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七ノ太刀【崖からの紐無しバンジー】

 俺は負けず嫌いな自分を、変に気に入っていたものだ。

 どちらかというと、負けるちょっと前くらいから挽回で逆転する感じが一番心がスカッとするのだ。俺の性格の問題なんだろうなぁと思うが、それももう昔だ。

 今じゃもうそんな自分は見る影もない。俺は、面倒くさがりになってしまった。

 だいたい、負けん気だけで世の中渡れるなら誰だって強い奴は成功してるに違いない。それなのに成功してない奴も増えてるんだ。どうせ頑張ったって、何も報われる訳がない。

 てきとうに過ごして、毎日を送って、小さい会社にでも就いて、結婚出来るなら結婚して。そんな普通な生活で俺はきっと満足出来たんだろう。

 何でこんなに自分に諦めを持ったんだろう。

「ふむ、小童の名前は冬兎と言うのか」

 あの頃は小童(こわっぱ)の読み方すら知らなかった筈だ。

 俺は、そんな変な言葉遣いの少女と、祖父の家に遊びに来た時に良く話していたことをおぼろげに覚えている。



 今日はどうやら一日中暑苦しい日が続くようだ。それはそれは。

「俺にとっては地獄だな…」

 背や顔から汗を流しながら前で白いワンピースを着て麦わら帽子を被っている従妹に不満を呟くように吐く。

 だいたい、母家に戻ってすぐに戻ってくるってどうよ。なんだか俺と顔を合わせないし。

 いきなり『海に行くから、付いて来て』だもんなぁ。ツルギは部屋に戻って来たと思ったら疲れただなんだ抜かしてコロっと寝やがるし。俺です睡眠不足は疲労は。

 う〜む…だが、金髪碧眼の女の子が海沿いの浜辺でワンピース着てるっていうのも絵になるな。元が元だからだろうか。何を着ても似合うのはやはり美少女ならでは。

「―――――ねぇ、冬兎」

 全然話しかけてこなかった茉理がいきなり声を掛けて来たので、少しおっかなびっくりだ。

「どうした?」

「………なんでもないわよ。もうちょっと、岸の方に行くから」

 随分と今日は身勝手がハイテンションですね。殺されるから口には絶対に出さないけどな。

 茉理はなんだか海の方を気にしているらしい。海を見た後に俺の顔を、という感じで交互に見ているので何がなんだか。俺は視線を逸らしてるから気付いてないと思ってるんだろう。

 少し歩くと、俺でも少し高いんじゃないかと思う崖に辿り着く。まあ下は海だしそんなに高さないから大丈夫だろう。昔、爺さんにここでバンジーをやらされたことがあったりなかったり。

「冬兎、そこに背中向けて立って」

 どうやら今は大人しく従った方が良いのだろう。

 俺は今からサスペンス物で殺されそうな雰囲気で崖を見下ろせる位置に立つ。

 振り向いて何をするのだろうかと訊こうとした瞬間、それは起こった。いや、落ちた。腹を向けて―――――


 ヒュ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

              バチコー――――ンッッッ!!!!!!


 プロボクサーにパンチ受けてもこんなに痛くないだろう。

 というか腹が立つ以前に(終にやりやがったなあの(あま))という感情が優先されるのはなぜだろう。何かもう慣れたわこういうの。

 あれだ、バッチ来い天使。

 と思ったら来てくれたようだ。ナイス天使。金髪で白い服じゃなかったらまだ良い夢見れたよ天使。

「ぶはぁ!テメェ、終にやりやがったな!?」

「これでスカッとしたんだから別に良いじゃない。感謝しなさいよ、バカ冬兎」

「感謝っていう単語をwikiで調べろ!俺の頭が狂ってなけりゃ海に叩き落されて感謝なんて単語はねぇ!しかも助けるのは当たり前だ!ちょっと『疲れたよ、パト○ッシュ』みたいに天使呼んじゃったじゃん!てか何でお前まで飛び込んでんの!?」

「一つの質問にしなさいよ。……ぷ、あはははッ面白い顔になってるわよ冬兎!」

 どう思いますか。謝るどころかですね、笑い出しやがったわけですよ。キレるかキレまいか迷っちゃいますね先生!

「顔…真っ赤よ…ッ冬兎…ぶふぅ!あははははははははッ!」

 終には吹き出しました。顔面も当てたんだから真っ赤になるのも当然だ。

 くそぉ、何か、何かないか仕返しの方法。こう、あっと言わせるくらいデカイ―――、

「―――――あれ…?」

 ドンドンと意識に反抗するように体が海に沈んで行く。まずいな、かなりバチンが効いていたみたいだ。こう、ボディーブローを綺麗に叩き込んでもらったくらいに。

「…ごめんね、冬兎」

 途中で、沈みかけていた体に暖かいものが抱き付いて来る。


「こうでもしないと…あたしは、素直になれないから。アンタの目が覚めた時には、ちゃんと笑顔でいるから…ごめんね…」

 最後に聞こえた声は、いつもと違う穏やかな茉理の声だった。



「わぁぁぁ…久し振りの神戸だよーッ!見てみてトラジロウ!海だよ海!」

 腕にイリオモテヤマネコ(天然記念物)を抱えた少女は無邪気に顔をほころばせてはしゃいでいる。トラジロウはいつものような半目で海を見ていた。

 というよりイリオモテヤマネコなトラジロウは沖縄の西表島生まれなので海は生まれてからずっと見ていたのである。新鮮さに掛ける。

「えへへ、沖縄も良かったけど、修行ばっかりだったから海全然見れなかったしね。嬉しいな〜、やっと帰って来れて…」

 少し強い風が吹いて、彼女が被っていた麦わら帽子を飛ばす。

 長い金髪の髪を、右片方だけ白いリボンで束ねた碧眼の少女である。笑顔が気持ち良いほど無邪気さを漂わせている。

「あ、ダメッ!」

 大事そうに持っていたトラジロウを飛んでいる麦わら帽子に放り投げる。

 トラジロウが宙を舞う。鳴き声を出さないのは何が起きたのかわかっていないからだろう。

 そのままトラジロウが麦わら帽子の中に納まり、重力が乗った麦わら帽子は見事にニュートンよろしく落下していく。猫至上稀に見る扱いの酷さだ。

「よいしょっと!」

 しかし、麦わら帽子はコンクリートの港に落ちることなく、少女の腕に抱えられていた。無邪気な笑顔でトラジロウを頭に乗せると、今度は麦わら帽子を抱える。

 トラジロウはもう慣れたと言わんばかりに頭の上で寝そべる。子猫の体長もあるがなんというバランス感覚。

「お兄ちゃんに貰った物だもん…絶対に無くしたりしないんだから」

『とうとからまつるへ』

 幼い、まだちょっぴり下手な字で書かれているが、それを見ると顔が赤くなっていく。

「お兄ちゃん元気にしてるかなぁ…今夏休みだし、もしかしたら家に来てるかも知れないよね…」

 麦わら帽子を大事に抱えると、少女は片手で重そうなバックを軽々と持ち上げる。

「善は急げだよね!」

 元気に走り出す姿は、まるでそう。無邪気なワンコみたいだった。

ロリ娘とトラジロウという新キャラが登場して参りました。

はい、作者少しだけ急展開が欲しかったです。

次回は前編後編でわかれると思いますが、それもよろしくお願いします。


一条院の娘は三姉妹です。

姉、茉理、妹で構成されてるので、どんな性格か楽しみにして欲しいところ。

ボクの中ではとりあえずの構成はしてあります。

予定&目標。キャラを壊さないこと。

これが絶対目標です。壊してしまったら話になりません。小説終わります。

例えば茉理がハイテンションで冬兎大好きというのは今のキャラからは想像出来ません。

……そういう話も作りたいなぁ。

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