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発展途上の魔法文化圏  作者: 桜音羽瑠
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【1話】 運命の始まり

「生徒のみなさんを代表し、3年A組の高橋さんに新入生へのお祝いの言葉をお贈りいたします」


 抑揚のない声がマイク越しにこの体育館に響く。そのあとに続く生徒代表の声を軽く聞き流しながら、ふと昨日のことを思い出す。


 あれは、一体なんだったんだろう……



                 ◇ ◇ ◇ ◇



「久しぶりだね慧君、ところで君はなんの能力者?」


 その言葉はあまりに唐突に告げられたものだった。


「は?なに言ってんだ?それよりお前璃緒……だよな?何で居なくなったんだよ、それとさっきの炎って……」

「もう、質問ばっかじゃ困っちゃうよ」


 璃緒は全く悪びれるそぶりを見せずに言う。さっきまで纏っていた炎は消えているが、まだその熱気の余韻が残っている。


「ああ、それは悪いな。でもこれを見て黙ってろって方が難しいだろ」

「そう?っていうかまだ知らされてないの?」


 なんのことだかさっぱりわからん。さっきの超常現象を見たせいか、頭が回らない。


「あー、その様子だと私、一日勘違いしてたみたい。でも、きっと明日わかるよ」

「いやいや一個も質問の答えが返ってきてないし、だいたいなんだよその服は、未来人かよ!」

「この服はまぁいずれ慧君も同じような服を着るかもね。それじゃあ私、次のところに行かないといけないから」


 そう言って璃緒は颯爽と去っていった。



                ◇ ◇ ◇ ◇



 気になるキーワードは幾つかある。まずはあの炎。そしてあの黒い生物。更に一日間違ったっていうのも気になる。

 何かを一日間違ったっていうなら今日のことかもしれない。いつも以上に緊張をしているのもそのせいだ。


「……改めて、新入生の皆さんご入学おめでとうございます」


 パチパチと拍手が鳴り響く。

 新入生歓迎挨拶はすっかりと聞き逃してしまったようだ。もっともまともに聞いている人の方が珍しいと思うが。


「続いて校長先生の挨拶です」


 校長と思わしき人物が壇上へと向かっていく。その人は校長先生と呼ぶには少し若すぎる、大体三十代前半くらいの男性だった。髪は少しクセがあって、顔は全体的に整っているが顎のところに少し無情髭が生えている。


「新入生諸君入学おめでとう。そして我が校へようこそ。さて突然だが最近、連日放送されているニュースは知っているかね?まぁほとんどの人が知っているだろう。謎の生物がいたるところで目撃されているニュースだよ」


 それなら俺でも知っている。毎日のように放送されているニュースだ。でもなんでこんなときにこのニュースを出したんだろう?


「いま君たちは何故?と思ったかもしれない。その理由について話すと、少し時間がかかりすぎるからね。それはあとで担任から聞いてくれ。とりあえず俺……いや私が言いたいのは君たちは大変な時代に生まれてしまったということだよ、でも君たちには頑張って貰わないといけない。改めて、新入生諸君入学おめでとう」


 校長はそう言うと一礼して降壇していった。

 この浮ヶ谷高校の無駄にでかい体育館は奇妙な静寂に包まれている。誰もが声を発することが出来ない。

 その静寂を打ち破ったのが司会者の声だった。さっきの校長の発言がなかったかのように、坦々と入学式が進められていく。

 やがて入学式も終わりが近づき……


「ただいまをもちまして入学式を終了いたします」


 あっという間に入学式が終了した。


 しかし、この高校がなに考えてるのか全くわからない。だが、なんとなくだが手のひらで踊らされているだけな気がしてすまない。


「それでは第7回入学式を終わります。皆様、ご退場ください」



                ◇ ◇ ◇ ◇



 廊下は自分のクラスを探している生徒でごった返している。さっきの校長の話について言っている者や旧友を深めている者もいる。そんな中俺も一人の人物を見つけた。


「璃緒!お前もこの高校だったのか昨日ぶりだな」

「あ、慧くん何組だった?」

「俺はまだ自分のクラスが分かってないんだ、それより、昨日のあれは……」

「そうなんだ、実は私も分かってないんだけど」

「そうなのか、璃緒もわかってないのか。っていうか後半の内容無視するなよ!それにしても……やっぱりその髪色だと周りから浮いてるよな」

「むー、別にいいでしょ!どうせみんなこうなるんだから」

「なんでそうなるんだよ!しかもなんだよ、どこにも教室なんてないじゃないか」

「え、私も知らないよ。こんなことがあるなんて聞いてないし……」


 改めて他の人たちを見てみると、教室がないことに憤る者や、引き返そうと体育館のドアをたたく者、不安になって泣き出しそうなものまでいる。

 何がそんなに感情を昂らせるか、それは先程の校長の演説に続き、不鮮明な学校についての不信感から来るものもあるだろう。

 他の人が取り乱している分、自分は落ち着くことができた。


「そう……なのか、璃緒、聞きたいことがたくさんある。何であのとき居なくなったのか、昨日のあれは何か……言い出したらきりがない。でも今は……」

「うん、まずはこの状況をなんとかしないとね」

「ああ、みんな冷静さを失ってる」

「そうね、なんとかしないとね」


 俺たちが会話している間も、喧騒は収まらない。


「やっぱ璃緒は昔から変わってないな、こういうの見たら止めずにはいられないんだろ?」

「そう?そういう慧くんもなーんも変わってないよ」


 二人で顔を見合い笑い会う。


 だが、まずはこの状況を解決してからだ。何が起こってるか自分でもわからない。

 わからないことだらけだが、それでも、やらなければいけない。そう言われている気がした。



 しかし、



 ーー俺をいざなう運命は、まだ始まったばかりだったーー

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