十参ノ太刀【植えた紅葉にツンデレ従妹】
拝啓、母さんへ。
僕はもうそろそろ人生的にも堪えられないものが来てしまいそうです。最近のキレ易い若者という言葉がわかってきました。
家から祖父の家に引っ越してもうそろそろ一ヶ月。
編入試験をクリアした学校が明日から始まります。嫌です、不安です。行きたくありません。どうせ行くんでしょうが。
今度行く夕陽丘学園は坂道を越えて行くそうです。
――――夏休みがいつまでも続けば良いのになぁとか思ったり。
母さんは元気でしょうか。訊く順番が間違っていますが書き直しが出来ない状態です。
そういえば最近妹を見かけないような気がします。前まで物凄く見掛けていたので、かなり気になっています。出来れば現状を教えてくれませんでしょうか。
九月一日、晴れ。直射日光が滅びのバーストスト○ームに見えるほどに晴れ。
俺は夕陽丘学園用の指定ワイシャツに袖を通して、スポーツバッグを肩に背負い、靴を履く。
何故か履いている靴下がニーソックスなのだがそれは気にしない。靴下の替えがこのニーソックスで最後だったのだ。俺の持ち物じゃない筈なのだが。
「ふぁぁ…ねむ…」
「お姉ちゃ――んッカバンカバン〜!」
今日も今日とて朝から一条院の家は騒がしい。
朝ごはんは俺と茉鶴ちゃんが共同して準備したのだが……茉鶴ちゃんにも慣れて来てるな。恐くてしょうがなかったけど恐いのは裏茉鶴ちゃんな訳だし。
茉理は心の中を前衛的に出した黒のニーソックス。茉鶴ちゃんは目に眩しい白いニーソックス。
姉妹だから違いをつけたいのかこの二人は。
「あたし、朝はパンが良いのに…」
「だったら自分で作れば良いじゃん…」
俺が愚痴を言うと、直ぐに茉理からの睨みが来る。仕方ないじゃん、俺朝はご飯派だもん。
「まだ時間あるからゆっくり行けるね」
茉鶴ちゃんが靴を履いて、玄関の引き戸を開ける。うん、滅びのバース○ストリームだ。
眠そうにまぶたを擦りながら靴を履く茉理を待たず、俺も玄関から出る。
「あ、ちぃ〜」
「そうですか?涼しい方だと思いますけど」
そりゃ茉鶴ちゃんは沖縄でずっと修行していたらしいから暑さには慣れているのだろうが――、
「―――――――――あにゅい…」
茉理のやつトコトン暑さに弱いな。あれはきっと暑いと言おうとしたんだろう。呂律が回っていない。
吊り眼の瞳を半分にして気力の無さをアピールしている。
「お、お姉ちゃん…」
「何も言ってあげるな。あぁいう生き物なん――ふごうッッ!!」
間髪入れず、カバンが俺の顔に投げつけられる。ビュンッと鳴ったような気がする。
カバンは重力に逆らわず、何をしないでも地面に落ちた。物凄く痛い。
「朝から何するッ!?」
「アンタの『あぁ、朝日が気持ち良いなぁ』って言ってるような爽やか顔がムカつく」
「はぁ!?いきなり凄いこと言いますね!?朝一番のまともな開口がそれか!?」
俺に投げつけたカバンを拾うと、茉理はスカートのポケットに手を入れながら歩き出していく。これまでに学校&朝が加わると不機嫌になる奴だったのか茉理は。
「あ、お兄ちゃん。今日はお昼までだから早めに帰って来てくれますか?」
茉鶴ちゃんは俺の隣でカバンを持ちながら笑いかけて来る。トラウマを吹っ飛ばす勢いだ。茉鶴ちゃんの横髪で青が主のリボンが揺れている。
「ツルギちゃんにご飯を作らないといけないので」
ちなみにツルギは未だに俺の部屋で寝ている。茉理が母屋で寝させようとするのだがそれをことごとく駄々っ子よろしく諦めさせたのだ。
そして俺が眠さを堪えて起きた横でぐ〜すか寝続けていた。ゲンコツの一発でもお見舞いしてやれば良かっただろうか。
「明日からはツルギちゃんにはお弁当を作って置くので、そこは大丈夫ですよ」
流石というかなんというか、茉鶴ちゃんは本当に気の利く良い子なのだ。
「わかった。朝飯は俺も手伝うよ」
「あ、ありがとうございます…その、いつも師匠は朝方出掛けていて、朝食は作るのも食べるのも茉鶴一人だったので、嬉しいです」
茉鶴ちゃんには赤面癖があるのか、耳まで真っ赤になっている。そういえば茉理も赤面癖だったな。流石姉妹。変なところが妙に似ている。
「なにやってるのよ茉鶴〜バカ〜!置いて行くわよ〜!?」
茉鶴ちゃんは名指しなのに何故俺はバカ呼ばわりなのか。酷いや茉理さん。
茉理が左、茉鶴ちゃんが右側で歩いている。
「紅葉並木、まだ元気にあったんですね」
夕陽丘学園への道には並木道があり、そこには桜と紅葉が短い間隔で交互に植えられている。秋は紅葉。春は桜と両方楽しめる為だろう。観光客にも人気があると聞く。
「まだ緑葉だけど、茉鶴ちゃんは紅葉好きなの?」
「はい、桜より紅葉の方が…いえ、桜の方が色鮮やかなんですけど、紅葉の三色がわたしは好きで…」
夏だから、紅葉、桜両方とも緑色の葉だけしか付けていない。
だけど、それはそれで夏という気がする。夏は木が緑で生い茂っているイメージがあるのだ。冬は逆で木が裸になっている。
「家にある鯉池近くのちっちゃい木、あるでしょ?あれ、茉鶴が植えた紅葉よ」
前に言った通り、一条院の家はバカみたいにデカイ。
一番大きい母屋。縁側があり、鯉の池はそこにある。そして母屋の少し離れた場所に離れの俺の住家。蔵も近く。母屋には裏から続く長い石階段があり、上に大きな道場がある。
あれだ、ジジィはきっと危ない仕事に手を染めていたに違いない。じゃなきゃあんな家出来ん。
「茉鶴が五歳の時だから、八年前ですよ。元気に育っていて良かったです♪」
「あぁ、あれ茉理がずっと水やってたからな。風が強い日とかずっと外気にしてたし、冬なんて栄養剤わけもわからず何本もやってたからな。それで育たない方が可笑しだろ。爆発的に枯れるか薬漬け凶育ちの二択だ」
「あ、ああああああああんた見てたの!?っていうか言うなバカ冬兎ッ!」
「俺に水やり手伝わしてた癖に言うよねぇ!?栄養剤のやり過ぎで死に掛けてた木の土ごっそり埋め替えたの俺だぞ!?バイト料5000円くらい貰っても良いくらいなのに!いやそれ以上じゃ!」
というより木に栄養剤なんて必要ないと思うんだが。
あのちっこい容器のやつでも茉理はドバドバやってたからな。本当にバケツ一杯分ぐらいありそうな勢いだったよ、うん。
茉理はばらされたのが気に食わないのかソッポを向いてしまう。
その時、すぐに茉鶴ちゃんが俺の肩に手を置いて小さな声で言って来る。
「お姉ちゃんって、実は物凄く優しい女の子なんですよ…♪」
強い日差しが眩しい。茉鶴ちゃんの金髪がいやに輝いて見えて、違う方に視線を向けると茉理が振り返って唇を尖らせている。
「なに鼻伸ばしてるのよ、バカ冬兎ッ」
ツーテールに結んだ髪が夏の風に揺れている。
カバンを片手に持った茉理が妙に可愛く見えて俺はまた空に顔を向けた。
『季節は夏。潮風が耳に響く季節、一つの刀の煌きが、夢を舞い戻す』
お久しぶり(?)です。
いつも一週間一週間で書いております井戸でございます。
やっぱり投稿する日を多くした方がいいのだろうか。
キャラの創造がつかないという方は、出来れば絵をご覧ください。
その方がAIBOも救われます。
かなり…というより絶対的に。
そろそろ挿絵の機能が追加されるみたいですね。
今から楽しみです。自分で描く挿絵がどうなるかわからずゾクゾクが止まりません。
ゾクゾクしながらの執筆活動でございます。
早くやってくれないだろうか…お願いしますウメさん。
そしてこんな素晴らしい場所を提供してくださり有難うございますウメさん。
それではまた次回にお会いしましょう。