーションのように感じた。
阿久津は一瞬で手を離した。
この学校それにしてもこの学校に来てから何かがおかしい。何か変なことでもされたか?
鏡を見た当の本人の阿久津はその姿に驚きが隠しきれないようだ。
「はーい皆さんは今、何が起こったかわからなかったでしょう?実はこの鏡に触れると、触れている間、その人の能力がわかる代物なの」
ほー、そりゃ便利だ。でもこれを使うだけだったら、わざわざこんな広い所に来る必要無かったんじゃないか?
「阿久津くんはまず、南雲くんに教わりながら、その能力の基本を覚えなさい」
「は、はい!」
そう言うと、すこし離れた南雲のところに走っていった。
「うんうん、元気でよろしい。じゃあ、次ね榎本くん」
「はい」
そう言うと俺は鏡の前に立つ。
やはり、異能力というのは男子の憧れでもあるので、俺もすこし胸が高鳴る。
どんな能力なんだろうな……覚悟を決め、鏡を触る……
……しかしそこには派手なことをしてるわけでも、空を飛んでいるわけでもない。ただ、壁に張り付き目を閉じている俺の姿があった。