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発展途上の魔法文化圏  作者: 桜音羽瑠
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【3話】 南の雲に差す大いなる輝き

「いやいや意味わかりませんよ先生!さっきからでたらめばっかり……」


 先生のどや顔の発言に対し意義を唱える生徒。黒髪で真面目そうな彼は、名前は知らないがどこかで見たことがあるような顔。有名人が出す特有のオーラを放っていた。

 先生の発言を否定したのも、まるで演技の一環かのように感じさせる。


「いや、先生の言うこと間違ってない……と思う」


 咄嗟にポツリと出てしまった一言。その声は教室の人達全員に届けるには充分な声量だった。

 俺は思わずその生徒に対抗し、俺は先生のフォローに入ってしまったのだ。

 確かに先生の言ったことは嘘っぽいし、信じがたい。しかし、俺は怪物も能力も見てしまっていたために、信じることができる。


「あ、そう……あれだ、俺も見たことがあるんだよ。その、怪物と変な能力を使う人を」


 自分の見た事実を述べるが、先生と一部の生徒を除いて誰も信じようとはしない。


「な……あんたまで本当だと言うのか」


 沈黙が教室を包みこむ。誰もがこの状況に違和感を感じていることだろう。葬式のような重苦しい雰囲気で在りながら、心のどこかで、新しいものが体験できるという期待があるはずだ。

 ほんの少しの時間だったはずだが、とても長く感じたのは、この学校のせいだろうか。あるいは怪物のせいなのだろうか。


 そんな中沈黙を破ったのは一人の男子生徒だった。


「先生、あとは自分に任せていただけないでしょうか」


 そう言って立ち上がったのは金髪の生徒。

 少し着崩した制服を着ているが、身に纏う空気が彼の性格を表現しているのだろうか、どこからともなく優しさを感じる。気楽に話せるタイプだと直感で悟った。


「わかったわ、よろしくね大輝たいきくん」

「お任せを。皆さん俺はは南雲なぐも大輝と言います。俺も、懐魔や能力者の存在を肯定します」


 周囲が再びざわつく。相変わらず教室は妙な空気に包まれていくいる。

 先生は最初から南雲を知ってるような素振りを見せている。南雲も何かを隠しているに違いないが、俺にそれを見破ることは不可能だろう。


「だ、だったら、証拠を見せろよ!!」


 先程の男子生徒が再び吠える。


「そうだな、みんなも怪物、すなわち懐魔を見れば納得してもらえるかな?なんなら見せてやるよ、先生お願いしまーす」

「はいはーい、任せてねー」


 先生はそう言うと再びリモコンらしきもののボタンを押すと、今度は床から何か筒状の物が出てきた。

相変わらず大きな口のようなものだけがあり、あとは真っ黒とまではいかない、少し紫がかった黒色の体で、体もなく浮いている。


「これが懐魔だ。ニュースなんかで良くみるあの怪物。俺たちはこの雑魚のことをスラビーと呼んでいる。さて、これでわかって貰えたか」

「いや、まだ信じねぇ、どうせなんかの映像なんだろ!」


 再び吠えるが、南雲は一切動じず、坦々と説明を進めていく。

 

「これでも信じられないっていう人もいるから今からこいつを解放してやろうと思う。俺が囮スキルを使うから俺以外には被害はないだろう。……【デコイ】」


 金髪の南雲から淡い光が放たれる。


「これで俺は囮になった。解放されても懐魔は俺の元に来るから安心しろ、じゃあ行くぜ……解放!!」


 その瞬間スラビーを包んでいたガラスのようなものが、パリンッと音をたてて一瞬で割れ、一直線に南雲へ向かっていく。


「こんな余興で懐魔を殺すことになるとはな。だが懐魔……お前たちは生かしておけない」


 物凄い勢いで南雲に向かって突進していくスラビーを南雲が手刀で叩き切った。

 その光景に誰もが絶句した。


「これでわかって貰えたかな、この世界には懐魔、そして能力者がいるってことを」


 周囲には南雲から少し離れた生徒。その最前列にいる俺は間近で見ていてわかった。懐魔は本気で南雲を殺しに来ていた。

 そして南雲も本気で懐魔を殺しにかかっていたことを。


「あ、ああ、充分にわかった。だが、その事をここで証明して何になるんだ?」


 しかしここで起こった出来事には一帯何の意味があるのか、それが分からない。

 先生の言う通りなら、俺たちはあの怪物と戦うことになるだろうが俺たちにはあんな能力も度胸もない。


「はーい、ここからは先生が説明するね、ここで証明して何になるんだっていうことだっけ?それはね、あなたたちに早く現実を受け入れてほしいからよ」

「この状況を……ですか」

「ええ、そうよ。特に男子諸君は不満を言っている人もいるけど実は結構嬉しかったりするんじゃない?懐魔を倒すために、君たちの憧れていた魔法や、剣を振り回すっていうこともできるし」


 先生の言葉で何人かはピクリと震える。琴線に触れたのか思わず表情に出ている者もいる。

 確かにこれは悪い話ではないとは少しは思う。もしも俺たちが懐魔と戦うことになるなら、その間は授業にでなくても怒られないだろうし、授業でも懐魔の授業をやるかも知れない。結果的に勉強時間は減って、自分的には万々歳だ。

 しかも、俺も魔法や、ゲームの世界に憧れていないと言ったら嘘になってしまう。


「しかも懐魔対策のために普通の授業も減るしね、もし、ほんとに嫌っていう人がいるなら、一学期さえ終われば、懐魔対策学校と普通高校に別れるはずだから、それまでは待って貰わないとどうしようもないけどね」


 やはり俺の推測通り、授業も懐魔についてのことをやることになるらしい。

 しかしこれは、いい加減状況を受け入れなければならないのか?いや、もう受け入れるしかないのだろう。

 先生の話には少しは信憑性があるし、璃緒のことも信じたいから、俺は受け入れることを自分の心の中で決めた。


「じゃあここまで言って異論のある生徒は挙手ねー」


 誰も手を挙げない。

 日本人特有の周りに流されるというのも関わっているのかも知れないが、一切手をあげる人は居なかった。


「みんなの合意も出たところで、早速、魔法の使い方のレクチャーをしていくわよー」


 先生の号令に従い、授業が始まっていった。

タイトルに深い意味はないんだよ?

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