壱ノ太刀【やるだけやればきっと諦めがつく】
拝啓、母さんへ。冬兎です、元気で過ごしていますか?
俺は、何か色々凄いことになっております。いやまあ、また従妹の茉理とドンピシャやった…というか一方的にやられた訳ですが。見るも無残にボロボロだった体も、直ぐに復活しております。
やばい、再生能力半端ないと日頃の特訓の成果を実感しております。嫌な形で、ですが。
妹は元気でやっていますか?仕事で余り帰って来ていないんでしょうか?
最近良くあいつを見るようになりました。俺は嬉しいのか悲しいのか。せめてパパラッチが俺のところにまで来ないようにと祈るばかりです。パパラッチが死んでしまいます。
そう言えば従妹の槍に更に磨きが掛かったようです。あれ以上やってどうする。ゴ○ラだゴジ○。
…えほん、まあこっちはこっちでやっています。今直ぐにでも八王子に帰りたいですが、それもどうせ祖父に潰されるのでしょう。哀れ俺。ファイト俺。
こっちに来てから短い寿命に更に磨きが掛かり、犬と同じくらいの寿命で死んでしまいそうです。20までが精一杯だ俺。
そろそろ時間もないので止めて置こうと思います。母さん、お体に気をつけて。妹に、帰って来たら「兄さんが頑張れって言ってた」と伝えて下さい。
PS・もし俺がパッタリ逝ったら「兄さんは頑張ってたよ?」にして下さい。
「冬兎が悪いんだから…ッ」
「へいへい全部俺が悪いですよぉ〜。お前が俺と掃除してるのも戦争が起こってるのもナマケモノが怠けてるのもニートが増えてるのも全部俺のせいですよ〜」
七夕が昨日になった今日。俺と茉理は冷静としていた祖父に破壊した土の直しを命じられました。金があるんだから業者にやらせろ業者に。
大きいスコップを使い、土を掘っては埋め直して行く。茉理もそんな感じだ。
「アンタがいるから夏が暑いんだ…」
「環境問題じゃああああ―――!!!何!?俺が生まれる前から日本の夏は暑いです!四季って知ってます!?」
「前世がアンタと繋がってるのよ…あっつ」
「俺の存在真っ向否定!?何だ、俺の前世は天狗か!?もっと熱くしても良いぜよ〜!?」
茉理はかなり暑がりなので、舌を犬のように出しながら作業をしている。今のこの光景をお前の先祖が見たら泣くぞ。
だが今日は猛暑。しかもここは海の近くの町とは言え、森に近い場所だ。セミが煩い。腹が立つ。全部落ちてしまえば良いんだ。
「俺は頑張ってるよ…かあさ――」
ゴンッ
「いったあああ!?何この鈍器で殴られた感覚!?」
振り向くと暑さで吊り目がちな目が半目になっている茉理がいる。手にはスコップ。スコップ。
「それで殴った!?」
「大丈夫。死んだとしても事故で済まされるから」
「済まされないです!済んだとしても俺が世界を許さん!地獄で温暖化を進めてやる!」
「無駄口叩けんなら仕事しなさいよバカ」
むう、何時になく真面目な顔…というか危機迫った顔だ。クーラーが無いとはいえ、扇風機には当たりたいということなのだろう。汗が俺の二倍ほどダラダラ流れている。おい、母親のハーフ譲りの顔が台無しだぞ。
「まああれだ。どうせ掃除だけしてても面白くないじゃん?」
ホウキを上に放り投げると、落ちてきた時にそれを掴み、刀のように肩に刃を乗せる。
「ここは勝負して、蔵の中の掃除は負けた方が、なんてどうだ?」
「……楽そうで良いじゃない。どうせあたしが勝つんだから、さっさと言いなさいよ」
腕を組んで偉そうにほくそえんでいる。何だかんだで乗り易い性格だからな。
「このホウキで、そこ等にある…これだな。こんくらいの石を空に打ち上げる。どれだけ上げてられるかだ」
丸いとは程遠いが、丁度良いサイズの石があるので、それを拾う。
茉理を見ると、俺の石より一回りほど大きい石を選んでいた。バカめ!俺はもっと小さいのを手に仕込んでるんだよッ。今拾ったのは伏線だ伏線ッ。やあ〜い孔明の罠を思い知れ〜ッ。
「それじゃ、先ずあたしから行くわよ?」
「ああ、わかった」
ふへへ、無様な姿を笑ってや―――――
「一条院奥義・華孔旋ッッ!!!!!!」
二条院、夏。従妹がホウキで石をかっ飛ばすシーンを死んだ魚の目で眺めていた。
……あれだ、つくづく学習しねえな俺も。
ちょっと考えれば茉理があれくらい石をかっ飛ばすことなんて想像ついただろうに。
「そういや俺もあれっぽい技でやられたことあったっけなぁ…」
まあホコリだらけの蔵内を掃除してる今となっては後悔しても無意味なわけだが。なんか薄暗いしクモの巣あるし最悪だ。どこのホラーハウスだ、洒落にならんぞ。
クモの巣を手で払いながら床を掃いていく。何だこの罰ゲーム。
「もうなんつーの?今にもでっかいクモとかネズミのボスが出て来そうだな」
独り言を呟きながら掃き続けていると、これはこれで重労働だ。か弱い俺にこんなことやらせないで〜…いやまあ最近頑丈だけど?それは色々違うでしょ。
「出て来るなら幽霊美少女とかの方がまだ縁起良いな…俺的に」
「おい………」
いやいやしかし美女という線も捨て難いな。連れて行ってあげるわよみたいな。
「おいこら……ッ」
ちょっと気だるそうな感じもいいなぁ〜…。でもまぁ、やっぱり一番受けるのは純粋そうなロリっ子だな。うん、受けるぞ。
「……ぷちりと来たのじゃ…」
―――――――――ビュンッ!!!
「へ?」
いきなり考え事をしていた俺の横を通過し、蔵の壁を突き破り、何かが外へ発進して行った。ジェットヒコーキ並みの速度出てたのではないか。
「…童子切の力はまだ余裕があるみたいじゃ…」
なびいた髪をペタペタ触った後、振り向く。
―――――――――…………そこには何もいなかった。
「下を見ぃ下を!」
下に視線を下ろす。何だか今の茉理をちっちゃくしたら正にこんな感じではないだろうかと思う態度の少女がそこにいた。
長い、銀の刃みたいに輝くロングヘアーに、赤く光って吊り上っている瞳。何故か巫女服っぽい物を着ている。うん、茉理っぽいな。
それより問題なのが、少女の手にある青いオーラみたいなのが出てる日本刀だ。不気味な感覚がする。刃まで青色なそれは少女には不似合いだ。
「なんじゃ、その目は」
「なんだその剣は」
「刀じゃ!日本外のあんな諸刃と一緒にするでない!」
「一緒じゃん。というかジジィの家の監視をどうやって超えて来た。セコ○には悪いがあの爺さん一人でセ○ムの百倍の怖さだぞ」
ジト目で見てやると、銀髪の少女は「はんっ」と鼻で笑う。高飛車かおいこら。
「なんの爺かわからんが侮るな若造。吾が人に負ける訳がない」
外見的にはどっちが若いか…というか、
「爺さんのこと知ってるのか?勝てるみたいな口振りだけど」
「ふんっ、知るか阿呆。人なんぞ一々覚えん」
この餓鬼一発殴れば黙るだろうか…。
いやいや、相手は小さくて生意気だが美少女だ。ここは心を寛大にして優しい微笑で立ち向かおうではないか。
「なんじゃ若造、面白い顔じゃの」
―――――――――――――この餓鬼ウゼェェェェェエエエエエエエエエエエエエ―――――ッッッッッッッ!!!!!!
「は、はははは、まぁ良い。で、何でこんなところにいて刀なんて持ってんだ?」
太ももの肉を摘み、苛立ちを自分にぶつける。美少女を殴る趣味は俺にはないぜコン畜生。
「何をいう。これが吾の本体じゃ」
不思議そうに首を傾げると、刀を俺に向けて来る。
刃物を人に向けるといけないと思うんだ?危ないしパニくりますよ?
「しかもそれ真刀…」
「童子切の安綱。これが吾であり、これが吾の命じゃ。今お主が見ている若娘の姿はただの幻影。言うに幻じゃよ」
刃物を持ちながら不敵に笑うロリっ子も夢があるな…違う違う。
この子は頭がちと弱いのだろうか。いや、それにしては普通っぽく見えるし、立ってる姿には気品もある…ように思えるのだがどうだろう。
「まぁ、安綱と呼ぶといいッ」
名前を誇りに思っているのか、鼻で息を吐き出し得意そうにしている。
「……ドウジギリのヤスツナならリナで良くね?何だか名前が男っぽいぞ」
「なんだリナとはッ!止めろそんな変な名前!異国を混ぜるな異国名を!」
「いや、しかしリナって名前多いしな…じゃあ剣を文字ってツルギだな。はいツルギ決定、フラグも立ちました」
「せめてカタナにしろ阿呆ぉ〜ッ!!!」
夜はまだ長くなりそうだ…。
壱ノ太刀という訳で第一話であります。
ようやく主役というか題名の少女が登場いたしました。
かなぁ〜り生意気キャラな彼女ですが、気に入って頂けたら幸いでございます。
片隅にでも残る物語を、が作者のもっとおでございます。
気付く方、気付かない方がおられるでしょうが、童子切安綱という刀は実在しております。
もちろん、主人公の元の実家の八王子も、神戸もあります。
童子切安綱とは東京の美術展にも出展されている五宝剣の一太刀で、五宝剣の中では一番の切れ味等を誇っています。
まぁ、わかるでしょうがフィクションです。
童子切は少女になったりしません。少年と口論したりも致しません。
キャラクターが唯一の味を持っていると、書き手は嬉しいものでございます。
読者さまに愛着を持って頂けたら尚更です。
まだ序編も序編でございます。
これからも、家宝刀のツルギをよろしくお願いします。