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優梨奈誘拐事件③ 乙姫可憐


可憐が誘拐されてから半年の月日が流れたーー


楽しい日々は永く続かなかった・・・



警察やマスコミを恐れた父親は全く娘には関心がなかった。

しかし、母親は探偵などに依頼し独自に娘の居場所を捜していたのだった。


そして、遂に娘を見つけた。


すぐさま警察に保護を要請しそのまま現行犯逮捕されたのだったーー


現場に踏み込んだ警察には疑問しかなかった。


とても誘拐事件とは思えない光景がそこにはあったのと誘拐された本人が解放されるのを断固拒否していた事だった。


現場に踏み込んだ警察が見たのは仲睦まじく過ごしている二人の姿。

部屋には仲良く二人一緒に写っている写真。

お揃いの食器やマグカップなどまるで同棲しているカップルのようだった。


「・・・お子さんは本当に誘拐されたんですよね?」

警察官は母親の勘違いではと疑った。


「当たり前です!! だからこうして探偵まで雇ってやっと捜し当てたんですよ」


「ーーお母さん、何で?」

「何で?って可憐ちゃんお母さんずっとあなたのこと捜したのよ。連れ去られてからずっとずっと心配して」


「嘘よ!! 誘拐された後、身の代金の要求を拒否したくせに!!」

「ーーそれはお父さんが」

「関係ない!! 私は捨てられたの。どこで何してようがもう関係ないでしょ」

「関係なくないわ。あなたはたった一人の娘よ。帰りましょう、お家へ」

「絶対帰らない!! もう家族なんかじゃないわ」

翔太に抱きつく可憐。

「しょうちゃんずっと一緒だからね」

「・・・可憐」

二人の元に警察官が来る。


「詳しい話は署で聞く。乙姫翔太来てもらおう」


「やだ、ヤダよ! しょうちゃん行かないで」

可憐は翔太にしがみ付き離れない。

「可憐ちゃん離しなさい」

母親の手を振り払い、翔太の服を引っ張る。

「しょうちゃん行かないでよ!私の幸せを壊さないで! しょうちゃん、しょうちゃん」

泣き叫び離れない可憐。

「可憐ちゃんいい加減にしなさいよ」

「お母さんこそ何で私の邪魔をするの!捜さないでほしかった。お母さんなんかに会いたくなかった!お母さんなんか大嫌い!」

母親は可憐の頬に平手打ちをした。

可憐は母親を睨みつけ、

「大嫌い!絶対家になんか帰らない。私はしょうちゃんとずっと一緒に暮らすの。誘拐なんかされてない。私が自分からついて来たのよ。だからしょうちゃんは無実よ」

「あなたのそんな言葉誰が信じるの?お巡りさん誘拐犯を連れて行って下さい」


警察官は翔太を連れてアパートを出て行く。


「しょうちゃん待ってよ!私を一人にしないでーー」

母親と警察官に抑えられる可憐。


「しょうちゃん!待ってよおおお」


可憐の叫び声がアパートに木霊したーー







可憐は自宅に戻された。





そこで待っていたのは父親から母親への離婚届けだった。




それから数日後ーー



「あんたのせいよ、あんたが誘拐なんてされるから全部狂ったのよ」

朝起きたら母親は首を吊って死んでいた・・・




可憐はまた家を飛び出した。


しょうちゃん、しょうちゃんに会いたい。



母親の持っていた僅かな所持金を持って翔太と住んでいたアパートの近くの警察署を訪れ翔太に面会を求めた。



「ーーしょうちゃん、会いたかったよ」

「・・・可憐」

可憐は涙を流して手で顔を覆っている。


「ちゃんとご飯食べてるのか? 少し痩せた?」

「ダイエットよ、可愛くなったでしょ!」

「ウチに帰ったんだろ? もう親に心配かけるなよ」

「・・・母親は離婚したの。 そして、自殺したーー私、本当に一人になっちゃった」

無理矢理笑顔を見せた可憐。


「ーー俺は何で君が辛くて苦しい時にこんな所にいるんだ。今すぐにでも抱きしめてあげたいのに」

「ーーその言葉だけで充分だよ」

「住むとこは? アパート分かるだろ、鍵はいつものとこにある。 それとキャッシュカードが俺の財布に入ってるから当分は暮らせるだけあるから」

「大丈夫だよ。心配しないで」

「取り調べだけだからすぐに出られると思うからアパートで待っててくれ。お金は遠慮しなくていい。元気な可憐に会いたいから」

「うん。 また会いに来るね」


次に会いに行った時に翔太から思いも寄らぬ言葉が出てた。


「略取・誘拐罪で懲役三年と判決を受けた。

ごめん、当分ここから出れそうもない」

「ーー三年も」

「いずれお金足りなくなる。父親の元に帰るんだ」

「うんん、父親の元には帰らない。ちゃんとバイトして働いてしょうちゃんのこと待ってるから」

「ーー可憐」

「大丈夫だから! 心配しないでよ」

「本当は、ここから出てから渡したかったんだけど、アパートのタンスの一番上の引き出しに箱があるから開けてみてよ」

「箱? 分かった」



アパートに戻った可憐は翔太に言われた通りにタンスの一番の引き出しを開けてみた。


そこには小さな綺麗な箱がありラッピングされていた。

開けてみるとそこには小さな宝石の付いた指輪が入っていた。


「・・・しょうちゃん・・・嬉しいよ」

止めどなく溢れる涙を止めることは出来なかった。寂しいけどこの指輪を見れば頑張れる気がした。


週に二、三度面会に行くのが日課になっていた。


翔太は、明らかにやつれていく可憐を心配した。


自分の親に連絡してとも考えて可憐に話したが、

「大丈夫だよ。 心配しないで」

いつも決まってこの台詞が出てる。


翔太の貯金は底をついた。

毎月の家賃、光熱費、水道料は定期的に引かれる。可憐はそれが分かっていてほとんど食費等を削っていたがいずれなくなると分かっていた事だった。


まだ十六歳で中卒の可憐には働き口は厳しいのが現実だったーー


家賃を滞納してアパートを追い出されたくない。二人の大事な家を守りたい。

いろんな店やバイトを探したが良い返事をもらえなかった。

例え小さなバイトでもこの時代は貴重な働き口だ。


そんなある日、いつも通り警察署の前を通った時に目に映った貼り紙があった。


「自宅警備隊・・・? 自宅警備員募集、こんなにお金貰えるの」


可憐はその足でそのまま中央警備本部に駆け込んだ。


その時の適性検査でランクA判定を受け晴れて自宅警備員となった。












乙姫 翔太とは自宅警備員となってから一度も会っていない。

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