十八ノ太刀【令嬢、刺客、トキドキマッチョで…】
『ほう、小童は幼いながらに色々経験しておるのだな』
俺の隣でブランコに乗った女の子が言った。珍しい髪と目の色がカッコ良い。
『別に、お父さんがいないだけだし…』
『いや…小童、貴様は強い。幸福が当たり前な者は自分の親御さえ邪険に扱うものじゃ。それに比べれば、吾にはお前が諸侯に見えるぞ』
『しょこう…?』
聞き慣れない言葉を言った女の子に首を傾げる。
『普通の者より上に立つ者ということじゃ。まぁ、実際には平民の税を食い潰しているだけの者達に過ぎぬが…な』
女の子はそう言うと悲しそうに空を見上げた。何かがあるのだろうかと思い一緒に見上げたが、俺には何もないいつも通りの空にしか見えない。
少女の人差し指が空を飛んでいる一匹の鳥を指す。
『小童…無邪気なお前に問う』
俺が女の子の方を向くと彼女はニヤリッと笑いブランコから立ち上がる。
『空を一生孤独に飛ぶ鳥と…誰かを蹴落とさなければ生きられない人―――小童、お前ならどちらになりたい?』
目を薄く開く。このダルさは気絶してたってことか。やばいなぁ、気絶と寝ていたのが直ぐに判断出来るのはやばいのだろうか。
というか胸元辺りに圧迫感があるんだが――、
「…ん……冬子…?」
胸のところで腕枕をしていた会長が俺の動きで起きたのか目を擦っている。
「冬子、背中は大丈夫?」
「え………あ、あぁ!あぁあぁあぁ!」
そういや銀髪クソ娘に止めを刺されて昏倒したんだっけ。あいつにはやっぱり早めに引導を渡さねばならないのだろうジジィと一緒に。
そういえば俺の手首に手錠が着けてあるのは何故だろう。
「それと冬子、わたくし、貴女に聞きたいことがあるのですけど…」
俺が目を向けて首を傾げると会長が咳払いをして腰に手を当てる。どうやら重要な話なようだ。百合か、この俺の姿だとここから百合になるのか。
「貴方、男の方…ですわね?」
オウ、彼女。今日はドンナ日になるか楽シミデース。
しかしその日、午前中にトムは自転車サイクリングで宙転テクニックを失敗し、顔面から地面に突っ込み、倒れたところを車に轢かれてしまったとのことです。
「オウ…災難デース」
焦りの余り関係ないトムの話を持ち出してしまった…。というか外国人なのによく災難とかいう言葉知ってるな。
「なぜ、女子部の水泳大会に参加していたのかわたくしにはわからないのですけど。どういう訳か説明してくれますかしら?」
説明を訊いてくれる時間はくれるんですか、あり難い。茉理が相手だったら弁解どころの話じゃないし、俺この時点で生きてるかどうかも怪しい。
しかし保健室。そしてもしここから逃げられたとしても相手は生徒会長だ。確実に俺をジワジワと責め立てて行くことだろう。ドSなところは何だかんだで似てるな茉理と。Sには精神的に責めるのが楽しい奴と肉体的に痛め付けるのが好きな奴がいるらしい。極端だチクショウ。
「嘘をついたら承知しませんことよ!貴方、本名は二条院 冬兎と言いますわよねッ」
「あぁお願いです!酷いことなら幾らでも受けますから家に電話だけは!」
なんか万引きして見付かった少年Aみたいな答え方だな。
だけどここで家に電話された日には茉理に死ぬほどボコられた挙句に茉鶴ちゃんに白目で見られ最後にはジジィに止めをさされることだろう。その時は相打ちになったとしてもジジィだけは殺そう。
「わたくしに調べられないことがあるとでも思いまして?貴方の苗字から見つけ出すなんて寝ながらでも出来ますわ」
流石に寝ながらパソコンは出来ないんじゃないでしょうか。
「…こほん、流石に寝ながらは無理ですけど…」
恥ずかしがるくらいなら言わなければ良いのにと思わずにはいられないな。
「下心があった訳では…ありませんわね?」
「パツキン娘がいるのに!?キャビア買う金が無いからサメの群れに槍一本で突撃するかとか考えた突発ゆとりの考えですよ!?あとこの手錠外して下さい!?」
「わかりませんわ!男は皆、獣だとお母様が言ってましたもの!外したら何をするかわかったものじゃありません!それとお父様とはもう3ヶ月口を利いておりません!」
哀れお父様。きっとお母様は悪い虫が付かないようにとか違う意味で言おうとしたに違いない。絶対に一番の被害者はお父様だな。
「とにかく!俺はちが―――、」
パリィィ――――――ンッッッッ
先ずヘリコプター特有のプロペラ音がした。その後、何かが窓を突き破り保健室に侵入して来た。
――――黒服の銃を構えたごっつい男三人だった。
俺の顔が北斗の○ンみたいにリアルになっているのは鏡を見なくてもわかる。今なら胸元辺りに北斗七星の痕が出来てそうである。
「また来ましたの!?今度はどこの会社の刺客ですか!」
「おぃぃぃぃぃいいい―――ッッ!!超展開な上に俺の手首には手錠!?死ねとッ!?もしくはハリウットびっくりなアクションをしろと!?」
ベッドから抜け出すと素早く会長の横を通り抜け、廊下を指差す。
「廊下に出ましょう!ここじゃ危険過ぎ――」
――――ズキュ―――ンッッッ!!!ドドドドドドドドッッ!!!
「ひぃぃぃぃぃぃ!!!実弾!!!」
銃弾が保健室の扉を壊してくれたのでそこから飛び出す。
会長が後ろから来ているのを確認すると同時に黒服が保健室から出て来るのが見えた。
「何なんだあれは!?俺手錠あるからスク水のままだし!」
「わたくしを誘拐しようとして他企業が送って来た刺客ですわね。実弾を要しているところを見ると、今回はどうやら外国企業のようですわね」
「スク水ノータッチな上に冷静に解説!?違うよね違うよね!こんな展開ある訳ないじゃん!夢なら覚めろ!」
後ろから銃撃音がする。まずい、これは確実に止まったら撃たれてしまう。
「校内って安全なんでしょうか!?生徒いるだろうし、あんなのと一緒に鬼ごっこ繰り広げてたら校舎潰れますよ!?」
「窓は防弾ガラスですし、壁は頑丈ですわ。余り女子校舎を舐めて欲しくないものね。それに女子生徒はこの時間完全下校ですわよ。最近物騒ですから」
「今俺達の状況が一番物騒ですよね!?しかも何自慢気に言ってるんですかッ」
全力疾走で一階から二階への階段を駆け上がると廊下に移り、階段から二番目の教室に入る。扉の閉め方は慎重に音を立てずに。
―――バキャッ メキメキメキッ
しようとしたら黒服のマッチョが扉に拳で穴を開けていた。これは…ちょっとしたホラーですよ。
「か、かかかかか会長!!い、ぃぃいいい行き止まり!」
二階だろうとここの窓から飛び降りる気はない。だって骨折れたら絶対痛いじゃん。当たり所悪けりゃ一瞬で北極気分になれるじゃん。
「焦らないで…い、いぃぃ今119に電話を…!」
「焦らないで!?それ警察じゃなくて消防署ですよ!?携帯がガタガタ震えてるしボタン押せてないでしょ!?」
「わたくしだってここまで追い詰められたのは三回目なのよッ」
「結構回数ありますねぇ!?今までの二回目どうやって助かったのか訊いて良いでしょうか!?」
「わたくし…この危機から逃れたらお父様と話しますわ…」
「死亡フラグ成立!?しかも宣言が地味だ!そしてその死亡フラグに付き合わされてる俺への理不尽!」
膝をつくと同時に扉が完全に壊れて黒服達が部屋に入って来る。ダメだ…これは逃げられない。…なんか保健室の時より人数増えてね…?
黒服の一人が手でジェスチャーをすると黒服がこっちに迫って来て――、
「お、おい!?何で俺だけ捕まえんの!?お目当てはあっちでしょ!バカか!?果てし無くバカなのか!?俺ただのドMクソ野郎だぞ!?つぅかお前等サングラスでわからないけど目線やばいだろッ!ずっと俺の胸とか下半身見てるだろ!殺す!変態セクハラ王道野郎共全員まとめて潰してやる!!」
外国人達は会長を無視している。会長は…気絶してる。いや、あれは寝た振りなのか?どっちにしろこいつ等ターゲット間違ってる。
羽交い絞めにされた俺は足を動かしながら叫びまくっている。
「はぁなぁせぇ〜〜〜ッ!!ひゃんッ!?誰か尻触ったろ!クソッ!応援はまだか〜〜!!」
うぅセクハラ大会だ。というかなぜ俺を狙う…会長倒れてるぞ?隙だらけだぞ?普通あっちやるだろ。俺…男だぞ。
「わぁ〜かぁ〜ぞぉおお〜〜〜!!!!夕飯ほっぽり出してなにしておるかぁあああああ―――ッ!!!!」
―――ドゴッ!!!バリ――ンッッ!!!!
絶望に明け暮れていた時、颯爽と現れた一人の少女。銀髪を揺らしながら扉の前で見張りをしていた黒服一人を蹴り飛ばし、黒服は窓から落ちていった。
ツルギは俺の『タイガー最高』と背中にプリントされたシャツにスパッツという格好で仁王立ちしていた。しかし幼女だった。
「ま、茉理の作った料理が全部青かったのじゃ……真っ青じゃ…お、おぉぉぉぉぉぉ前等の血は青色ジャァァァァアアアアアアアアア――――ッッッ!!!」
相手の血の色勝手に決め付けた上に完全なる八つ当たりで黒服を殴り、蹴たぐり倒す。その姿は正に阿修羅、その一言に尽きる。
そういえば『青い!食紅!』買ってたけど本当に使ったのかあれ。主に茉鶴ちゃんが心配だ。後の銀髪金髪は不死身だから大丈夫だろう。だって銀髪の方は目の前で現在進行形よろしく暴れ回っているし。
「青じゃ!今日から死ぬまで貴様等の"らっきーからー"とか言う占いのあれは全て青なのじゃ!ぬふふふふ、貴様等知っとるか…?豆腐が真っ青になって皿に置かれている絶望的な地獄絵図を!味噌汁の圧倒的な青の合わなさを!もはや白米と言う名も過去の物になった驚きの青さを!なぜ…なぜ飯に一粒も白がない!?この世の…この世の地獄は青色じゃぁあああああああああ―――ッッ!!!!」
人間、三大欲求のどれか一つに誤りが出るとここまで狂うものなのか。いや、もうどっちかというとツルギのキレ方の方が独特なんだが。こいつもう青い食べ物とか食べられなくなるんじゃないだろうか。
もし俺が今の光景を絵にするならこう名づけよう。『青に翻弄される少女』もしくは俳句で『狂乱舞、青に狂いし、銀髪の』とかも良いな。
―――さてと、会長を空き教室まで運んで警察呼ぶか!
「その前に手錠の鍵どこにあるの!?会長ッ会長!うわッマジで気絶している!どこだ、どこにあるんだ!クソォ―――ッ!!!」
はい、一週間明けで投稿出来ました。ありがとうボクの精神、耐え切った!
ハッ茶け過ぎた!書いて気付いた!
ツルギ無理やりにでも出したかったからやって絶望した!
さてさて、今回会長に頑張って気張って貰いました。
気張りすぎと言われても今更キャラは変えられないのですみません。ごめんなさい、海に飛んで来ます。
主人公がハッ茶けていて誰かわからないかも知れない。気にするな、頑張れ。
誰でもきっと最終的にキャラが崩れるんだ。気にするな目一杯気張って下さい。
大丈夫、これ以上キャラは壊れないから。
会長のキャラ…このままで良いのだろうか。批判される気がする。
ではでは、また次回でお会いしましょう。