十壱ノ太刀【幼馴染は女装趣味?】
青春。甘く香る甘美な響きである。
それは恋がおりなすものでもあり、友情が作り出すものでもある。つまり人によって千差万別。
人によって異なるが、青春の真っ只中は高校時代である。
そして時間が一番過ぎるのが早いと感じるのも高校時代。楽しくあるからこそ、過ぎるのが惜しい。それこそが青春である。
だからと言って高校時代が全員等しく楽しいと思ったら大間違いなのである。
そう、千差万別。好き嫌いのごとし。
十人十色でその人の運命はさまざまなのである。言うならば人生一回のくじ引きみたいな。
そんなこんなで普通なら青春真っ只中な筈の俺は正露丸下さいと言わんおじさん張りに疲れ果てた顔をしていた。
今日はとにかく面倒ごとに巻き込まれる前に家から逃げてきたのだ。勇気ある逃亡万歳。
こちらの学校の夏休みが終わると共に転校をすることになっているのだ。
休み、終わらないでフォーエバー。転入テストって入試試験より難しいんだよね。わからなくて何度頭を掻いたことか。でも結構好成績ではあったらしい。
「褒めてくれる人いないんだけどね…ふふふ」
というか何で意味のない勉強をしていたのかわからない。どうせなら落ちちまえば―――、
『冬兎が努力してないのが悪いのよ!このバカッ!』
グシャッバキッズドスッシュトスッドドドドドドドドドドッッッ!!!!!
なるほど。無意識下で怖がっていたわけか。することがなくて寝転んでると悪寒がしたことあったし。おぉ、怖い怖い。そこまで恐怖心が染み込んでいるのか。
キレて怒り狂ったあいつに+槍は危険だ。主に俺が危険だ。怒らせたのがツルギだとしても俺に跳び火、火の粉が来るのは否めない。
恐怖心ってやっぱり染み込むものなんだよ、うん。
慣れって怖いね。今じゃツルギがいるのがなんだか普通になって来てるじゃん。あいつ自分が刀だとか言ってる子だよ?手から真刀出すよ?俺壊れた部分直したよ?
――――ホンッッッッッッッット!!!!考えると理不尽過ぎて泣けるよな、これ。
しかし、逃げて来たは良いんだがどこにも行く宛がない。友達いない。…いや、いるんだが会いたくないっていうかなんていうか。
どっちかというとあいつは俺と相性が良いんだろう。話だって合わせてくれるし相談にだって電話で乗ってくれる。だが―――、
「フユ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
―――――――――ズドゴッッッッ!!!!!!
「ふごうッッッ!!?」
何かが横から突っ込んで来て、俺は耐え切れなく威力でそれと共に飛ぶ。
そして嫌な音を出しながら電柱に激突。圧死。いや、この場合衝突死だろ確実に。
「フユフユフユ〜〜♪いつの間に来てたの〜、連絡してよ〜〜♪」
死ぬと言わんばかりの表情をしているのだろうにも関わらず、それは俺の腹に腕を絡めている。死んでまうぜこれは。
「う〜〜ん、フユの匂い、久し振り〜。やっぱり良い匂い。それに、抱いた感触も相変わらずだね〜♪気持ち良いよ〜♪」
擦り付けるな顔を。そして変な声を出すな。
「テメェ…杏樹だな……?」
「そうに決まってるでしょ?もう、春休みに来てくれないから寂しかったよ〜ッ。て、わわわ」
とりあえず上に乗っているそいつを引っ張り降ろすと久し振りの幼馴染の顔を見る。
長くてサラサラのロングヘアーに可愛く整った顔立ち。黒いミニスカートから出ている黒タイツに包まれた長く細い脚。
そいつは俺が見ていると笑顔で返して来る。
若本 杏樹。俺が神戸に来た時はずっと遊んでいる幼馴染で何度も町内ミスコンなどで優勝している美少女。外見だけは。
「お前、まだそんな格好を…」
「ずっと前からやってるでしょ。それなのにフユってばずっとずっと文句言って来るんだから。学校でもちゃんと女子の制服着てるよッ」
そんな問題じゃないんだ阿呆。
Q「…お前の本当の性別は?」
A「男の子だけど?あ、もしかしてパンツの中確認したいの?ちょっと恥ずかしいけどフユにならわたし―――」
「止めい!誤解されるわ!」
サラッと認めるところは昔から変わっていない。女装しても男と自分を割り切っている。それがこいつなのだが…。
「何で男の俺に迫る!?あとそのフユっていうの止めろ!」
「フユは前からでしょ。フユウサギで冬兎なんだし。あと最近はBLが認められて来ててね〜♪」
そういうと杏樹は男とは思えない手提げカバンから一冊の文庫本を取り出す。
それを俺に手渡すとニコニコしながら見つめて来る。見ろということなのだろうか。この本から変なオーラが立ち込めているのだが。
「読めなきゃダメ?」
「ダ、メ。男なら後先省みず突っ込んでみなくちゃ♪」
「お前が突っ込むとか言うと別の意味に聞こえるから本当に嫌だよな…」
俺は少し息を呑むと、覚悟を決めて――――開いた。
男と男が…メガネが受けでショタが攻めて…○○○が□□□に△△で@@@が…、
「えへへ、フユ〜♪」
少し逝ってしまい掛けた俺の隣には、腕を絡めて来ている杏樹が並んで歩いている。場所は商店街ではなく、少し遠いショッピングモールである。そして隣には杏樹。
外見だけは問題なしなのだ。確かに腕を組まれていて悪い気はしない……のだが、俺は男である。俺がストッキングフェチだとしてもこれはないな!
「フユの腕、熱いくらい暖かい…♪」
ぬがぁぁあああああああああああああッッッ!!!半袖の俺に真夏の炎天下で腕を組むな――――ッッッ!!!
「…ふふ、今度からはちゃんと連絡してくれないと嫌だからね」
俺が半狂していたところで、杏樹は腕をパッと放す。
「罰ゲームだよッ。わたしに来たのを教えてくれなかった。ものすっごく寂しかったんだから」
……なんだこの少し残念な心残り。俺死ねば良いのに。
ほんの少し残念かなと考えていると横で歩いていた杏樹が不気味な笑いを漏らして――、
―――――――がばッ!
「もう!フユったら!そんな可愛い顔して!」
「抱き着くな!あぁ、変な目で見られてる!このバカップルが的な目で見られている!止めてくれ!それでも俺はやってない!」
「わたし、フユになら犯られても――」
「お前発言禁止な!特に下ネタをやらかすな!危ないから!」
恥ずかしい言葉を言っているにも関わらず杏樹の頬の色はまったく変わっていない。
ダメだ。俺が初心過ぎるのか。チェリーボーイで悪いか、自分チキンですから。純潔守ってますから。
「フユ?」
上目目線は止めてくれ。お願いだから。
「…お前、なんか会う度に凄くなってないか…?」
最初はあぁ似合ってるな発言をしたような気がするが、今では見事に女の子である。
「何が?もしかして、可愛くなってるとかッ?♪」
「違います!色々と凄くなってるんです!先ずそのストッキングを止めろ!」
「あぁ、夏だからむれちゃうって心配してくれてるんだね♪実はね、脚をもうちょっと細くしようと思ってね――♪♪♪」
そのままでも細いだろうに今より細くしたいのか。女になった男の心はわからん。わかりたくもない。
あぁ、こういう俺にベタ惚れでいてくれる女の子いないかなぁ。
「フユは何してたの?もしかして……茉理ちゃんと何かあった?」
「何もないと思うよ…?ただ面倒だから家から逃げて来ただけで…」
俺が言うと杏樹は面白そうに「相変わらずフユと茉理ちゃんは仲良いね♪」と笑う。
「仲が良いと万年バトルロワイヤルの関係は違うの!」
「だって、フユはそうやって愚痴を言ってても茉理ちゃんに仕返しなんてしないじゃない。茉理ちゃんだってなんだかんだ言って手加減してるでしょ?」
確かにあいつが本気で殺りに来たら俺は一溜まりもないだろうが、だからって―――、
「一条院奥義・華孔旋!」
俺の隣、杏樹とは反対の左側を男が飛んで行く。茶髪の軽そうな男だったが…。
俺の知る限り、軽い男とナンパが死ぬほど嫌いなやつがいる。さぁ〜て、そいつはだぁ〜れだ。
「テメェ!お前みたいな無い乳相手にしてやろうと思ったのによォ!」
「な、なななな、無い乳ですってッ〜〜!!!!人が気にしてることをずけずけとッ!!!!死ね!!!七回くらい地獄逝って来い軽男どもッ!!!!」
金髪の女が周りの男を千切っては投げ千切っては投げを繰り返す。もちろん死に掛けの奴を何回もだ。
「強いよね、茉理ちゃん?」
「女の時代だからな……」
「一条院奥義・放爆砕ッッッ!!!」
―――――――ボォオオオオオオオオオオオンッッッッ!!!!!!!
ツーテールの金髪を揺らしながらの豪快な踵落としがチャラ男に決まる。おぉ、空中に跳んでからの蹴りか。レベルを上げたな。
しかし、ナンパしようとした男達は不運だったな。ついでに無い乳はあいつの禁句だ。
俺の時はやっぱり手加減してるんだろうなぁあれは。
髪を一度振ると「フンッ!」と腹の虫が治まったのだろうか。不敵な笑顔を浮かべている。
「あはは、凄い凄い〜ッ」
杏樹が拍手をし出すと周りの人も拍手をし出す。いや、確かに凄いけどさ、あれは違うだろ。吹っ飛んでいった男も踵落とし喰らった男も白目剥いてるぞ。
今回は全面的に新キャラを目立たせてみました。
杏樹ちゃん…くんは可愛かったでしょうか?僕の中でツンデレを越えそうでございます。
気に入って頂けたなら幸いです。
最近ではものすごく寒くなり、文章も震えながら書いております。
暖房なんて勿体無いことはしませんよ?えぇ。
次回も震えながら書くことになるのだろう。
寒い寒い寒い寒い寒い………。
ちなみに杏樹は色々と試行錯誤を繰り返したキャラです。
性格どんな感じにしようとか色々やっていたわけです。
うわ、寂しい生活な僕…ッ。