弐十弐ノ太刀【裏茉鶴出現・冬兎のなく頃に】
…いつの間にか泥沼にはまりまくっているって経験ないか?ほら、折角の20話だったのに特にギャグもかまさず普通の物語書いてたどこかのバカみたいな。やってから気付いたサーセンみたいな。
俺だってそうだ。昔従妹が可愛くて可愛くて…どうやったらあんな暴力に生きる化身のようになれるのか。まったく、世界は不思議だらけだ。
―――そういや、榊原弟が妹だったとかあったっけ。
どんだけだ。なんか他の人の設定忘れそうになるぞ畜生。どう考えても姉の黎より濃いじゃん。もっと会長の影が薄くなって最後には消え失せるぞ。妹の方がヒロイン系ってどうなんだ。やっぱり高飛車なだけでは生きていけないということなのか。
涙が女とわかってから、俺はとりあえず何も聞かずに保健室を出て授業に戻った。ついでに体育は最後まで出なかったので杏樹に不満を言われた。他の男子と組まされた?良いぞ、もっとやれ。
まぁ、今ある問題は明日会長にでも訊くとして…只今放課後である。なんか、何かしてないと落ち着かない気分なのである。
「お兄ちゃん、今日は何にしますか?」
夕食の買い物係の茉鶴ちゃんに校門のところでバッタリと出会い、ドラクエよろしく仲間に加入されたのである。今日俺食事当番でもなんでもないんだけどな。
「しょうが焼きで良いんじゃないかな。ツルギはいつもと同じくらい食うだろうし、四個くらいが丁度良いか」
「じゃあ、お肉屋に行かないといけませんね…あと、八百屋で切らしていたタマネギとピーマン」
こうやって見るとツルギと身長は余り変わらないが、茉鶴ちゃんの方がどう考えても大人の女の子である。ツルギの駄々っ子状態を見ると小学生乙!と叫びたくなるからな。
「こうやってお買い物をお兄ちゃんとするのは小学生以来ですね」
「そういや茉鶴ちゃんが出て行ったのもこんな時期だっけ。夏休みに泣きながら俺のところに来てたんだよな…」
「え、えっと……あの時は…ちゃんと離れるのが嫌だったから…」
そういや茉鶴ちゃんの裏モードと茉理の暴力形態って似てるよな。こう、俺だけを標的にしてフルボッコにしてくるところとか。そこはあれか、やっぱり姉妹なのか。
「ん?何か言った?」
「―――もう良いです…。早く豚肉を買いに行きましょう」
なんか茉鶴ちゃん拗ねてないか。あ、なるほど、豚肉が売り切れになるかも知れないという焦りですね、わかります。
というかあそこの肉屋で何か一つの商品が売切れになってた事あっただろうか。
「茉鶴ちゃーん。そんなに焦んなくても豚肉は売り切れないぜー?」
「――――この鈍感クソ野郎…」
ロシアンルーレットで脳天ぶち抜いた負け男の心情になれた。やばいな、俺今からロシアン"ルーレット"じゃなくて全部当たりの"ロシアン"をやるかも知れない。
なぁ元の茉鶴ちゃん、俺は何の堪忍袋を吹き飛ばしたんだろうか。それは君を久々な裏モードにするのに十分だったのだろうか。いつも綺麗な言葉使いの君からクソ野郎って言葉が出るなんて…Mが大喜びじゃないか。
「一々煩い…ちょっと黙って…」
はい、貴方がいる限り一生黙っている覚悟で黙ります。喋ったら俺の上半身と下半身が合体ロボよろしくな状態になりかねん。
「用件済ませてさっさと帰る…何を買う…?」
「はい!挽き肉とピーマンとタマネギでございます!」
「煩い静かに喋れ」「すみません殺さないで下さい」
ダメだ、裏茉鶴ちゃん相手だと俺ボケも出来なければツッコミも出来ない能無しになってしまう。ボケたら死ね、つっこんでも死ね。どうすれば良いんだ。
目の前を歩いている茉鶴ちゃんからは優しいオーラでは無く、喋りかけたら殺すぞ的な雰囲気が漂っている。なんだあの紫のオーラは。
「…何で後ろを歩いてる?」
え、だって俺が隣で歩いてたら裏の君は不機嫌になり、そして俺は殺されるっていう方程式があるんじゃないんですか?
「横を歩いて…後ろにいられると、迷惑…」
なるほど、ゴ○ゴ13的なあれか。"俺の後ろに立つな"みたいな。そうか、背後に殺気があっても気付き辛いからですね。何に狙われてるんだろうな。
横に並ぶと茉鶴ちゃんが少しだけ寄って来る。
「…なに?」
俺が不思議そうに見ていたのが気に入らなかったのか裏茉鶴ちゃんが不満そうに言って来る。
いや何でも無いんだが、後ろに立つなと言って横だとこんなに近付くものなのか。
「いや、肉屋そこなんだが…」
「……そういえば、豚肉を何人分必要…?」
「あぁ…俺が言うから大丈夫ですよ。すみませーんおじさんー!豚肉四人分ー!」
なんで敬語になってるんだ…だと?だって仕方ないじゃん、茉鶴ちゃん怖いもん。なんかタメ口利いた瞬間に俺の腹に空洞開いてそうじゃん!男の威厳だけじゃ飯は食えないんだよ!どうせ最後は卑怯で腰低い奴が生き残るんだ!
「バカ冬兎…ッ。アンタなんか話しなさいよ…!茉鶴不機嫌にしたのアンタでしょ…!?」
「知るかバカ…ッ。俺だって何が問題でなったかわかんねぇし買い物中ビクビクしたんだよ…!わかるか…ッ?自分の隣に槍持ったゴジ○がいる感覚…!あ、ちなみにゴ○ラはパツキンのことだぞ?」
ストン…ッとかなり小さな音で顔面殴られた。蚊が耳の傍を通った時くらいの音量だろうか。んな器用なことが出来るなら妹のご乱心くらい治めて下さい。
後頭部を叩いて少し凹んだ顔面を直すと調理台に立っている裏茉鶴ちゃんの後姿を見つめる。何かいつもの茉鶴ちゃんの料理するスピードにマス○並みの速度をぷらすした感じで手が動いている。…いや、あの緑色のマ○クだぞ。
「…ねぇ冬兎。包丁って空中に浮かせた食材を切る物だったっけ…」
「いや、俺の記憶が正しければまな板の上で食材を切り、料理苦手な女の子がその過程で怪我をしながらもカットバンを貼りつつ好きな奴に弁当を作る為に使う素敵アイテムな筈。あんなヤの付く人達真っ青な凶器では無いんだ…ッ」
「ねぇ…まな板って真っ二つになりながら空中舞う物なの…?」
「キューピ○3分クッキングの放送事故でもそんなこたぁ一度もないだろうよ…。確か一回先生のおばちゃんが作ってる途中で『これは3分じゃ無理だわ…』とか言って終わった回あったけどよ…まな板飛ぶよりは軽いわ」
―――バギャ!!!クルクルクル……ズドスッッッ!!!
「にゃぁああああああああああ――――ッッッ!!!?」
真っ二つになったまな板がくるくる宙を回転しながら俺の座っていた場所の畳に刺さった。隣では目を見開いて茉理が片方のまな板をキャッチしている。凄いな、あのスピードで飛んで来た先尖った凶器を片手で取るか。
まな板真っ二つをやってのけた張本人は吹っ飛ばした物がどこに行ったのか探しているようである。ここですよここ。もうちょっとで俺達に刺さってます。
というかこんなに先が尖がる物なのか…包丁の切れ味をビビるべきなのか音速近くで飛ぶまな板にビビるべきなのか。
「…と、冬兎…あたし…」
茉理は手に持っていたまな板を投げ捨てると運動競技選手真っ青な俊発で立ち上がり、居間の出口へ走り出した。
「あたしッ今日夕飯要らないから!ついでにお風呂入って来るから!」
「あッテメェ!なに逃げてんの!?なに逃げてんのッ!?俺一人に押し付けんなよ!あんだろベタベタなファンタジーで"仲間を見捨てる奴はクズだ!"って!チクショウ、俺も逃げさせ―――」
「ん?どうしたのじゃ若造。発情期真っ盛りな熊のように騒いで」
「例えがわかりずれぇよ!熊の発情期とか普通の人見たこと無いからな!?ついでに裏切られたことに対する俺の怒りの言葉は傍から見たら発情期と取れるの!?そしてこのツッコミしてる間に茉理逃げたよ!」
風呂上がりのツルギは頭にタオルを乗せながら湯気を立てている。ロリな癖になんか色っぽいな。
「なにか今"〜〜の癖に生意気だ"みたいなことを言われた気がしたのじゃ」
「気のせいだろ。そんなジャイアニズム溢れたことを誰が言うか」
銀色の髪を雑にタオルで拭いてから犬のように頭を振る。止せ、俺に水が飛ぶ。
というか、このおバカ能天気な奴と裏茉鶴ちゃんを乗り切れだと…バカな!こいつとどう戦えと言うんだ…ッ。
「お、茉鶴が今日は食事当番なのじゃな。何を作っておるのじゃ?」
KYが要らんことをした。冬兎の精神に200のダメージ。遂に胃炎のような痛みが走り出した。
「…しょうが焼き…」
にしては必要ない物切ってたよな!とツッコミをしたかったが怖くて出来なかった。精神的に300のダメージ。
「生姜を焼くのか…?」
お前帰れ。もうこの際つっこまないからさっさと離れ部屋に戻れ。
「む、どうしたのじゃ若造。腹を押さえて」
「…ご飯、出来た…」
もう俺だけでも帰らせて貰えないだろうか。このガキにはどんな絶望を見せても良いからさ。確実にこのパツギンより俺の方が繊細だよね。
運ばれて来たのは盛られた微塵切りの…しょうが焼き(?)にこんもり添えられたキャベツ。その上にソースが掛けられており、緑な富士山に茶色い雪が降ったような地獄絵図が彩られていた。
―――それ食べ物ナンデスカ?
その夜から俺は決めた。裏茉鶴ちゃんの飯は食べないと。そして、ツルギの「美味じゃぞ?」という言葉は信じないと。アイツどんだけ味音痴なんだ畜生。胃も丈夫過ぎるだろ。
「お〜い若造ぉ〜。まだトイレにおるのか〜?」
えぇ〜、久々に裏の茉鶴ちゃんを出す為に書きました、一週間で。かなりギャグ少なめになってしまいましたが…どうだったでしょうか。
かなり無理やりなところがあったのはお許し下さい…。ついでにツルギも出していない事に気付いたんですッ。
登場数の多さをランキングにすると、冬兎→茉理→ツルギ→茉鶴みたいな感じになるんです。
いや、主人公ですからね冬兎くんは。一人人称だし、出なかった時ありませんし。
フルボッコにされるキャラには最適…えほんえほん。
それと今更気付いたんですが、30話まで後3話っぽいです。いや、プロローグとか二部三部構成にしたやつ入れるとですけどね?
実際にはまだ22話なんですよ。うわ…やばい絶望するほど進んでいない。こんなんで良いのだろうか。
ま、それは気にしないとして…ギャグのストックをドンドン溜めないと追いつかなくなって来た…。
これからもギャグ漫画を読み漁ります。
では、また次回にお会いしましょう〜!井戸ですた〜!