十七ノ太刀・前【巻き込まれて水泳大会】
あのバカの癖と言えば、嘘とか都合の悪い時に目が泳ぐこと。貧乏ゆすりにシャーペンの頭をかじること。
数えようと思えばあいつの癖を全部挙げられると思う。
あたしはあいつをずっと見ていたんだから当然。あいつは最初、ご飯も自炊出来なかったんだから。
だけど、すぐにあいつはあたしより作れる物を増やして。しかも洋食なんてあたしの作れない物が得意になってしまった。張り合えないのはちょっと悲しいけど、ご飯を作りにいけないのはそれより悲しかった―――かも知れない。
でも、あたしが週一回の勝負であいつに勝った時、命令で作らせちゃったけど、あいつは物凄く料理の腕を上げていた。出来れば、無理やりなんかじゃなくて、普通に作って欲しかったけど、あたしはそんなに素直になれないから。
そういえばあの時作ってくれた豆腐ハンバーグって、あたしが食べさせてあげた中であいつ一番のお気に入りだったっけ。
――――バカ、あたしの自慢料理の味であたしに勝たないでよ。自信折れかけちゃったじゃない。
いやまぁ、そうだな。時間と言うものは早い物だ。
あぁ…テルテル坊主逆さに吊るした上に水で濡らしたのに見事に晴れ渡った青空だ。ドちくしょう、テルテル坊主…いやテル坊主。お前に期待した俺がバカだったとしか思えないのは間違いか。
もういっそここまで晴れると清々しいな。バッチコイ水着。
「―――女用の競泳水着だ…」
何回現実逃避しても変わらない現実。俺のロッカーの中にある男用のトランクス型水着は女用競泳水着に変わっていた。先生、クラス内部でいじめがあります。全校集会して下さい。
いやしかし、改めて見るとこのカーブとか男の着る物じゃないよな。
「…二条院って書いてあるのは見間違いなのか」
水着の胸元、ド真ん中には『二条院』とゴジック体で書かれている。なんだこの機械で書いたのかと言わんばかりのゴシックは。
しかも競泳水着の腰辺りにフリルが着いている。いじめだ…壮絶ないじめだ…。字が無駄に綺麗なのが腹立つ…ッ。
だいたい水着大会で男の女装OKの学校ってどうなんだろう。
――――ゴソゴソ
「お、なんか似合ってないか俺」
胸にパッドが入っているから胸が盛り上がっている。まぁ結構平らに近いけども。だけど、サイズピッタリだな…用意した奴は殺さなければいけないのだろう。
「って何で着てるんだ俺はッ!?着替えよう!そしてこんな大会棄権しよう!」
なんで男の更衣室に全身鏡が置いてあるのかはこの際気にしないことにしよう。男子種目はもう始まってる筈だ。
急いで水着を脱ごうと肩のところを引っ張ると同時に、更衣室の扉が開いた。
「む、何で女子生徒が男子更衣室にいるんだ?」
「―――――へ?」
頭を掻きながら着替えには一切興味無さそうにタバコを吹かしている教師。確か生物の先生だっただろうか。
「今ならわからねぇから、更衣室間違えたんだろ?更衣室の男女札を誰かが取りやがったからな。女子の更衣室はこっちだから着いて来い」
「いや、俺は男で―――」
「俺は別に注意とかしねぇから安心しろ。これが地理のババァとかだったらビィーチク言われるんだろうがな」
聞いてないのかこの男は。俺は男って出だしでどうしてそういう話になる。
「どうした、早く来い。場所わかんねぇんだろ?」
「ちょ、先生!手を引っ張らないで下さい!?制服!制服を見ればわかァアアアアアア――――ッッッ!!!」
何でだ?何で俺は普通に女子の水着を着てプールにいる…?
つぅか、男の大会終わるの早過ぎないか。混合競技が一つや二つあるとしてもプログラム進行が早過ぎる。男が柵の外からこっち覗いてるし。獣かお前らは。
「ね、どの競技出るの?」
「わたしは500のクロールだよ〜〜…」
どこ向いても女子女子女子。しかもプールの広さが尋常じゃないから女子の殆どが終結していることになる。女子校舎ってこんなに密閉してたのか。
そんな中で俺はベンチに座り燃え尽きていた。何だこの展開は。
あぁ杏樹。お前は死の瀬戸際を誰と渡ったのだろうか。俺は逃げられたという解釈で良いのだろうか。
「うわぁ〜痩せたね〜」
「ふふん、コタツと鍋を利用したからねッ」
それは自慢げに言えることなのだろうか女子よ。ここに男がいるぞ。
「どうかしたのかしら、二条院さん?」
「にゃぁぁぁぁぁぁああああああ――――ッ!!すみません偶然なんです殺さないで下さい!あれだけは!あれだけは止めて下さい!キリスト教よろしくな張り付けだけは止めてください!」
反射的にベンチから飛び去り土下座を開始する。こんなに早く見付かるなんて、やっぱり俺は男だったんだよ。殺されるかも知れない。
こんなことだったらジジィに毒を盛っておくんだった。せめて一太刀浴びせるべきだった。
「ど、どうかしましたの?」
「いえこれはですね!?俺の生い立ちから語る必要がありましてですね!」
「生い立ちか何かは知りませんが顔をお上げなさい。なぜ頭を下げるのです。ほら、手を貸してさしあげますから、立ちなさい」
目の前に綺麗な長い手が差し出される。涙を溜めながら顔を上げると、そこには見慣れないツーサイドアップの綺麗な美少女。わぉ、胸の谷間がちょっとだ。
「あら、随分可愛い顔立ちではありませんか。あのようにベンチで顔を下げていては勿体なくてよ?」
誰だこの典型的なお嬢様口調の子は。〜〜かしらとかいう子始めて見たぞ。
「どうかしまして?」
「い、いえ…なんでもないんです。……何故わたしの名前を知っているんですか?」
「そこにネームが書いてありますわよ。それで見たのだけど…失礼があったかしら」
あ、なるほど。この胸のところにある名前のやつか。うむ、二条院としか言いようがないわけか。旧スク水の名札って便利だよね。
「二条院…は苗字ですわね?貴方、名前は?」
冬兎です、そう言おうとした口を抑える。おい、二条院 冬兎で学校の生徒なんて言ってみろ。男の俺しかいないぜ。危なかった―――で、他の名前…、
「とう…冬子ですッ。そう、二条院 冬子ですッ」
言ってから気付いたんだが二条院なんて苗字この学校に男の俺以外でいるのだろうか。
「あら、良い名前ではありませんか。わたくしは榊原 黎と言います。及ばずながらこの学園の生徒会長ですわ」
なるほど。遠目でわからなかったけども、確かにオーラとか外見なんかはお嬢様だな。
「き、気付きませんでした」
「わたくしだって生徒会長を好きでやっているわけではありませんもの。推薦ですから。押し付けられたと言っても同然ですわね」
生徒会長とか委員長なんて言うのはそういうもんなんですよお嬢さん。キャラになると魅力的ですが自分でやるとなるとこれ以上面倒なこともないからな。
とは言え茉理とかに見付からないで良かったぜ。何でカツラも被ってないのにバレないのか不思議だぜ。男の自信が無くなるぜ泣いちゃうぜ。
「ほら茉鶴、プールに入るんだからリボンは外しなさいよね?」
「あ、ごめんねお姉ちゃん…えへへ、ずっと着けてるから忘れちゃってたよ」
神の虐めがヒートアップして来たようです。
俺は会長が握っている手を強引に解くとプールに北島選手よろしくな飛び込みをする。もう理不尽過ぎてなんも言えねぇ。
「こらぁ〜!競技はまだですよ〜!」
死の競技が始まるから逃げたんですよ。危なかった、あの瞬間なら茉理も気付いてはいないだろう。
俺は少しの間潜水してプールから顔を出す。おーけー、茉理の姿はないな。もしこんなところで見付かったらゴ○ラでも真っ青な破壊活動(主に標的俺)が開始されるだろう。南無南無。
前を見ると屈みながら俺を見ている会長さんがいる。これは刺激的だな。
「すみません、プールの温度が気になりました」
とっさに何言ってんだ俺は。
「…良い運動神経ですわね…貴方、少しわたくしに協力しませんこと?」
えぇ、当初の言っていた通りに二話構成となりました
というかこの話だけで完結させるのは色々と無理がある内容となっています。
さてさて、冬兎がもうわかりません
うん、暴力振るわれるのに美少女顔ってどんなキャラだ。
外見が壮絶なほど思いつかない助けてくださァアアア―――いッッ(某中心で愛を叫ぶ的に)
まぁ悪ければ三話構成にもなってしまうのでしょう
この話書こうとした僕哀れ
いつになっても完結でき無そうな気がする。設定難しくし過ぎた助けてくださぁぁあああああ―――いッッ
………新キャラ、登場しましたが、どっだったでしょうか。
初めてというかなんというか、この作品初のですわ口調が出て来ました
ビックリです。僕が出すつもりなかったから更にビックリ
頑張ってキャラをギロチンしないよう頑張ります
それではまた次回にお会いしましょう、井戸命火でした。