伍ノ太刀【話せる剣に会ってみたい】
俺が剣道をちょっとでも出来るのは従姉…つまり茉理の姉のおかげである。
剣の修行一筋で、大会だと誰にも負けない。祖父とだって対等までにはいかないがやり合える俺の中では一条院家で一番話し合える中だと思っている。
ちょっとだけ欠点もあるが、それを掻き消すくらい、良い人だ。
だが、修行中になると人が変わり、俺に剣の技を叩き込む師匠になってしまう。それでも、俺はその人を信頼していた。
で、回想は良いんだが、その人はいつしか居なくなっていた。
幼い頃の茉理に聞いた時、茉理は泣きながら「お姉ちゃんどこかに行っちゃったぁ」と言ってきた。俺は、茉理が泣いてるからか涙を堪えていた覚えがある。
茉理の妹も泣いていたからか、俺は更に泣くことを躊躇っていた。
その代わり、俺は彼女が教えてくれた技を出来るだけ練習した。そりゃ綺麗に出来ないし、木刀を振り回してて妹に笑われたことだってあった。
だけど、譲れなかったんだ。
あの人が教えてくれたから。見えない場所でも、俺はきっと強くなろうって決めたんだ。
それが、いつからだろう。負けても別に良いやとか、悔しくなんてないって思い始めたのは。俺が、自分を少しだけ情けないなと思い始めたのは。
いつか、いつかまた、取り戻せるんだろうか。
あの時諦めなかった俺を。あの時、爺さんの前で泣いてた俺を。負けて悔しいと思えた俺を。
日々苦しいと思っていれば辛さもなくなるものだ。
という訳で、週に一回の茉理との一本試合である。審判を付けてという本格的なものなのだが、何でこんなことをしなければいけないのか。面倒だな。
俺の手には竹刀。茉理の手には竹刀の素材で出来ている槍。もちろん、軽い防具は二人とも着けている。突かれても平気なようにだが。
「良いか、面は無しだぞ。防具ないんだからな」
前の戦いでは、横っ面をボコンとやられて昏倒したのだ。そんなことされては溜まったものじゃない。いつか死んでしまう。
「わかってるわよ…あの時はちょっと手が滑っただけ」
ちょっと手が滑っただけで人を昏倒させますか。怖過ぎるぞ悪魔かお前は。
審判は、茉理の技が当たると危ないことになるので、ちょっと遠くにいる。今だけで良いんだ。飴ちゃんあげるから俺と役目交代しようぜ?
そんな願いが届く筈もなく、門下生のおっさんは、旗を持ったまま目を瞑っている。
ツルギ!お前でも良いから今の俺の気持ちをダイレクトに茉理に届け―――、
「頑張れ若造〜。死ぬなよ〜、その小娘出来るぞ〜」
んなこたぁわかってんだよ!こっちとら何回も技受けてんだよ!せめてその死ぬなって言うの取り消せ縁起でもない!下手したら死んじまう!
あいつに期待した俺がバカなのかッ?
「あの子、相当アンタのこと気に入ってるみたいじゃない…」
薙刀の握りの部分がミシミシ鳴ってますよ茉理さん。武器が可哀想ですからオーラを閉まって下さい。何で怒ってるか全然わかんないんですけど。
「知るかよ…なんかお前今日機嫌めちゃくちゃ悪くないか?ツルギが気に入らないとか?」
「べ、別に機嫌なんて悪くないわよ!バカじゃないの!」
一言多いんだよ。機嫌悪くないだけで自分の気持ち十分じゃないですか。バカ要らないじゃないですか。
「審判!良いわよ、始めさせて!」
槍を振ると茉理は体勢を整え、俺を見据えて来る。
「お前!礼とかはどうしたんだよ礼は!」
―――――――バッ!
茉理の言葉に忠実におっさんが旗を挙げました。
「せいッ!」
心の準備がまだなんですが、茉理さんが突っ込んで来ます。どうしますか?
・避ける
・わざと当たってでも試合を終わらせる
・ここはもう一か八かで受けを取る
いや、二番目はないな。流石に一発目を受けて昏倒はわざとらし過ぎる。っていうか三番は何だ、俺に死ねと?
道場の広さに感謝しつつ横に飛び退いて転がる。突きは隙が多い上に避け易いのが俺的には嬉しいな。当たると悶絶か失神だが。
「あぶねッ!お前なぁ、心の準備ってもんを――」
「避けるなバカ冬兎!一条院奥義・華孔旋!」
まだ立ち上がっていない俺に追い討ちを掛けるように、素早く武器を振り上げて来る。
「うぉっと!」
と言いながら顔を後ろに移動させると、目の前を穂先が通過して前髪が靡いた。危ない、もうちょいでアッパーカットっぽいのが決まりそうだったな。
「甘いわよッ!」
「甘いものは嫌いなんですよッ!」
―――――ズドンッッッ!!!!バキャッ!!!
地面を思いっ切り叩くように、槍を地面に叩き付けて来る。俺がいたところに見事に命中していた。良くやった俺、あれは痛ぇ。
――――――ていうか床が壊れてるんですけど。
とりあえず、竹刀を鞘に収めたように持ち、体勢を整える。
「ちっくしょうッ!俺もやるしかないじゃんか!」
ツルギが興味深々な顔をしているので、簡単に負けたら責められてしまうだろう。そりゃもうこの餓鬼ウゼェと心の中で叫ぶほどに。
茉理が薙ぎ払いをかまして来るので、それを避けると体勢を低くする―――決まったッ。
「今日の俺は憑いてる!!…いやラッキーの方で!!」
―――――ビュンッ
かなり危ない賭けだったが成功。瞬間、茉理の持っている槍が手から放れた。
いや、放れたじゃない。俺が放れさせたのだ。師匠から教わった技で、だが。とにかく、手から槍が飛んだ茉理は驚いているようだ。
無理もないな。俺いつも面倒で負けてたから。痛いのは一発で良いし。
だが、驚いた顔になったのも一瞬。茉理は空中に浮いている槍を掴み取り、器用に回すと、体勢を持ち直す。
「おぉ、二人ともやるのぉ!」
ツルギが歓心しているようだ。俺もやれる時はやれるな。明日槍が降るかも知れん。茉理が使っている物が槍だけに。マジで俺は死ねばいいのに…。
「どうだッ!コンチクショウ!」
俺をちょっと怖いくらいに睨んでいる茉理に聞いて見る。場をちょっとだけ和ませようと努力してるんですよ。
「今日のアンタ、絶対変よ」
「変とはなんだ変とは…結構心に来るぞ」
「口開けるのなんて今の内だけなんだから…ッ。一条院奥義・一閃双葉!」
突きの連打…と見せ掛けて本物一本のあれか。この技怖いんだよなぁ。
穂先が何本にも分裂しているように見えるが、近くに来れば来るだけ俺に集中するから本数が少なくなるのが欠点だが。
「欠点は見つけ易いんだよな…いや、毎回当たってるけども」
―――――――バシイィイイイイイイッ!!!
今日の俺やばいな。何かが覚醒したかも知れない。
目の前に、俺が出した竹刀で止められている茉理の槍がある。一本に見えた時に竹刀を合わせられれば、結構楽な技だな。
『そのまま小娘の槍を弾いて首筋に竹刀を当てろ』
竹刀を振り、茉理の手から槍を吹き飛ばす。そして、竹刀の先を喉の部分に据える。
茉理の大きい目が見開かれて驚きで染まっている。まずいな、今の俺結構カッコいいかも知れない。このままならゲームに出れるな。
「本気出せば、こんなもんだ!」
一週間振りですね?どうもどうも〜
というわけでやっとこさで5話目でございます。
現在深意執筆中…というか考えがまとまらずに七八苦中っすね。うわ、どうするよボク。
今回はカッコいい主人公、という考えを中心に書いてみました。頑張れば強いと再確認を。
冬兎は女の子に手を抜くタイプなので、今回でも最終的には茉理に一打も加えていません寸止めです。
戦闘場面とか書くの苦手だなぁと読み返しながら思ってしまいました。いやぁ、どう書けばいいのやら。
とにかく、頑張ってやらなければいけませんね。ファイトボク。
茉理は本当にツンデレっぽいキャラとボクの中で確立しております。
……ツルギもツンデレっぽいキャラですよね、わかります。
執筆してる最中にキャラかぶるんじゃないかと少し嫌な汗が出ましたが、もう性格は確実に出ていますから取り返しもつきません。哀れキャラ。
とまぁ今回はちょっと後書きが短いですがここら辺で終わらせていただきます。
読んで下さった皆様、どうもありがとうございます。