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優梨奈誘拐事件⑧


「姫ちゃん、お願いだからもう暴れないで。もう一人で苦しまないで、姫ちゃんは一人じゃないよ」


その言葉に反応を見せる乙姫。

しかしーー再び衝撃波を放つ。


「キャッ!!」

「魔弾ーーマグナリボルバー」

カケルが魔導の閃光を放ち、衝撃波を相殺させるーー


「魔弾が効いて良かったーー」

カケルは安堵の表情を浮かべた。


しかし、喜んでばかりはいられなかった。


柚葉を乙姫の前に連れて行き、話しかけていれば正気を取り戻してくれると思っていたのだが本当に効果があるか分からなくなってきていた。


無駄なことを続けているんじゃないか?

こんな危険を犯して意味があるのか?

無傷で助けるなんてキレイ事言わなくて瀕死の状態で気絶させれば良いのでは?


そもそも今の乙姫に無傷どころかガチやって倒せるかどうかの状況である。


「本当に意味があるのだろうか・・・」


カケルが険しい顔をしていると、


「神崎カケル、思いは届くよ!姫ちゃんは絶対大丈夫」


「柚葉さん・・・」


彼女は真っ直ぐ見つめてきた。

その瞳は純粋な気持ちが表れていて自信に満ちていた。


ここまで人を素直に信じられるものなのか。

彼女の疑いなき心はまさに純粋そのものだった。



第十二メンバーとキーは千夏の元にいた。


あの衝撃波を潜り抜けて近寄るのは不可能だったーー


優梨奈のテレポートだけが頼りだが優梨奈のテレポートには欠点がある。


それは移動出来る範囲が半径二百メートル以内で移動先はランダムで選択されるため自分の意思で行きたい場所に行けないのである。


優梨奈もそれは分かっていたーー


兄のチカラになりたいが自分の能力には欠点があり万が一の場合は危険であると・・・


離れた場所から兄の背中を見守ることしか出来ない自分がいつの日の自分と重なって見えたーー



★ ★ ★



出来の良い兄と出来損ないの妹ーー


いつも比べられていた。


兄は成績優秀で運動神経抜群で学校中で人気者だった。


私はと言うと、勉強はあまり出来ない方で運動部に入ってもレギュラーを取れないでベンチで応援している感じだったので親はほとんど私のことを観に来てはくれなかった。


兄は県内でも有名だったので親どころか親戚も鼻が高かった。


ーーでも、そんな兄のことを妬んだりしなかった。


寧ろ、私は兄が大好きだ。


同級生や他の男子とも違い、カッコ良くて頭も良くスポーツ万能の完璧な男子。


それが誰よりも近くにいて毎日会える私は特別な存在だと思っていた。


親や先生には比べられて嫌味を言われるが気にならなかった。


だって、兄は特別だからと割り切った。


そう、兄は特別だからーーと、自分に言い聞かせて努力することなく最初から諦めて兄を好きだからと正当化して全て投げ出していた。


生まれ持った才能の差ーー


違うと分かっていてもそう思わずにはいられなかったのかもしれない。


兄の努力を知っていたから。


才能があるのに努力をされたら敵うわけない。


私は何もせずに毎日を過ごしているだけ。


それでも、兄の隣にいられるだけで私は幸せだ。




現実から目を逸らしたーー




★ ★ ★



辺り一面全て崩れ落ち何も無くなったーー


公園のそこはただの新地と化していてその中心には廃人のように猫背になり下を向き髪を前に垂らしている乙姫がいた。


彼女は誰も寄せ付けぬように魔導力で創り出したオーラを全身に纏っている。


更に見境なく衝撃波を幾度となく繰り出して周りを破壊尽くしていた。



今の彼女を止められるのは同じランクAのカケルと彼女が反応を示した柚葉しかいないだろう。



いつの間にか公園の外では敵味方関係なく皆が固まり魔導障壁をいく枚も重ねるように貼っている。


少しでもダメージを減らすために協力しあっているのだった。


カケルはそれを横目に柚葉を抱き抱え再び、チャンスを伺うーー


彼女を絶望させた闇は深い。


そこに希望を見出せるとしたらそれは友の声だけだ。


カケル自身も今こうしてこの鏡面戦線の最中、前を向いていられるのも支えてくれる仲間がいるからだ。


自分は一人じゃないと思えるだけで人はどれだけ強くなれるか、自分のことを思ってくれる仲間がいるだけでどれほど心強いか。


彼女も一人じゃない筈だ。


少なくともカケルの腕の中にいる少女は彼女の事を思ってくれている。



カケルは衝撃波を避けながら乙姫へと近づくーー


「姫ちゃん、辞めてよ!私よ、柚葉よ」


柚葉は乙姫に叫ぶがその声は彼女に届かない。


「何で姫ちゃん・・・やめてくれないの?」


柚葉は力の無い声を出した。


「大丈夫。絶対届いているはずだよ!」

「神崎カケル・・・」


魔弾を連射し披露を隠せないカケルーーそれでも必死に柚葉を励ます。


柚葉はガラス玉のような瞳でカケルを見つめた。



「ーーこれって、乙姫の魔導力が」

エリカは顎に手を当て難しい表情を浮かべたる。


「そろそろだと思ったわ。無駄なことだったのよ」

乙葉はため息を吐きながら公園内を走り回っているカケルの姿を見つめた。


「どう言うこと?」

「これだけの莫大な魔導力を放出していればいずれ無くなるに決まっているわ。何もしなくても勝手に姫ちゃんは止まることになるのよ」


「ーーその止まるって、どう言う意味で?」



「魔導力が空っぽになるってことは死以外ないでしょ」


乙葉とエリカの会話が聞こえた皆が絶句した。


息を合わせるように自然と視線は公園内へと向けられたーー

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