十九ノ太刀【アイツと俺とセクハラと】
木がこんなに育ってるなんて思わなかった。お姉ちゃんには感謝してもしたりない。
この紅葉が、まだ小さいけど無事に育っているのは本当に嬉しい。わたしがここでちゃんと生活をしていた時を楽に思い出せる。
最初、この紅葉の苗を持って来たのはお兄ちゃんだった。それをわたしが生めて…それから直ぐに沖縄で修行することが決まって。
嫌だったけど、わたしは沖縄に行くことを選んだ。自立したかったと言うのもあるし、あの頃、わたしは本当に弱かったから。もう一人のわたしに頼るしかなかったから。
もう一人のわたしは少し怒りっぽくて…それで優しい子。だから、あの子だけにいつも戦わせるのは心苦しかったから。
わたしは、強くなれただろうか。そうだったら、嬉しいな。
お兄ちゃんに貰った麦わら帽子、お兄ちゃんは覚えていないみたいだけど、わたしはこれのおかげでいつも頑張れてた。だから、ちゃんとは言えないけど…ありがと、お兄ちゃん。
あの水泳事件から次の日。警察の俊敏な行動によって黒服(半殺し状態)は全員連行されて行った。つぅかあんな暴れ回ってたんだから通報する前に気付けよ。もうちょい早く来てたら黒服殴り続けてる銀髪ロリを見れたぞ。
まぁ後日談だが、黒服の奴等は口々に「少女の姿のゴ○ラ」やら「青に叫ぶ狂戦士」と言っていたらしい。外国人がなぜゴジ○を知っている。
しかしまぁ…ツルギの怒りがピークに達するとあぁなるのかとわかったから良しとしよう。俺もキレさせると黒服と同じことになるかも知れん。
あぁ…背中が痒い。治癒力半端無い…もう直るなギャグアニメのキャラか俺は。
「で、何で俺をこんな格好で呼んだんですか?」
そんなこんなで俺は女子制服で生徒会長室にいた。いや、どんな繋がり方かは俺もわからんのだが。
「貴方に…いえ、言い方を変えましょう。男の貴方にやって欲しいことがあったから呼んだんですわ」
伊藤静と激しく似ている声で会議中の社長雰囲気をか持ち出している。いやぁ〜良いな会長の声。俺さ、伊藤静さん好きなんだよね。ていうかさ――、
「俺が女に変身出来るみたいな言い方だな、おい」
「だいたい合っているじゃありませんか。その格好だと、どこからどう見たとしても女子生徒ですわよ?」
全然嬉しくないのは当たり前だ。俺は特殊性癖持ちとか女装趣味とかじゃない。
会長は少し豪華な椅子に背を預けながら俺を見る。
「それで…こほん、貴方への依頼をしたいのですわ」
脚を組んで顔を赤くしている。なんだか得意げな顔だ。こりゃカッコいい依頼人が出て来る小説かドラマを観たな。
「男子部にわたくしのいも…いえ、弟がいます。その子を…護って欲しいのです。わたくしと同じようなことが、その子にも起こるかも知れないのです」
「黒服マッチョ衆が?会長の弟だったらボディーガードが就くでしょう?」
…なんかスカートがいやにスゥスゥする。
「それが出来れば…あの子も苦労しませんわ…」
会長は溜め息を吐くと人差し指だけを上げる。…上?
「なぜ天井を見るんですの?」
「え、何かあるんじゃないんですか?」
「違いますわ!ひ、ひひひ人がせっかく格好良く―――ッ!!!」
おい、今完全にしまった!って顔したよな。やっぱりカッコいい雰囲気は演技だったか。
口元を抑えていた手を下ろすと、「こほんッ」と咳払いをし、俺を見る。
「貴方に一番似合っている依頼だと思うのです。というより強制ですわね。弟を護りなさい、二条院さん。もし危ない状況になったとしても、私設部隊が動くのでそこは問題ありませんわ」
「だったら俺要らないじゃないっすか」
やばい、確信突いてしまったッ。
「あ、貴方には弟のメンタルの方をサポートして頂きたいのです!付属から上がって来たとは言え、いつまでもこの学校で友達がいないのは…流石にストレスでしょう」
俺はクラスの友達を色んな意味で持ちたくないのだが。ついでにストレスなんて俺は臨界点を超えるほど溜めてるぜ。
俺ストレス解消する方法が極端って言っていいほど少ないしな。木刀振るのは苦痛だし、風呂入ってリフレッシュって性質でも無いし。ゲーセンで初心者相手に『俺強ぇえ!』とかするタイプでも無いし。
「えっと…もしかして、弟くんは…根暗っ子?」
「そんなことありません!ただ…事情がありますから、そんな簡単に近しい友達を作れないんですわ」
その事情が根暗って訳じゃないよな。そうだったら俺怒るぞ。
「あのツルギと言う子の無断参加に合わせて貴方の女子部への侵入アンド猥褻プール潜入…貴方がなぜ背中に怪我を負ったか知りませんが、これは責任の行方がわかりませんし」
そういえばツルギの刀は誰にも見えてなかったんだよなぁ、茉理にも…理不尽だ。バレてれば問答無用であいつを実験所送りに出来たのに。
「それに俺猥褻目的じゃないし傷もう治ってますよ!?」
「早過ぎじゃありませんこと!?どんな体ですの!?」
ツッコミを入れてくれるとは思わなかったのでちょっと感動した。
「こ、こほんッ…弟の名前は榊原 涙。頼みますわよ、二条院くん。とにかく一度、弟に会ってみて下さい。貴方の隣のクラスですから、次の体育は同じですわよね?」
なんか仕組まれてた絶対仕組まれてた。じゃなけりゃこんなタイミング良く合同授業でマラソンやるなんて言わないよ。
「…えっと、隣のクラスで榊原…か」
しかし鈍感にも程があるな俺。榊原のしかもご子息の生徒が隣にいるって知らなかったとは。うん、まぁ俺男の情報積極的に集めたくないし。
「え…浮気…?わたしがいながら…」
「殺すぞ!?ミンチにしたあと焼却炉で灰にしてやろうか!?」
俺と杏樹は背を合わせストレッチをしている最中。こいつ以外俺を見る目がやばいからな。杏樹もやばいんだがクラスの奴等は洒落にならない。
「んもぅ♪フユにされるならホ、ン、モ、ウ♪」
「ダメだ。お前と普通に会話しようとした俺がバカだったんだ」
ストレッチをやりながら取り合えずそれっぽい男がいないかチェック。なんか男を狙ってるあれな人みたいな感じでとっても嫌なんだが形振り構ってられない。
そういえばこいつ17話…こほん、昨日は空気だったな。俺が名前出しただけで終わったし。
「……なんか失礼なこと言ってる…?よしッ♪お仕置きをしに公衆便所に行こっか♪」
「こわッ!普通のホラーより怖いし背中に俺を背負ったまま行くな!どんだけだッお前!体細いのにこのパワーはどこからァアアアアァァァ―――――ッ!!」
杏樹とのバトルでかなり体力を消費してしまった。先生、向こう一年分のストレッチやったので今日は帰って良いですか?とか言ったら殴られるのだろうか。
最後のストレッチをやっていると、隣のクラスに一人、変に挙動不審な奴がいた。顔を赤らめて涙目になっている。顔は…男の俺が言うのもなんだが、全面的に可愛い方向に寄っている。あれは…女じゃないのか。
そう言えばあいつの近くを通る奴って絶対いやらしい目を向けてるよな。俺も向けられてるんだがもう慣れた。図太いガラスのハートなんだ。
「あ、あれってルイじゃない?お〜い、ルイ〜ッ」
いつの間にか後ろにいた杏樹が俺の肩に手を置きながら右腕を振る。
良く見たらあいつ会長の面影があるな。なんで気付かないんだ俺。
涙は杏樹の呼び声に恥ずかしそうにしながらも、こっちに近寄って来た。こいつ本当に友達の幅広いな。悪いこと言わないから色んな意味で友達選べよ。榊原のご子息だぞ、おい。
「わ、若本さん…その、あんまり大声で名前を呼ばないでって…」
可哀想に。色んな男に視線を向けられて涙目だ。俺もわかるぞ、君とは友達になれそうだ。
「あ…。その…あの…」
涙が俺に気付いたのか顔を俯かせた。どこまで内気だ。根暗のちょい前か。
「始めましてなんだよね?この人は、わたしの幼馴染で彼氏の二条院 冬兎くんだよ」
「おい待て。サラリと言われたからツッコミが遅れちまった。誰が彼氏だ誰が」
杏樹を振り払ってから、とりあえず涙に向き直る。
「名前は…こいつが言ったな…俺は涙って呼ぶからキミも好きに呼んでくれ」
「…ほ、本当に浮気なの?フユ…」
「お前あとで体育館裏に来いとか言われたいのか、こら」
…少し通っただけで愛着の沸く通学路だよな。上り坂あったり階段あったり。どこのギャルゲーでヒロインは誰だ。
しかしまぁ、トレーニングにもならないが授業には参加しないといけない…と言う訳で通学路をマラソン中。二時間使ってマラソンなんて有意義だよなぁ。
「涙は慣れてるのか?このマラソン」
汗を軽く流している涙に話し掛ける。やっぱり"先ずは友達から"作戦だよな。なんだこの無理に彼女作ろうとしている俺のノリは。
「え、えっと…うん、そうだよ…?」
なぜに疑問系だ。そこは自身を持って「うん!僕ここの道、目を瞑っても走り切れるんだ!」とか言ってくれないと。会長にネタを持っていけないじゃないか。
「俺、従妹達と通学しててな?殴られるわドつき回されるわで景色あんまり見れてなかったから、こういうのってなんか良いよな。前の学校じゃなかったし」
「…ぼ、僕もマラソンが好き…かな」
「わたしもマラソン好きだけど―――フユと走れるからもっと好、き、よ♪」
「お前このまま神戸海に投げるぞ?♪」
どうやら走る速さは決められていないみたいなので、運動部はハイペースで飛ばしてるしそれ以外の野郎はノンビリと歩いたり友達と話してる。
海が近いからこの夏でも気持ち良く走れるな…隣の杏樹のせいで萎えたが。
「若本さんと二条院くんは…お知り合い…なの?」
「そうよ、お尻愛…♪」
「あのバカ会話出来ないから放っといて良いぞ。それと、やっぱり俺のことは冬兎って呼んでくれ」
なんか苗字で呼ばれるとお前の姉貴を思い出すから。
「…と、冬兎…くん?」
「おう。それで良いんだ。…ん?あのバカ…お〜〜いアンジュ〜〜!!置いて行くぞ〜!?」
妄想にふけっているのか知らないが、その場で立ち止まっていた杏樹を呼ぶ。こっちに気付いたのか、駆け寄って来た。
「子供は二人が良いッ!」
「殺すぞ!?何言うかと思ったらそれか!今度言ったらコンクリに埋めて海へ投げるぞ!」
こんな会話をしながら、俺達はいつの間にか走らずに、並木道を歩いていた。何だかんだで涙も会話に混ざってたし、会長との約束は果たされただろう。
なんだか後ろの男子が「俺はあの二条院のスラッとした太股が!」とか「杏樹は王道だろ!」とか「榊原はちゃん付けの方が良いと思うんだ?」等を言っていたが気にしない。大丈夫、見付からないようにそこ等辺のベンチを投げて制裁するから。
今回下ネタがちょっぴり入ってしまった…良いジャマイカセクハラ。
うん、下ネタを入れると執筆がはかどります。
久し振りに一週間前で新しい話を更新できましたし、これからもこのテンションでいこうかどうか迷います。
えぇ〜、そうですね〜。会長のキャラがドンドン崩れるなか…新キャラ登場です!涙ちゃんです!
どうですかどうですか、引っ込み思案な子ですよ!?
ネタバレは出来ませんが頑張ってキャラを創ります!
壊れないように!
早くも次回を書いていますが涙ちゃん出て来ない!バカか俺!氏ね俺!
次回は茉理と冬兎が色々とやりまくります。
というわけで次回もお願いします!