弐十ノ太刀・後【蹴り出された相性診断】
ホラー映画って…怖くないか?俺、B級映画でも涙目になるんだが。
いや、ジジィの方が怖いんだけど。ジジィがいきなり俺の部屋の扉を開けて「ストロベリー・ボンバァアアーッ!!!」って言ったら俺は次の日東京タワーの最上階から飛び降りるだろう。
それはそうと、本人は忘れてるだろうが俺のホラー嫌いは茉理のせいである。
俺が子供の頃、あいつが面白がってお化け屋敷に道連れにしやがったのである。最終的には二人とも子供とは思えない全力疾走をかまし、お化け屋敷から出たのである。あれからお化け屋敷には一度も入っていないのである。怖過ぎだろあの安っぽさと暗過ぎな館内。今思うとお化け見えねぇよ暗さで。
何が怖かったって怖がって俺を殴って来た幼い頃の茉理だ。あの頃は純粋な暴力だったから尚更痛かった気がする。
ガキの頃から苦労してたのだろうか…俺。
「茉理ちゃん達も来てたんだ?ジ○イソン」
新しい方程式、恋愛物=チェーンソウという事実を知った俺は放心していた。いやはや、外国は恋の仕方が過激ですね、驚いちゃったよ。
隣で俺の肩に手を置いている茉理は真っ青な顔色だ。教えてくれ、俺もそんな顔色なのか。
「やめてください、○ェイソンって言うの…夢に出ます…」
「俺はこれから向こう10年くらい聞きたくない名前だな…。今なら外国人のジェイソンくんを恐れの余り皆殺しに出来そうだ…」
余程映画が好きなのか、鐘茜卯さんは満足気だ。あの怖い映画でなぜ笑顔になれるかわからん、チェーンソウが死ぬほど好きなのか。
映画館から出て、少し歩いた所にある広場のベンチに座り込む。
「ふ、ふふふ…はぁ」
怪しげな笑いを発した後に溜め息を吐く茉理。心から疲れた人の吐く息だな。
茉理の隣に座ると俺も俯く。その俺の隣に鐘茜卯さんが腰掛けた。はは、両手に花だな…一人放心でもう一人は満足そうに謎のノートを開いてる訳だが。
「冬兎…ちょっと寄りかからせて…」
いきなりそう言うと、茉理は俺の体に寄り掛かって来る。ツーテールの金髪がふわっと舞った。間近で見るとこいつの髪はやっぱり綺麗だ、一本一本が輝いていてサラサラしている。
「ん…?アンタ、昨日風呂入った…?」
「―――――じ、実はツルギとドタバタやっててな。風呂入れなかったんだ、沸かす時間なかったし。シャワーは浴びたんだけど、わかるか?」
「前、アンタの服の洗濯してたのあたしじゃない。そのくらいわかるわよ」
最近はツルギのやつを俺が一緒にやってるからなぁ。飯は母屋の方で食うが、洗濯とか風呂とかはほとんど離れ部屋で出来るし。
洗濯機って便利だよね。古くてボロボロだから近くで地震でも起きてるのかと言いたくなるほど震えるけど。音がメチャクチャ煩いけど。
それとツルギとドタバタやってたと言うのは服装の件である。あのスポーツパンツとTシャツはやばいと言うことで服を買おうという話になったのだがツルギは嫌と言って聞かなかったのである。飯は食う癖に何で服は俺の服しか着ないんだ。
「母屋のお風呂…使えば良いじゃない」
「ダメだ。母屋の風呂は使っちゃいけないっていう決まりだしな」
「あたしがお爺ちゃんに言えば大丈夫でしょ…ちょっと怖いけど、あんなの理不尽だし」
「ちょっとでもジィ様が怖いと思うなら止めておけ。あのジィ様がお前にも理不尽なこと言い出すぞ」
そう言ってから茉理の頭を撫でると「撫でるなバカ…」と言いながら払い除けられた。何故だ、今の俺ものすっごくカッコ良かった気がしたんだが。
俺が行き場の無い手を眺めていると隣でクスクスと笑い声がした。
「二条院くんと茉理ちゃん、兄妹みたいだね〜」
――――ドゴッ!!
「あ、ああああああアタシ達は兄妹なんかじゃないです!」
「ぶふッ…何で俺が殴られるんですか…?」
頬に減り込んだ茉理の拳を掴んで退かすと、微笑んでる鐘茜卯さんに向き直る。
「鐘茜卯さんはあの映画を観に来たんですよね?」
「うんッ。えへへ、わたしホラー映画大好きなんですよッ」
やべぇ…こんなに良い笑顔で言われたら「俺は嫌いです!」なんて口が裂けても言えない。
茉理は復活したようで、椅子から立ち上がりこっちを見て来る。違うところ行くぞ!と言わんばかりだ。ホラー映画の鬱憤を晴らしたいのか。今のお前がゲーセンにある"飛び出すワニを叩くやつ"やったらぶっ壊しそうだな。
「ゲーセンでも行くか?」
「アンタが良いならあたしは良いけど。先輩はどうするんですか?」
茉理が訊くと鐘茜卯さんは少し首を傾げて「付いて行っても良いかな…?」と上目使いで言って来た。うん良いねその体勢、萌える。後ろで茉理が何かを感じ取ったのか拳を握り締めていたが、気にすることはないだろう。
「ふははッ俺に掛かればゾンビ如きこんなもんよ!」
俺は銃を構えながらヘッドショットばかりを決めていた。やはりバイオは良い…日頃のストレスをゾンビにぶつけられる。Aと出たランクを見て俺のストレスゲージが段々と下がって行く。
「…なに?このランクSって」
「―――し、素人に負けた!?この俺が!初めてやった奴に!しかもSだと!?」
「わぁ〜…全部頭だよ」
強力プレイを隣でしていた茉理は見事にゾンビ全部をヘッドショット。おまけにボスから1ダメージも受けずにクリアしたのである。反射神経とか狙い攻めが半端無いぞ。
銃を置き台に戻すと、茉理は片目を閉じながらこっちを見ている。
「撃てる奴なら怖くないんだから」
お前すげぇな。横の通路からいきなり出て来る敵にピクリとも動じないんだから。そして敵の見逃し0。残数無しのヘッドショッドパレード。無敵かお前は。
その後も自衛隊に入隊して戦場を銃一本で駆け抜けるゲームや太鼓を意味無く叩くゲームをやったが、茉理はことごとくやって退けた。お前もう百年戦争中にジャンヌ・ダルクの隣で戦争やってたんじゃねぇの?と訊きたくなる出来だ。
鐘茜卯さんに至っては…まぁ外見通りでは無いんだ。ポニーテールだし、結構活発そうなんだけど…中身がちょっとお日様みたいな子だ。ノンビリさを発揮して見事にGAME OVERの嵐である。
「茉理ちゃ〜ん、これやらない?」
鐘茜卯さんが少し怪しげな箱を指差しながら言った。
人が精々四人入れるかどうかくらいの大きさ。プリクラの完全密封版みたいな感じか。あ、密閉だと窒息死してしまうか。
「『相手からの印象チェック』…みたいだよ?」
入り口の扉を開けながら茉理においでのジェスチャーをしている。よし、俺も行かなくては!
「アンタは来なくて良いのッ」
―――ドガッ!ゴロゴロゴロ…
「蹴り出さんでも良いよね!?」
「アンタが入って来たら変なことしそうなのよ!」
そんな閉鎖空間で何かやったらお前に半殺しにされるの目に見えてますよね…と言おうとしたら箱の扉が閉まった。
良いもん良いもん、格闘ゲーで俺強ぇwwでもしてるもん。
格闘ゲーも色々種類が出て来てるからなぁ。美少女ばかりの格ゲーなんてもう一般的だし。あの「ハドウケ○!!」とか機械的に言うのが良いんじゃないか。空中で横回転しながら飛び回るのが良いんじゃないか、竜巻旋風脚大いに結構。良いぞ、もっとやれ。
「……ん?なんだあの人だかり」
格闘ゲームコーナーに行こうとすると、結構な人だかりが出来た場所があった。
――すげぇぞあの女の子!
――パンチングマシーンの数値あり得ねぇって!
どうやら連続で言われた数字を殴るパンチングゲームのようだ。しかしあんなに人だかり出来るってどんな奴なんだ。
人の隙間を通り抜けながら近付くが、ほとんどが男なのでかなりむさい。しょうがないので力尽くで抉じ開けて行く。
やっとこさで人だかりから顔を出すと、俺は目の前の光景に我が目を疑った。いや、疑いたかった。
「行け〜茉鶴〜!」
「は、はい!4、5、9、1、8、11、7ッ!」
人型のパンチングマシーンに付けられた番号目掛けて、蹴りや拳が炸裂する。金髪の少女は番号を言うと同時にその箇所へ拳を移動させた。残像が見える…。
右片方だけリボンで縛られた髪がもう見えなくなるほど揺れている。
「6、2、10、10…1ッッ!!!」
止めの一撃と言わんばかりの膝蹴りが人形の1番と書かれた腹に命中する。哀れ人形、もはや中身のゴムが見えていて無惨としか言いようが無い。
少女は白いワンピースの皺を払って直すと、見ている観客にやっと気付いたようで――、
「え、えっと…ど…どうも」
パンチングマシーンの前にいる観客(主に男)が雄叫びを上げた。お前等元気だな、おい。
「流石茉鶴なのじゃッ」
「よ、喜んで頂けて何よりです。その…い、良いんでしょうか?お兄ちゃん達に内緒で来てしまって…」
「なに、心配するでない!吾が言えば若造も一発しょうだ――あ、あだだだだだだだッッッ!!!!!?」
俺は調子に乗っているツルギの背後を取り、頭の左右に拳骨を押し当ててグリグリをする。
「誰が一発承諾だぁ…?確かお前には留守番頼んだよなぁ?」
拳骨を解いた後にツルギのTシャツの襟首を掴んで目線が合うようにした。ツルギは色々と目線を泳がせると、焦り口調で、
「ま、待て若造!違うのじゃ違うのじゃ!小娘と若造の話を聞いての!?茉鶴に訊いたら面白ぅ場所と伝えられたのじゃ!だから、だからのぅ…お、置いて行くなんて酷いのじゃぁ」
「お前二度寝してたじゃないか…」
俺は知っている。こいつが「いぇーい…とぅー…す…」とか意味不明な言葉を口ずさみながら布団に倒れたのを。
「し、知らなかったのじゃ…娯楽に行くなどとは。わ、吾だってたまには遊びたかったのじゃ…」
そう言えばこいつ、結構…というか大きなことが無い限り家から出ないもんな。いつも素振りしてたり目玉飛び出すほどの運動神経披露するだけだったし。
たまにはこういう所にも連れて来てやらなきゃいけなかったか……だが俺は忘れない。お前のせいで背中が焦げた事を。
涙目のツルギを地面に下ろすと物凄く長いサラサラの銀髪を撫でる。いつもこんな感じだったら…可愛いのになぁ、残念。
「ま、置いて行っちゃったのは俺だしな。今度また改めて連れて来てやるから、今日は帰るぞ?」
「し、仕方ないのじゃ!今日は若造の言葉も汲んでやるとするのじゃ!」
お前帰ったらもう一発グリグリ決定な?
俺は笑顔で心を戒めながら、今だ興奮の収まっていない観客達に苦笑いをする茉鶴ちゃんの肩を叩いた。
「茉鶴ちゃん、今日って俺が買い物当番だったよね?」
「あ、はい、そうですけど…」
「それじゃ、市場で買い物しながら帰ろう。ここのはきっと高いからな。そろそろ茉理達も来るだろうし」
こういう大きいデパート何かは食料品が高いと相場が決まっているのだ。お決まりの市場なら半額ちょいくらいで買える物が多いだろうし、そっちの方がツルギも喜ぶ。
「帰りにアイス買ってやるからな〜チビっ子〜」
「うぁああああ〜〜撫でるな!!吾自慢の銀髪を撫でるでない!」
さっき普通に撫でてたよな?俺。もう一発ここでグリグリしてやろうかしら。
「冬兎〜〜!どこにいたのよ、探したじゃな――あれ?茉鶴にツルギ?」
「あ、巫女服の子だ♪久し振りだね〜ッ」
やっぱりああいう近代的な感じの町並みは少し疲れる。
俺には海とかに囲まれてて、笑顔で野菜とかを押し売りして来るおばちゃん達がいる市場の方が合ってるなぁと、目の前を歩いている女の子達を見て思ったのである。
「若造若造♪このアイスと言う物は美味じゃなッ。本当に抹茶の味がしおるぞッ」
「アイスなんかで大袈裟ね…あ、ほら茉鶴、アイス頬に付いてるわよ」
「あ…うん、ありがと、お姉ちゃん♪」
「ねぇねぇツルギちゃん、この苺のアイス食べてみない?♪」
お、俺には何にも無しなんだよなぁ…。良いよ良いよ、俺は買い物袋片手に一人でアイス食べてるのがお似合いだよ。
「…むふふ♪」
「……あんだよガキンちょ」
「ほらほら若造、あ〜〜ん♪とするが良いッ。吾が美琴にされたのが羨ましかったのじゃろう?」
―――したり顔で言って来る辺りがウゼェエエこんのォォガキィィィィイイイイイイイイイイイイイイ―――――――ッッッッ!!!!!!!
ちょっと早くまとめてしまった感が否めない今回、どうだったでしょうか。面白かったのならこれ幸いです。
最近読者さんも増えて来てくれて、嬉しい限りです♪
そろそろ茉理ちゃんがバラドルみたいになりそうな予感がするのですが皆さん…そいつをどう思う?
はい、関係ない話は置いておいて、今回は新しい場所、デパートメントと久々に鐘茜卯さんが登場しました。
彼女の事情は端折りまくりました。すみませんまだ書くところまでいっていませんでしたッ!
えっとそれでそれで…冬兎くんはデートの場所にここを使うのでしょうか。
もし使うなら誰が相手なのでしょうか…作者はまだ考えていない。
ハーレム?よし、もっと来いwww
ハーレムエンドも出来ればやろうと考えていますw
しかし最近執筆ペースが下がっている。目に見えて面白くなるほど下がりまくっている。
一日に書くペースが良い時は5000文字。悪い時は84…落差がでか過ぎないか…?うん、頑張れ僕。
あん○い先生……茉理ちゃんが素直になる話を書きたいです…
「キャラ設定を変えてしまったら…そこで小説終了だよ?」
あぁ、ということはキャラ変えたら終るってことなんですね?わかります。
では、次回でまたお会いしましょう!