弐十ノ太刀・前【愛と恋はチェーンソウ】
ピアノ…バイオリン…フルート…全て、わたしは弾けていた。
楽器製造会社社長の母と楽譜作家の父を両親に持ち、わたしには楽器の才能が宿った。
気付いたのは小学校の頃だった。手に何かの楽器を持つと、一回も扱ったこと無い物でも二、三回練習をすると人に見せられるくらいの腕を得られる。
わたしは褒められて嬉しかった。お母さんは忙しくてあんまり会えなかったけど、少ない時間をやり繰りして家へ帰って来てわたしの演奏を聴いてくれる。美琴は音楽上手だね、そう褒めて貰えて頬が紅くなるほど嬉しかった。
お父さんは楽譜を書いて、わたしに一番で演奏をさせてくれた。お父さんは笑顔で聴いて、その楽譜はいつもわたしにくれた。わたしだけの為に書いてくれた、そのことが嬉し過ぎて舞い上がっていた。
幸せだった。本当に幸せだった。
―――今のわたしは、何の音も奏でられない、ただ楽譜を書いて捨てるだけの人形なんだから。
茉理が隣で放心している。反対側の隣では鐘茜卯さんが手帳に何かを嬉しそうに書き込んでいる。。
俺は何でこの二人と一緒にこんなところで休憩してるんだろうかと思い出していた。
先ず朝、茉理がいきなり起こしに来た。布団を取られたと思ったら俺の上でツルギが俺に抱き枕よろしくの体勢で寝ていた。どうやらまた潜り込んでいたらしい。
でまぁ「ちくしょぉおおお―――ッ来いやぁあああああ―――ッッ!!!」と腹を決めて叫んだところ、俺の体は壁を突き破り離れの部屋から飛び出した。無論、茉理の蹴りによってである。ここで一言言わせて貰おう、黒ニーソ最高。
復活してから部屋に戻ると半分寝ているツルギ相手に茉理が説教をしていた。
「良い!?男は全部獣なんだから母屋の空部屋に来なさい!」
「へにゃ…オノコはぜんりゅけろにょだから…おもにゃのあきをつかわにゃい…」
「アンタどれだけ低血圧なのよ!しかも使わないって言ってなかった最後!?」
無駄だ、ツルギは起き抜けは何言っても通じない。自信持って言える。
というわけでツルギとの会話のキャッチボールとは名ばかりの茉理一人演説が終わり、今度はこっちに矛先が向くわけで…。
「このロリコン、病院に行って来なさい」
「テメェ!俺に向けての第一声が天変地異起こすほどきついぞ!?」
「アンタはこれくらい言わないと反省しないじゃない」
俺はどこの問題児だ、おい。俺の方が年上なんだぞ…今更何言っても遅いだろうが。
「それより…と、冬兎…あ、あああああああたし、映画に行くのッ」
「あ、そうなの。いってら」
――――――ドゴォオオオオ――――ンッッッ!!!!
離れ部屋発進Take2
また壁の穴が大きくなった。玄関使わなくて良いな。
「ゴホッゴホッ!稲妻のような蹴りだ!」
少し遅れたが比喩をしてみた。余り深い意味はない。
壁に出来た穴からアクロバティックに侵入。そのまま宙で一回転した後、新体操を真似て前転。半目の茉理に指鉄砲の銃口を向ける。
「こちらトウト13(サーティーン)、ゴ○ラを殲滅する」
――――――チュドォオオオオオオ――――ンッッッ!!!
正面玄関扉吹っ飛ばし発進Take3
あぁ、遂に最後の正面扉が俺と一緒に吹き飛んだ。隣を扉が飛んでるのはシュールだな。
ドサリッと重い効果音と共に俺の体が地面に着地。良いパンチだ…茉理…。鳩尾は色んな意味で危険だけどな…。
起き上がる気も失せ、突っ伏していたところ、目の前に見慣れたスポーツシューズが現れる。
「冬兎!い、ぃいいい一緒に映画行くわよ!」
「お断り――しません!楽しみだ映画!もう何でも見ちゃうよ俺!?」
顔面踏み潰されそうになったので大急ぎに訂正して笑顔を作る。母さん、やっぱり暴力は力だよ。優しさが世界を救うわけじゃないんだよ。
そして俺は忘れない。ツルギが半目で「いぇーい…とぅー…す…」と言いながら二度寝に入ったのを。もうあいつは何がなんだかわからん。
デパートメント…『少しでも都会っぽさを!』というスローガンで最近造られた場所。まぁ、俺達の家からだとバスで30分くらい掛かるのだが。
映画館や小さな遊園地、ショッピングモールと色々揃っており、結構人も多い。
…いやしかし、白いミニスカートと黒いニーソの間の絶対領域…夢一杯だな。熱くないのだろうか、上着は半袖なのに。
「なぁ茉理、お前今日変だぞ?」
手と足が一緒に出てるし、普段あんまり気を使わない茉理が隣を同じ速さで歩いている。
「…べ、別に変じゃないわよ」
変だ。いつもの調子ならこいつは今の俺の一言で蹴りを繰り出していた筈だ。それが今日は赤面癖全開で俯いている。一体全体どうしたのだろうか。
頭を掻きながら困っていると、外見的にもチャラそうな男が一人近寄って来た。
「ねぇねぇ彼女達〜ッ。今ヒマぁ〜?もし良かったら〜オレとカラオケでモゴォッ!!!?」
茉理が無言で繰り出した裏拳とムカついた俺の回転回し蹴りが男の顔を挟む。俺は彼女"達"と言われてキレたのだが、茉理はまるで気付いていないようだ。こう、言葉の暴力が無い。
男が倒れたと同時に、少し歓声が起こる。普通なら警察呼ばないかこれ。
「え?なになに?」
「…お前やっぱり凄いよな」
どう見ても言葉より手が先に出るタイプのお手本だよ、という言葉は墓場まで持って行こう。
その場にいて面倒なことになるのも嫌なので黙ったままの茉理と一緒に映画館ホールに移動する。デパートメントはビルが何本も建っていてその間に渡り廊下があり、そこから遊園地や映画館の区画に別けられて…いるんだそうだ。俺だって今さっきあったパンフレットを軽く見ただけだから上手くわからん。
「と、冬兎!その…これから観る映画…れ、恋愛映画なんだけど…平気?」
いきなり喋り始めたと思ったら今度は小声になる。変だ、明日は槍が降る。
「良いよ別に。出来れば泣けるやつで頼む」
「それは…大丈夫だと思う。…クラスの子に紹介して貰ったんだもん…大丈夫に決まってる…」
やばいなぁ、こいつ今日独り言多い。怖い、もしかして俺を暗い映画館の中で人目につかないように殺る気なのか。
冷や汗を流していると茉理がスカートのポケットから財布を取り出して、その中から映画のチケットを取り出す。なんだ、用意してたのか。
「ジェイ○ンってやつみたいだけど…」
なんか、どっかで聞いたことある作品名だな。それは…著作権的にどうなんだろう。
チケットで口の辺りを隠しながら茉理が(これで良いの…?)と言わんばかりの表情で問いかけて来る。
「チケットがあるんだから、勿体無いだろ?それに映画だって久し振りだしな」
「…ま、まぁ別にッ?アンタが観たくないって言っても観るんだけどッ!い、いいい一応聞いてあげたのよ!」
「じゃぁ別に聞かなくてもいいんじゃ――」
―――――ゴスッドゴッベキャッバキィィイイッ!!!
「な、なぜ…ぐふッ?」
何で殴られたり蹴られたのか理由がわからないんだけど。
「なんかど、どきどきしてるあたしがバカみたいじゃない!もう良いわ!さっさと行くわよバカ冬兎!」
いきなり普段の調子に戻ったな…。いつものこいつの方が俺も話しやすいけども。
襟首を掴まれてずるずる引き摺られて行く。うん、いつものこいつの方が付き合い易いけども、もうちょっとおしとやかにしてくれると助かる。暴力減らして下さい。
「こいつが超鈍感って嫌ってほど知ってたのに!絶対普通に映画観てやるんだからッ!」
「だから普通に映画観るのが目的なんだ――ぐぇぇぇぇぇぇ…」
『なに…?なにがあったの…ッ?い、いやぁああああああああッ!!』
館内の画面にはチェーンソウを持った男が外国人の女を殺す殺戮が映し出されている。
これが…恋愛…だと?恋愛=チェーンソウと言う新しい方程式を…外国は生み出していたと言うのか…ッ!
「あ…あ、来る来る来るぅ…ッ」
茉理は怖い物見たさの法則に乗っ取り、手の平で顔を覆いながらも指の隙間から映画をチラチラ見ている。なんと言うか…怖がり方が器用だな。
そんな関係ないことを考えていた時、遂にまた一人男が殺された。
『うぁああああああああああ―――ッッ!!!ばんばんじぃいいいいい―――ッッ!!!』
「にゃぁあああああああ…ッ!!!ばんばんじぃいいいいい…ッッ!!?」
怖過ぎたのか茉理は俺に抱き付きながら俳優と同じ台詞を小声で叫んだ。
俺も普段ならちょっとは嬉しがるんだろうが…残念ながら怖過ぎて体が凍り付いた。動こうにも体が言うことを聞いてくれないし現実逃避する以外道が無い。
今の外人…悲鳴がバンバンジイになってなかったか…?
「冬兎冬兎冬兎ぉ…!怖いよぉ…!」
「ちょ…ッ!お前…怖がって首絞めんな…ッ!!し、死ぬぅ…俺が死ぬぅ…!くそぉ…ば、ばんばんじぃぃぃぃぃぃ…ッ…」
ダメだ、このままじゃいつものように意識飛んで終わってしまう!それはダメだ!
俺は渾身の力で凍り付いた自分の腕を動かすと、茉理の背中に腕を回す。
「大丈夫…、大丈夫だ…俺も怖い…ッ」
「やっぱり怖いんじゃないのぉ…!」
『やめて!ころさな――――キャァアアアアアアア―――ッ!!ばんばんじぃいいいいいい――――!!!』
「いやぁぁぁぁぁぁぁ…!!ばんばんじぃぃぃぃ…!!」
とりあえず首絞めは開放されたが、今度は俺に激しく抱き付いて来る。役得…と言いたいところだが俺も怖がっている。プラスマイナス0の方式だ。
うん、もう悲鳴がばんばんじいなのは気にならない。チェーンソウ怖い。
茉理の震え方が半端無い物になって来た。
「…ひっく…怖いよ…マスク怖いよ〜」
というか泣いてた。そこまで怖かったか。まぁ俺なんて凍り付いてるからな。
もうホラー映画なんて一生観ないから助けて下さい。これ以上殺される人を見てると夢にチェーンソウが出そうです。
「う〜ん…スプラッターとしては良い方だけど…ホラーとしては怖くないかな」
こんなに怖い物を怖くないだと?お前ちょっとホラー屋敷に一緒に入ろうぜ。
茉理と反対の隣を見ると、あのポニーテールが見えた。手帳のような物を開いて何かを書き留めている。
「うんうん、また新しいノート買わないと……ん?」
俺の視線に気付いたのかポニーテールの子の視線がこっちに向く。
俺の顔を見た後、その視線は俺の腹の辺りにあるツーテールにぶつかる。少し驚いているようだ。
「二条院…くん?」「鐘茜卯さん…?」
まぁ…うん、はっちゃけましたよ?
すみませんすみませんすみません…茉理のキャラ崩壊してしまった人はすみません。
そういえばあれですね、土日以外に提出したのは久し振りですね。
どうですかねぇ…平日に執筆した方が良いのだろうか。やっぱり土日なのかな…。
…それと作者めちゃくちゃホラー苦手です。
バイオをやりましたが4では涙ちょちょ切れました。主人公が腰抜けにww
うん、やっぱりまぁ強力な武器使えばゾンビも怖くなくなるんですが。
今回はえっと…あ、そうだそうだ。
茉理と冬兎が中心な話でした。最後の最後に鐘茜卯さんが出て来ましたが…後編に続きます。
もし、もし鐘茜卯さんが好きな人がいたら幸いです。でもあんまり活躍しないかも。
実は…作者も見ました、設定の為にジェイ○ンを。やべぇ、怖さ半端無い。もう観たくない…(涙
やっぱり観てて爽快…もしくは泣ける話が良いよね!バイオはアクション多いけどグロイし怖いじゃん?
それじゃ、後編に続く20話もどうぞ宜しく…って今気付いた20話に行ったんだ!