弐十七ノ太刀【メイド喫茶の良さを教えてくれ!!】
「わたくし、暑いも寒いもダメですから…秋と春は大歓迎ですわ」
「どう考えてもダメ人間な人間ですね」
女装した男と、机に突っ伏した出来そうで出来ない美人生徒会長が生徒会室にたむろっている。
まぁ実際は俺と会長なわけだが。
「実際問題、俺はどうすれば良いんですか。涙の秘密を守れとか言われても」
「貴方の身体能力は知っていますわ。それに、男子校舎と女子校舎を交互に行き来出来る貴方が適任なのです。あの黒服のガ○ムチ…あんな体格の癖にすばしっこいし、ボディーガードも役立たずですしねぇ…?」
会長がそこら辺の虚空に言うとガタガタッと焦った人が立てそうな物音がした。いるのか天井とかに。というか天井抜けたりしないのかよ、あのデカイ奴等がいるんだぜ。おぉ、台所のGより怖いじゃねぇか。
「文化祭も近付いている訳ですし…心配なのです」
そういやあったなぁ…HRの最中そんなことも言ってたっけ。
「てか随分遅いんですね文化祭。11月って」
「進学校だからもっと早いと思って安心してましたのね。甘いですわ、それはもう…"ギャルゲーからアニメならえっちぃシーンとかあるな"とか思って期待するほど甘いです。ポルノを考えなさいポルノを」
俺に言わないで下さい、主に宣伝している会社とかに言って下さい。
「まぁ本当のことを言うと三年生は何もせず、一、二年生が頑張って先輩の受験を応援しましょうin the文化祭みたいな感じですことよ?」
「あぁホワイトボードに書かなくても良いんで止めて下さい」
俺はなんか書く気満々だった会長を止めると頭の中を整理する。
つまり文化祭も男女合同では無い上に基本行き来は厳禁な訳で…最悪な言い方しちまうと格好の的…というかカモがネギと鍋とガスコンロ背負って来たみたいなもんで。後はぐつぐつ煮るだけよみたいな状況な訳で。
「なるほど、万策尽きたから俺を呼んだと」
「貴方は本当に自分の心の声に素直ですわね…?心の声と一緒になるなんてどうでしょう?衝天という意味で♪」
あれだ、心の声を素直に声で発声するのはいくない。生徒会長室で思い知った。
三時間目が終わった現在、俺はきっと青白い顔をしているだろう。机に突っ伏しながら「うなぎ…うなぎ…」とトラウマを無意識に呟いている。達観し過ぎてる自分が怖い。
「どうしたのフ――」
「わぁぁあああああああああ!?も、もうウナギはやめてぇぇ…!入んないから、入らないから…!」
椅子から派手に転げ落ち、勢いを付けた土下座を繰り返していると幼馴染の顔が目の前に現れた。一見美少女である。
「…杏樹」
「その、本当に発作?もしくは色々とダメになっちゃった?大丈夫、ダメになってもわたしはフユを愛し続けるから♪」
良かった、いつものバカである。
俺は立ち上がってから椅子を直すと杏樹に向き直る。他の男どもが修羅場だとか言ってるが気にしない。
「杏樹…文化祭は喫茶店を提案しよう。レート制で順々に回すんだ…!」
俺が拳を固めながら会長の要求を言うと杏樹は笑顔のまま手を差し出して来た。なんか背後に天使が見えそうな満面の笑みを見せている。
「大丈夫…もう大丈夫だからね。わたしがいるから…怖くないよ?」
「なんだその満面の笑みの中の哀れみ!?良い台詞の筈なのに胸に刺さるわ!違うの!俺は文化祭の提案をしててだね!?」
「ううん、良いの、わたしがずっと養ってあげる。例え『うなぎうなぎ』って呟いた後に『喫茶店』とか言い出しても、フユはフユだから…!」
「俺はノイローゼか!?え、なんでッ?なんでクラスの男共が泣くの!?なんで杏樹も綺麗な涙を流しながら俺に抱き着くの!?誰だ今『お幸せに―!』とか言った奴!出て来い殺す!」
とりあえず拍手とか歓声を上げてるクラスを尻目に抱き着いて来ている杏樹と一緒に廊下に出て、事情を話す。かなり大まかに「ちょっと文化祭を歩き回りたいからレート制が良いんだ」と。
「なるほどなるほど…それでわたし達の結婚式はいつにするの?」
「うん、話をまともに聞いてなかったのか興味がなかったのか言え。殺すから、どっちでも」
「だってだってぇ…ようやくゴールインなんだから…♪」
そういや芸能人って結婚も早いけど離婚も早いよね。いや、どうでも良いんだけどさ。
きっと漫画なら頭の上に青い線が三本引かれているであろう心理状況を知ってか知らずか、杏樹は胸元のポケットから手帳を取り出す。
「結婚式はまた後日として、喫茶店だよね?文化祭的にオーソドックスだし、きっと大丈夫だと思うけど。フユのお願いだし、わたしがクラスに色々と言っておくね♪」
本当に、女装とか結婚とか無けりゃ最高の友達なんだよなぁこれが。言ったら色々とデンジャラスな展開が待ち受けてるだろうから言わないけど。
「その代わり、ハネムーンはハワイとか外国じゃなくて京都とか落ち着けるのが良いなぁ~」
―――――――これが無けりゃぁなぁ。
「やはり自分の食べる物は自分で釣るに限るなッ」
その頃の出番少な目なツルギ。神戸海で無断に釣り満喫中。
「お、大きいのが掛かったのじゃ!それ、それ、どうじゃどうじゃ!……抵抗するとは生意気な魚の分際で。ならば見せよう、吾が雷撃の――」
出番が少ないせいかハイテンションだった。
「と言う訳でもう色々と根回しはしたから、ある条件だけで喫茶店を開催できると言う破格の――」
俺は六時間目が終わったLHRの時間の中で一人メイド服を着ていた。
杏樹が俺の前で色々言っているがもう全然聞こえない。クラスの男子生徒の目が怖過ぎる。
しかもスカートの裾がアホみたいに短いし押さえていないと下着まで替えさせられたのがばれてしまう。もうこのクラスで暴れ回って俺も屋上から飛び降りるか。
「というわけでそのある条件というのがアンケートを取った結果男子一人一人のハグだそうなんですが。どうでしょうフユ?」
「もう全員死んじゃえ♪」
なぜか死ねと言われて歓声を上げるクラス。もうやだこの学校。
だが…やらなければまたあのウナギ地獄か。四面楚歌か明鏡止水…この場合どっちなんだろう。
「わたしはもう十分ハグしたから、並んで一人ずつねッ。あ、割り込みとか時間オーバーとかダメだよ~」
俺に自由は無いのか。
仕方なくウナギよりマシだと思いつつ俺は目を精一杯瞑った。
あたしは少し閉じ掛けそうな目蓋を気合で寸止めていた。
時たま親しいクラスメイトが話し掛けてくれるけど、眠い。かなり良い季節と気温である。
「だいたい…あたしは文化祭なんて興味無いし…」
欠伸をしながら前回の文化祭を思い出す。そう、悪夢の二日目、一般開放の日。一日目はまだ女子の学生だけだから良かった…まぁ色々煩かったけど。でも次の日は男共がかなり来て、しかも喫茶店をやってたから…あぁ、思い出したくも無い。男なんて最悪…アイツ以外。
「後夜祭…誘ってみようかな」
唯一合同で行われる後夜祭。誘いたい相手がいるなら男子校舎のグラウンドへ行き、真ん中で誘ったその人とキャンプファイヤーを中心にフォークダンス。
恥ずかしい話だけど憧れ。素敵なんだろう、好きな人と照れ合いながら踊るフォークダンス。
『大丈夫か、茉理。その、テンポずれてないよな?』
『…だ、大丈夫よ。上手いじゃない…あたしに合わせてくれてるなんて…』
『いやその…お前だから合わせられるんだよ。それと…可愛いぞ、茉理』
あの朴念仁に期待するのは無理か。それでも、夢見ちゃうのよね…なんであんなバカ好きなのかな。
そろそろ後半に入る架橋となってきましたが如何でしょう。
楽しんで頂けましたでしょうか。
童子切の秘密と色々なことはここから解明させていきます。
いや…自分で書いといてなんだけど難しく作りすぎた…これからどうするか。
まぁ内容はちょこちょこ出来てるので安心して下さいね?
さてと、今度の掲載は少し遅れてしまいそうですが、出来る限り早く更新したいと思います。
それではこれで。