初斬【笑顔でいればきっと上手く行くと信じてる】
俺が祖父を嫌いになった時は…いつだろうか。もうハッキリと覚えていないくらいってことだけはわかる。
昔は、優しかった気がする。あの祖父に褒められるのがいやに嬉しかった気がする。
それが、急に変わった。それから俺は、あの祖父が…ジジィが嫌いになった。
別に恨んでるって訳じゃない。父親が早くに死んだ上に母子家庭に兄妹だ。養うのに苦労する筈なのに、ジジィの気紛れか、大量な金を月一で貰っていた家は豊かだった。
今は妹がとある理由で稼いではいるから安心出来るが、あの時はジジィがいなかったらどうなっていたかわからない。
なあじいさん、俺の、何が嫌いなんだ?言ってくれたら何でも直してやる。今は嫌いなアンタを、昔みたいに好きになれるんだったら、俺は土下座だってなんだってする。
――――満天の星空に彦星と織姫が輝いている。七夕日和と言わんばかりだ。
八月七日。天気・晴れハレユカイ並みに晴れ。
俺、二条院 冬兎は星空を見上げていた。なんと手にホウキを持ちながらだ。着ているのは袴だ。外国人が見たら「オウ、コレゾニッポンノデントウ〜」とか言いながら喜んでくれそうだ。
……まったくと言って良いほど嬉しくも有難くもないがなッ。
だいたい、何で俺がこんなクソ蒸し暑い日にセッセと蔵の前を掃除してるんだ!?可笑しいだろ!蔵だけでもバカ広いっつうの!クーラーに慣れた現代っ子舐めんな!?ゆとり舐めんな!?今じゃ学校にだってクーラーついてるっつうの!
汗があごを伝って地面に落ちる。
「あっちぃ〜……………今クーラー当たってる奴のボディーに猛烈にストレートを入れたい…」
と言いつつ手を休めたらあいつが来るので掃き続ける。
「いやあ〜ん…俺まいっちんぐ〜…」
ギャグをかますのに力が要るのが物凄くわかる。お笑い芸人は凄いな。
もうこのホウキを窓のガラスに放り込んでから戦争が起こってる国に飛ぶか。戦争で三国無双が出来そうな気分だ。蜂の巣になるどころか外国に行く金もない訳だが。
「よし!ここで一つアクションを起こさなければ飽きてしまうな!」
ホウキをわざと音の鳴るように放り投げると帯の間に隠して置いた竹筒を持って、近くにあるデカイ鯉の池にそろそろと向かう。
体全体を池に沈めた時、池の中でも聞こえる声が聞こえて来た。
「トウトォ―――――!!!!アンタまたホウキ投げたわね―――!!!!」
来たよ来た。ちょい釘宮理恵さん似の声を出しながら来たよ。
竹筒を池の正面にちょいっと出して、口でそれを咥えると、息を吐く。顔はだらしなくニヤニヤしているのだろう。
「冬兎――!!どこにいったぁ――!!アホの冬兎―――!!!」
アホって大声で言うと近所迷惑だと思うけどな。まあここら辺の土地はジジィが買い取ってるから別に良いんだろうけど。
ていうか一つ年下なのに従兄を呼び捨てってどうよ。前からだからもう慣れたけど。
しかし、ここは見つけられんだろうな。何せ竹筒は最短にしておいてある。よく見なければわからない筈だ。悪戯に抜かりは無いぜ。勉強にはちょい抜かりがあるけどな。
―――――――――――……ん?急に静かになったな。
何か走って行った後がしたけど、あいつが帰って行ったのかな。
「はぁぁああああああああああああああ」
と思ったら戻って来たな。良かった出てなくて。ちょっと油断してたぜ。
まあこんなところ調べる訳がな―――「一条院奥義・放爆砕ッッ!!!!!」
―――――ズドンッッ!!!!!!
うおッ!!?
何だおい!池全体が揺れたぞ!?地震だべ地震だべ!津波がくるべ!
「ぶうはぁッ!ま、茉理!今地震が……はっ!!!!!」
驚いて池から上半身を出してしまったのがまずかった。
地面に立ってニーソックスを穿いている金髪碧眼の一条院 茉理が、碧眼が赤く見えるほどに睨んでいる。
「ふふ…あたしを欺こうって魂胆…?」
やべえ、俺より結構背が小さい筈なのに大きく見えるよ…風もないのに長いツーテールが揺れてるよ…。
何より目を引いたのは足元の抉れた地面と手に持っている木製の槍。
「放爆砕…衝撃波を出す奥義よ?冬兎♪」
「あ、マジ?地震っぽいのそれ?いやあ〜俺参った!参ったから許して?♪」
笑顔のまま、茉理の木製の槍の穂先が俺の方を向く。
「し、け、い、けっ、て、い♪」
悲鳴が響き渡ったが、辺りには警察に通報してくれる民家もなく、お粗末。
どうも〜!家宝刀のツルギです!
金髪碧眼の従妹の登場とともに開幕でございます!
これからもどうぞよろしくですー!