この海の未来
むーん……サブタイにルビふれないのか。
黒いお家は建物の中もボロボロでした。
出入口の風のドアもないので、お家の中に入ってもあっついままでした。
お家の中は、白いお家とあまり変わらないようです。
床の上はどこもホコリがつもっています。
誰もいません。
「ぷー」
ぷーりあの声も壁にすいこまれるようにさみしく消えていきました。
壁も廊下も天井も古くて汚れていますが、どこもこわれているようすはありません。
塔の上にいくにはどこから登ればよいのでしょうか。
奥に入ってみましょう。
窓のない廊下は真っ暗で何も見えません。
壁をさわりながらゆっくり進んでいました。
ゆっくり、ゆっくり誰かいないか耳をすませながら進みました。
いつの間にかぼんやりとまわりのようすが分かるようになっていました。
お部屋に入るためのドアはあちこちにありましたが、どれもこわれていて開きませんでした。
ずいぶん奥に入ったところで階段を見つけました。
ぷーりあはちっちゃいので、階段を上るのは大変です。
ぴょんととび上がって、トンと上の段に着地。
ぴょんととび上がって、トンと上の段に着地。
ぴょん、トン、ぴょん、トン、ぴょん、トン。
何度もくりかえして階段を上っていきます。
ぴょんととび上がって、トン。
ついに階段をいちばん上まで上りました。
「ぷー!」
やりとげました。
ぷーりあは、がんばりました。
ガッツポーズです。
そこは少し広いお部屋でした。
天井がうすぼんやりと光っています。
お部屋にはドアが5つ並んでいました。
このお部屋は、それぞれのお部屋に入るための入口になっているようです。
ドアは開くでしょうか?
ドアの向こうに塔の上に行けるところがあるのでしょうか?
ぷーりあは一番近いところにあるドアに近づいていきました。
近づいてみるとドアが少し開いています。
ぷーりあのお家にあったドアのように、壁の中にすいこまれていくドアのようです。
ぷーりあはドアにさわってみましたが、ドアは開きませんでした。
「ぷー」
ドアを押してみると、どうやら動きそうです。
「ぷー!」
うんしょと力をこめて押すと、ドアはゆるゆると壁にすいこまれていくようにして開きました。
全部開いたわけではありませんが、ぷーりあが通るには十分です。
ドアの向こうはどんなお部屋なのでしょうか?入ってみましょう。
お部屋の中はまっくらです。
ぷーりあが一歩お部屋の中に入ると、ふわりとお部屋の中が明るくなりました。
お部屋の中には大きな丸い机がありました。
そのまわりにはいくつものイスが並んでいます。
ぷーりあの背よりもずっと大きいです。
巨人の机と巨人のイスです。
でも、お部屋の中にはそれ以外には何もないようです。
「ぷー……」
ちょっとがっかりです。
イスの上にのってみましょうか。
いきおいをつけてぴょんととび上がり、イスの上につかまりました。
このまま上にのっかって――がしゃーん。
――しっぱいしました。
ちょっといたいです。
でも、ぷーりあはつよい子なので泣きません。
気をとりなおして、もういちどやってみましょう。
今度はたおれたイスにつかまって、そのままその上にのっかりました。
うまくバランスをとって――ぴょんととなりのイスにとびうつりました。
今度はうまくいきました。
そのまま机の上にのぼってみましょう。
ちょっと高いですが――うんしょっと。
うまくいきました。
「ぷー」
ちせいのしょうりです。
ぷーりあはかしこい子です。
「おやおや……いったいどこの子だい?」
とつぜん音がしました。
丸い机のまん中に穴が開いて、何か筒のようなものがせり上がってきます。
ガチャンと音がして筒は止まりました。
筒はぷーりあの3倍くらいの太さで、ぷーりあの4倍くらいの高さがありました。
「ピリアが帰ってきたわけではないようだね……おや、これは……ルミティアの……?」
筒からつづけて音がしました。
ぷーりあに何か話しかけているようです。
しかし、何を言っているのか分かりません。
「ぷー?」
とりあえずあいさつをしましょう。
「ぷー!」
こんにちは!
ぺこりとおじぎをします。
「はい、こんにちは……参ったね。言語習熟が出来ていないのか。一体そんな子がどうやってこんなところまでやって来れたのか……」
何を言っているのか分かりませんが、何となく困っている感じが伝わってきます。
「ぷー?」
どうしたのでしょうか?考えましたがぷーりあには分かりません。
「ぷー!ぷー!」
何で困っているのか聞いてみましょう。
「おや、気をつかわせてしまったかい?ハハハ」
どうやらあちらには、ぷーりあの言っていることが伝わっているようです。
ちょっとズルいです。
「ふむ……こちらに残っている設備ではお前の言語習熟は出来ないし、話が通じないでは仕方なし。子供の相手は子供にさせるとしようか」
筒はちょっと考えているようです。
「4516番が目覚めていたはずだね……ここで目覚める最後の子になろう……今ルミティアの子が現れたのも運命か」
何か大事な事を言っているようです。
しかし、ぷーりあにはさっぱり分かりません。
「向かいの部屋にいるはずだよ。さあ、お行き」
筒から音がすると、さっきぷーりあが押して開けたドアがスッと音を立てて完全に開きました。
見ると向こうのお部屋にあったドアのが、スッと開くのが目に入りました。
「ぷー!」
びっくりです。
どうやらあちらのドアの方に行けということのようです。
さっそく行ってみましょう。
「ぷー」
お別れのあいさつをして、机の上からとびおります。
かんぺきな着地です!
ぷーりあは、そのまま走って部屋を飛び出しました。
「おやおや、せっかちな子だね。あの調子でこんなところまで来てしまったのかね。……ああ、ルミティア。私たちは間違ったのかもしれない。それでも願おう。この海のこの星の未来にあの子たちの幸いがあることを。ピリア、ドゥベル、ミュータス、そして……ああ、あの子の名前を聞くのを忘れてしまったね。……海の子らよ。願わくば大地の子らにも救いの手を……」
――長い長い言葉を聞いている人は誰もいません。
――長い沈黙の後、筒は元のように机の中に納まり、静かに部屋の灯りが消えました。
ここまでが第1章となります。
全体の6分の1ほどでしょうか。
次回は別視点の間章となります。